オペラ座の怪人 (2010/4/17)



演目
オペラ座の怪人 (15回目)
劇団・劇場
劇団四季 , 新名古屋ミュージカル劇場 1階L列12番
同行者
なし
キャスト
オペラ座の怪人 高井 治
クリスティーヌ・ダーエ 沼尾 みゆき
ラウル・シャニュイ子爵 北澤 裕輔
カルロッタ・ジュディチェルリ 種子島 美樹
メグ・ジリー 磯谷 美穂
マダム・ジリー 原田 真理
ムッシュー・アンドレ 林 和夫
ムッシュー・フィルマン 青木 朗
ウバルド・ビアンジ 半場 俊一郎
ムッシュー・レイエ 寺田 真実
ムッシュー・ルフェーブル 鈴木 周
ジョセフ・ブケー 平良 交一
男性アンサンブル 金本 和起
佐藤 圭一
瀧山 久志
柏田 雄史
伊藤 礼史
野村 数幾
見付 祐一
女性アンサンブル 平田 曜子
古屋敷 レナ
籏本 千都
暁 爽子
河村 彩
松元 恵美
村木 真美
脇坂 美帆
松ヶ下 晴美
村瀬 歩美
吉川 瑞恵
齋藤 さやか
キャッチコピー
劇団四季のオペラ座の怪人は凄いらしい
グッズ等
特に何も買っていません
感想など
 まさかの二週連続、チケットを取ったのは月曜日の深夜(観劇5日前)でした。何気なく習慣となっているキャストチェックをしていたところ、クリスティーヌが沼尾さんに! 現在キャストされているクリスティーヌで唯一観ていないのが沼尾クリス。その歌声はウィキッドで、また、昨年のイベントでオペラ座の曲を歌っていたのもネット配信で聴いていて、期待できます。沼尾クリスは大阪で1週間+少々しか登場しなかったレアクリスです。次のオペラ座観劇予定が1ヶ月以上空いてしまうため、もしかしたらキャッチできないかもしれない。思い返せば、アイーダは開幕すぐに観に行かなかったせいで、阿久津ラダメスを見逃しました。ということで、遂に、戒めを解き放ち、一人観劇を敢行することになったのです。(というほど大げさなもんじゃありませんが)

 たった一週間ですが、キャストは沼尾クリスだけでなく、アンドレも増田さんから林和夫さんに。名古屋の開幕から二ヶ月間は林アンドレだったんですよね。久々です。全体的に見ても、これは現在のベストキャストと思うほど豪華な組み合わせです。

 開幕して、オークション。やはり私はこの雰囲気のオークションが好きです。粛々と。久々の一階席だったのですが、オークショナって意外と客席から見えやすい位置にいますね。二階席から見ていると、ずいぶん高見にいる気がしたのですが、そうでもないかも。北澤ラウルが見えやすい位置にいたのでチェック。格好いいですね(感想にすらなっていない) オルゴールの歌も、良い響きで伝わって来ます。

 舞台は変わり、ハンニバルの舞台稽古。クリスはどこ? 沼尾クリスは?! 一瞬どこにいるのか分かりませんでした。実際は、このシーンでどこにいるのか知っているため問題ありませんでしたが、ここで埋もれているのは実は悪いことではありません(私の解釈として) でも、カルロッタの代役で歌うことになるところ、そこは第一声で、がつ〜ん!!と観客をぶん殴る(失礼)くらいに綺麗な音を出して欲しいんです。そのインパクトを与えるために、「それが…いえないんです」(クリス)しか台詞も押さえられているのですから。
 歌い始めた瞬間、見ている側が「何っ?!」と思うくらい美しい声、それが私の求めるクリスティーヌの必須条件なんです。しかし、これまで見たクリスはいずれもインパクにかける感じで、もはや劇団として抑えめに演出しているのではないか、と思っていました。 ですから、実は沼尾クリスにも期待はあまりしていなかったんです。私が沼尾クリスに期待していたのはファントムと地下へ降りるシーン、「オペラ座の怪人」のシーンだったんです。そして発せられた第一声。

 どうぞ〜 おもいで〜を〜 こ〜のむ〜ね〜に〜♪

 私が求めていた、求め続けていたクリスティーヌの音がそこにありました。ほんっとうに綺麗で、ピュアで、奇跡と思える様な歌声です。あまりにも求めていたそのものだったので、涙がぼろぼろ出てきました。そして「ついに見付けた!」という気持ちが重なって、もう涙が後から後からとめどなく。最初からこんな状態で、私はどうなってしまうんだろう、と不安を抱きつつも一つ一つの音を逃さず聞いていきました。最後は

 あ あ あ あ あ あ あ 〜♪

 と歌いますが、ここの歌い方はキャスとされているクリスの中で、最も「あ」と「あ」が繋がった歌い方をしていました。苫田クリスが一音一音を明確に歌っていたのとまったく逆です。その代わりに、沼尾クリスは、最後の「あ〜」という音をしっかり伸ばすんですね。全体的に「流れる様な歌い方」にしたいんだと思います。幾つも「あ」が続き、

 あっ あ〜〜〜〜〜〜〜〜 あ〜〜〜〜い〜〜〜〜♪

 と、いきなり音が跳ね上がるロイドウェバーならではの曲ですが、この跳ね上がった音、この音が本当の音だったんだ!と感じるくらい美しい音でした。この高さなんですね。今更の様ですが、オペラ座の怪人を初めて観る様な、とても新鮮に感じます。沼尾クリスの良いところの一つが、これら高音をスムーズに出していたところです。

 歌い終わってマダム・ジリーの元に駆け寄るクリスティーヌ。「せんせい」と云っているんですね。知らなかった…。そうかぁ、マダムジリーは先生だったのか。たしかに、「マダムジリーはオペラ団のバレエ教師」でしたっけ。近くに居ると色々聞けます。

 そんな沼尾クリスですが、シーンによってはやや音のインパクトというか、迫力がもう一つの時もありました。問題になる様なレベルではなく、粗探し的な印象程度です。オペラ座の怪人、歌えっ!(ファントム)というところがそんな感じでした。これまた高音の「あ〜」が連続するのですが、比較的大人し目な気がしました。ただ、最後の最後は素晴らしい音。しびれます!
 そういえば、一階席から見るろうそくは、せり上がってくる様がとても綺麗でした。

 沼尾クリスの台詞は、とても歯切れが良くて聞きやすいです。そしてピュアな音なんですよ、台詞も。クリスはすれていちゃいけません。最初から力強いクリスとか、アクの強いクリスとか、違うんです。ビブラートもご勘弁を。どこまでシンプルな音を出してこそ、ファントムが惚れこんだクリスティーヌなんですから。

 クリスティーヌが連れ去られて行ったら、新しい二人のオーナの出番です。すごいっすごいっ!! 久々の林アンドレ、この声が私好きです。青木フィルマンと似た声質なのですが、作品の雰囲気的にぴったり合っています。増田アンドレも大好きなんですよ(念のため)
 さて、林アンドレに青木フィルマン、この二人って凄すぎますよ! 二人同時に歌うと、(ハモっていることは分かるんですが)一人で声を出しているかの様にすら聞こえます。タイミングはもちろんのこと、一音一音の出し方までがばっちり一緒で、声質も似ているから感動ものです。
 シーンは少し戻りますが、カルロッタがアリアを歌う時、変なタイミングでフィルマンが拍手しますが、アンドレがそれを制する時、増田アンドレは慌てます。林アンドレは落ち着いて制します。微妙な違いですが、興味深いところ。

 高井ファントム、種子島カルロッタも今回は調子が良いです。特に、高井ファントムの姿が見えない時の「音」(声のことです)が素晴らしかったです。

 また少しシーンを戻しますが、最初にクリスが代役として歌を聴いて貰うところ、アンサンブルの女性一人が、クリスを睨みつけていた様な気がしました。そっか、「何であんな小娘が!」と思う人も当然居ますよね。

 北澤ラウルについても触れておきます。前回同様、本当に素晴らしい響きです。歌いながら台詞を入れるのが特に上手いですね。たとえば

 だ〜れなんだ〜 この〜こえ〜は〜〜〜

などです。流暢なんです。

 話を沼尾クリスに戻しますが、地下でファントムのマスクを取ってしまいます。ここでファントムを見つめた彼女のまなざしには…おびえがありませんでした。他のクリスに比べて、その顔を嫌がったり、強烈に驚いたりはしていません。単純にびっくりしただけ、という感じで、同情とも少し違う感情の様です。母性本能的な愛しさ、という感じでしょうか。(いきなりそこまでの感情はないと思いますが) 二幕最後に「心許した」と歌いますが、それを感じさせるシーンでした。

 劇中劇二作目、イル・ムート。前回からなのですが、凄く良いです。歌の入り方がすっごい上手いの。顔が塗りたくられているから誰なのか分かりませんが、一人の女性が良い感じなんです。沼尾セラフィーモはというと、意外と良い感じに少年っぽい雰囲気でした。

 All I Ask Of Youでは北澤ラウルも良かったのですがやっぱり沼尾クリスの音に心奪われました。

 二幕に入って、マスカレード。実は前の人の頭が邪魔で少し見にくかったりしたのですが、それも含めて作品の景色になってしまうのがオペラ座の怪人という作品ですね。見える部分を見ていました。沢山見える部分もありましたので。ふと気付いたら、シーンが終わっていました。あれま。。。

 ドンファンの練習シーンです。沼尾クリス、良い声ですねぇ(しみじみ) しつこいくらいそう思います。

 お墓の前のシーン、Wishing You Were Somehow Here Againですが、ファントムの声がしてから、クリスはその声に捕らわれてしまうのですね。それまでと明らかに違う雰囲気、表情の沼尾クリス。しかし、そこにあったのは安らぎでした。クリスはファントムのことを、やはり父親に対してと同じように、愛しているんだな、と伝わって来ます。

 そこへ登場したラウル。沼尾クリスはラウルを必死で止めます。他のクリスにくらべ、すごく必死に止めます。これはどちらのために必死になったのでしょうか。もしくは両方? そこまでは読み取ることができませんでした。
 一階席から見ていて思ったのですが、ファントムが放つこけおどしの炎、結構怖いですね。

 シーンはドンファンへ。クリスティーヌの歌い方が変わりました。気合いを前面に押し出している感じです。第一声にすごく力を入れています。デビューしたばかりの頃との違い、ファントムに対して罠を仕掛けているという事実が、彼女を変えたんだと思います。沼尾クリスのこの解釈はすごく共感できます。
 やがて一緒に歌っている人間がファントムだと気付きますが、ここので恐がり方は誰よりも強い表現です。一瞬歌が止まるほどで、空気が一変します。逃げ方も強く、ファントムも力ずくで引っ張りますね。メリハリが強くて良い感じ。

 またしても捕らわれたクリスティーヌ、ファントムと共にボートで…と云うシーン、とても神秘的で美しいです。どのシーンを切り取っても絵になるんですよ、今更云うのもなんですけどね。

 最後は三人の対決です。もう観ていて心が痛くなってきます。沼尾クリスは、ファントムを本当に愛しています。それが十二分に伝わってくるから辛いです。ファントム,ラウルの歌う音楽から一人外れ、

 え〜んじぇるおぶみゅ〜じっく♪

と歌う彼女の苦しい気持ち、胸が張り裂けそうです。それでも自分を選んでくれと訴えるファントムに対し、遂にクリスティーヌは

 に〜くしみに〜か〜わ〜る〜〜〜っ♪

という言葉を。この言葉が本当に本当に重いんです。だって、沼尾クリスはファントムを絶対に憎んでなんかいないから。ファントムのことも愛していますよ、絶対に。彼女が口にした「憎しみ」という言葉は、そのまま「愛」でした。愛の見る方向が変わっただけ。愛が憎しみに変わってしまったのではないんです。そう云っているだけ。つらいですよ、これは。

 そして最後のシーンです。私がクリスティーヌをどうしても好きになりきれなかったシーンです。わざわざ戻ってきて、ファントムに指輪を返すんですよね。傷口に塩を塗る様なこの行為、どうしても納得できませんでした。その解釈が違っていたことに初めて気付きました。
 何が違っていたのか分かりませんが、沼尾クリスが指輪を返す時、これまで観てきたクリスの振る舞いとは違う何かを感じました。確かなことは、彼女は指輪に想いを込めました。それは、ドンファンの劇中、ファントムがクリスに指輪をつけてあげた時と同じ雰囲気でした。指輪を返す前、ふと、自分の手の中にある指輪に目線を移した様な気もしました。
 クリスティーヌは指輪を返しにきたのではありません。彼女の想いを、愛情を、少しだけ指輪に宿して、ファントムに渡すため戻ってきたんですね。

 メグがファントムの黒のマントを払うシーン。これは前回気付いたのですが、クリスティーヌが脱ぎ捨てていった白のウェディングドレスと重なる様にしてマントを払っていますね。とても絵になるのですが、解釈が難しいところです。二人の気持ちがそこで一つになっているのか、白と黒だからダメなのか。どちらなのでしょうか。真実はマスクだけが知っている…ってとこですか?(2010/4/19記)

Return