『星月夜の夢がたり』



緒言
 32編のきらきら輝いた、小さく綺麗な世界がぎっしり。星夜の章、月夜の章、夢夜の章の3章で構成されています。絵は鯰江光二。

ISBN 4-16-322970-1 C-CODE 0093
出版社 文藝春秋 価格 \1,429
ページ数 160ページ 発行年月 2004年5月


星夜の章
「春ガ キタ」
これ以上ないくらいロマンティック
「塀の向こう」
少年の冒険心理(どきどき)と、恐怖心が表現されています
「カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策」
100の設定で10を表現した様な、ディテールの素晴らしさ
「暗い淵」
「友人」と「友達」の表現が、この世界を過不足なく読者に伝えてくれます
「地上三メートルの虹」
少女の描写がとっても繊細です。見えない様で見える様で…
「ぬらりひょんのひみつ」
素晴らしい先生ですね!
「三枚のお札異聞」
切ないお話ですが…和尚さんは何故お札を渡したのでしょう…
「いつもの二人」
題名が「ぴったり」って感じ
「もういいかい」
誰しも(状況は違えど)同じ様な経験、ありますよね。心の奥がうずうず
「絵姿女房その後」
軽快な雰囲気。ご家来衆、もっと頑張れ!
「遙かな約束」
これも題名が良いです。そしてロマンティック!


月夜の章
「海から来るモクリコクリ」
少年と女の子。あっと思わせる女の子の言葉が良いですね。
そして絵がめちゃんこ可愛い!(特に眼が)
「鏡の中の旅立ち」
スーツと「私」のこころ、両者を上手く絡めて内面を表現しています
「萩の原幻想」
彼女の名前は「あき」。そこが良いですね!
「かぐや姫の憂い」
月から見る地球って、NASAが発表するくらい綺麗なのかな?
「赤い花白い花」
赤い花と白い花。愛しさと切なさと。
「チェンジ」
不思議なピエロが教えてくれた大切なこと。作者の心が籠もっています。
「エンゲージリング」
とっても強い作品。もう進むしかないでしょう!
「無言のメッセージ」
捉え方一つで無言電話も悪くないけれど…
「お天気雨」
でっかい奴。その表現に、タカヤの心理を上手く表れています
「隠れんぼ」
さっちゃんの存在と影響。そして遊びは隠れんぼって云うのが巧い
「天馬の涙」
ここで使われた絵が一番ステキです!


夢夜の章
「ある似顔絵描きのこと」
上手下手以外にも大切なことがあります
「真説耳なし芳一」
皆が互いを思ってのことだから…
「大岡裁き」
これぞ「裁き」の名に相応しい! (元は何処の国のお話でしたっけ?)
「いなくなったあたし」
自動ドアを使う辺りが良い感じ
「トライアングル」
意外な展開、意外な結末、そして納得。纏まりのある作品
「天の羽衣補遺」
世の中って、ホントむつかしい。。。
「大食いのこたつ」
関西弁を使ったことがポイントでしょう。
「目覚めの時」
もう、ただ一言。「時」ですね!
「アシスタント・サンタ」
アシスタントの存在、とても説得力があります
「遙か彼方、星の生まれるところ」
何故だか分かりませんが、一番作者の「想い」がこめられている様に感じます


『星月夜の夢がたり』
 短編集は収録の順番がとても大切、そしてそれがむつかしい。「春ガ キタ」は一番最初に持ってくるのに、とても適した作品でしょう。「カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策」は白眉! 設定が凄くしっかりしていて、登場人物の想いも綺麗に表現されています。楽しくて、切なくて、優しい、そんな作品です。「ぬらりひょんのひみつ」はどうやって収束させるのだろう、と興味津々で読み進みました。あまりに素晴らしい結末に感動。異聞的な作品も多く存在します。本来とは別の視線、たったそれだけのことで全く趣が変わります。読者は皆、「視点」を意識したのではないでしょうか。「赤い花白い花」はとても好みで、肌に合う感じがします。どこが好き、とかは説明がむつかしいのですが…。「大岡裁き」は凄い。法とはかくあるべきですね。
 本作は3つの章に分けられています。「エンゲージリング」は星夜に入れて欲しかった…とか、章の振り分けには若干思うところも正直存在します。3等分するのは、さぞかし作者を悩ませたのでは、と推測されます。均等に割り振らず、敢えて偏るくらいの方が良かったかもしれません。
 最後に挿絵について。作品との調和が素晴らしいです。時には空気の様に静かで、時には激しく主張して。普段は絵のない作品を読むことが多いので新鮮でした。



<yuri様のコメント>
 「大岡裁き」と「旧約聖書」と「三侠五義」については、専門の人にも聞いてみたのですが、はっきりこれが元ネタ、という立証は難しいとのことでした。旧約聖書が直接大岡裁きに影響を与えたとは思えないけれど、シルクロードを通じて中国経由で日本へ、ということは考えられるそうです。それぞれに状況設定が違うのが興味深いですね。私の話でも赤ん坊との最初の出会いについては違うエピソードにしてみました。

 「三枚のお札」では、和尚さんはもともとお守りとしてお札を渡して
やったのだったと思います。

 「星夜」「月夜」「夢夜」は、32編先に配列して、そのままだとどうも区切りがない感じなので3つに分けて便宜上の章タイトルをつけたと言う、大変シンプルな構成なのでした・・・。


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