『時計を忘れて森へいこう』



緒言
 クイーンの13の第3作として刊行された作品で、出逢いの一冊でもあります。3つの短編で構成されていて、自然と調和した世界が広がっています。

ISBN 4-488-01220-5 C-CODE 0093
出版社 東京創元社 価格 \1,600
ページ数 271ページ 発行年月 1998年4月


主要人物
学校関係者
  若杉翠 
  与田冴子
  松沼恵利
  坂崎先生
  中西先生

SEEK関係者
  深森護
  伊集院こずえ

その他
  篠田草平
  岩根加寿美
  工藤真
  佐久間弥生
  星野三郎 

東京から清海に越してきた女子高生
翠の同級生の女の子
翠の同級生の女の子
翠たちのクラスの担任
養護担当の先生


SEEKのレンジャー
SEEKのレンジャー


翠の父の教え子
草平の婚約者
ゆうゆう倶楽部に参加
ゆうゆう倶楽部に参加
ゆうゆう倶楽部のゲスト


「第一話」
主要人物
若杉翠、深森護(ミモリマモル)、与田冴子、松沼恵利、坂崎先生
ストーリィ(略)
 校外学習で時計を失くしてしまった翠。探しに戻った森で彼女はシーク協会の自然解説指導員(レンジャー)、深森護と出会います。シークの活動や護さんに興味を持った翠は、シークの人たちにすんなりと溶け込んでいきました。
 そんな或る日のこと、翠は高校で「アタシガ、コロシタ」と云う友人恵利の声、そして担任の坂崎先生が恵利をぶったらしき音を耳にします。その場に遅れて現れた友人冴子が「体罰は許せない」と訴えるものの先生は明瞭な答えをくれません。翠の話から護さんが示した推理は恵利の靴に注目したものでした。
感想
 翠と護さんとの出会い、とてもふわりとした優しい雰囲気に包まれていてステキです。時計をなくしたコトに気付きながら後で一人探す翠はスゴイですね。そして護さん。翠が失くした時計が古い物だと知った時にあんな台詞がすっと口をつくところに彼の魅力が現れているのではないでしょうか。その魅力を見逃さない翠も流石ですね!
 体罰を巡って騒ぎが大きくなり掛けるストーリィですが、体罰って云うのはホントに難しいと感じます。物事は見る方向によって随分と印象が違ってくるもの。何でも画一的に対処すれば良いとは必ずしも限らないない。そんなことを改めて認識させてくれるお話でした。


「第二話」
主要人物
若杉翠、深森護、篠田草平、岩根加寿美、伊集院こずえ
ストーリィ(略)
 シークの森の奥にある礼拝堂、そこを整備する森林実習に参加した翠。実習の最後に記念撮影をと皆が揃った時に聞こえてきたのは、翠の父の教え子でもある草平さんの悲痛な声でした。結婚を間近に控えた加寿美さんが事故で亡くなったとのこと。レンジャーのこずえさんに誘われた翠は、加寿美さんの友人に会うことに。一枚の写真が意味するものを巡るお話です。
感想
 本筋とは全然関係ありませんが、「べええつううにいい」って台詞がサイコ〜でした。こずえさんの台詞です。彼女の性格や雰囲気がこの一言だけでも十分表現されるってものですね。加寿美さんの人物像が徐々に形作られていく、その過程とこずえさんの行動・描写が綺麗に絡み合っていてとっても良い感じでした。ところで、翠は「夏休みの宿題」の答えをちゃんと見付けることが出来たのでしょうか? 大丈夫ですよね、きっと。…きっと(ちょっと不安)
 


「第三話」
主要人物
若杉翠、深森護、佐久間弥生、工藤真、星野三郎
ストーリィ(略)
 シーク開催の「ゆうゆう倶楽部」に参加した弥生さんが拒食症で入院したことを知った護さんと翠はお見舞いに行くことに。弥生さんはどうして食を受け付けなくなったのか。「ゆうゆう倶楽部」でのエピソードから護さんは一つの解釈を導きます。
感想
 星野先生はナカナカの人物ですね。どのシーンでも台詞が上手。カドが無く、それでいて主張はしっかり。ゲストにはもってこいって感じの人です。ストーリィの最初に記念文庫があり、予備知識を効果的に植え付けてくれます。それにしてもこの推理は…凄過ぎ。「これでもか!」ってくらい深読みしますね、護さん。でもミズナラの代わりが居てホント、良かった。


『時計を忘れて森へいこう』
 人が亡くなります。穏やかな森の自然と優しさに包まれた作品なのに人が亡くなる。それはとても哀しいのですが、そういったことも含めて「自然」の一部と云うことでしょうか。純粋なコテコテの本格で人が残虐に殺されても別段どうと云うことはないのですが、優しい作品では仮令老衰で亡くなっても結構堪えます。しかしその哀しさを埋めてくれるのが翠の思考、言動です。特に第二話は可成りの悲惨さが漂う作品です。護さんの推理はそれにさらなる追い打ちを掛ける様なもの。そこから悲惨さだけをそっと掬い取ってくれるのが翠の無垢な行動なのです。翠と護さん、とっても良いコンビですね。
 この作品では3話とも主要人物がペアとなっています。或る人物の周囲に何か良くないことが起き、それを別の人物が自分自身の過去や境遇と照らし合わせて考える。そして結果的に一つの道を見付けるんですね。森には色んな「繋がり」が満ち溢れているってことでしょうか。
 ところで題名、「忘れて」なんですよね。これってちょっと意味深、かな。
 今回何度も読み返して気付いたことですが、私がこの作品で一番好きなのは翠の心の声(特に疑問符が付く様なの)なんだな、と気付きました。



<yuri様のコメント>
 自然は、優しいばかりじゃない。でもすべてのものが懸命に、全力をあげて明日に向かっている。だから美しい。『人生は』『世界は』という言葉に置き換えていただいてもいいのですが、それが書きたかった作品です。だから、「死も自然の一部」という指摘は、まさしくおっしゃる通りだと思います。
 「忘れて」にした理由は、実は未だに私にも言葉で説明できません(^^;)。語呂がよかったというのももちろんあるのですが、単に「天から降ってきて、どうにも動かしがたかった」んですね。そのうちちゃんと分析してみたいものです。

管理人のコメント
天から降ってくる…凄いですね。
分析結果が出たら是非教えて下さいまし(^^)


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