鮎川哲也
戌神はなにを見たか |
ストーリィ
女性のヌードを専門にしたカメラマンが殺される。手掛かりとなったのは瓦煎餅と推理作家協会にまつわるアイテム。煎餅の文字を元に被害者の行動を探る。徐々に見付かる参考人。しかし何れもアリバイを有していて、犯人とはなりえない。アイテムの捜査も難航。日本の推理小説史にも触れた作品です。
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感想
捜査の過程で、常にアリバイを調べる。この辺りに重点を置き、表現するのが鮎川流でしょうか。鬼貫警部も登場しますが、登場人物の一人、と云う程度です。全体的にとても纏まっていて、捜査も堅実・着実。変化もあり、これと云って不満な点はありません。敢えて云うならインパクトがもう少し欲しい、と云うところでしょうか。
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宛先不明 |
ストーリィ
印刷会社に勤めていた男が殺された。捜査を進めるにつれ、被害者が誰かを恐喝していたらしき事が判明。やがて会社の派閥争いの策略により人生を狂わされた一人の男が捜査線上に浮かぶ。二転三転する証言。しかし男のアリバイを証明する手紙が発見された。
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感想
純粋な本格ミステリィの作品。アリバイを確立させるのは手紙。手紙でアリバイを証明すると云うのは比較的珍しいと思います。トリックは分かりやすく、若干インパクトに欠ける感はありますが、その見せ方は秀逸。事件を紐解くため、一つ一つ真実で周りを固めていく様がテンポ良く表現されています。鬼貫警部は最後に出てきて、美味しいところを持って行きます。無理に登場させなくても良かったかと。
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王を探せ |
ストーリィ
事故現場を目撃され、恐喝された亀取二郎。月々何万円もの支払わねばならぬ、そんな状況を打破するため、強請屋を殺害する。捜査に乗り出した警察は、すぐさま容疑者の名前を割り出すことに成功。亀取二郎なる名前の人間を捜した結果、同姓同名の人物が4人いることが分かった。しかもそれぞれが鉄壁のアリバイを持つ。捜査が壁にぶつかった頃新たな殺人が。現場には「王」の字が残されていた。
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感想
倒叙あり、アリバイあり、ダイイングメッセージありの本格です。とにかく豪華。長編が二つ書けそうなくらい濃密な作品です。犯人の名前が最初から分かっている。にも関わらず、誰が犯人なのか分からない。その一見矛盾した状況が読者を強く作品の世界に引き込んでくれます。一応鬼貫警部も登場しますが、単独行動と云う感じではなく、警察小説と云う感じもします。
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朱の絶筆 |
ストーリィ
放送作家から一躍流行作家への道を歩み出した篠崎豪輔。名が売れるに従って、どんどん不遜な態度を取り、周りもそれに逆らえない状況に。その傲慢な態度が、多くの人間の恨みを買う。時は夏。豪輔のクラス軽井沢に人々が集った日、豪輔は何者かによって殺害される。動機の面から見れば誰が犯人であっても不思議はない。警察も到着し、捜査も一段落付いた頃、第二の殺人が…。
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感想
星影龍三が登場しますが、出番は殆どありません。それだけは少々残念ですが、出番を必要としないくらいに読み手を惹きつける作品です。舞台は軽井沢の別荘。動機は沢山。連続殺人。名探偵。本格ミステリィの代名詞的な作品と云えます。しかし堅苦しい作品ではありません。豪輔が成り上がり、人に恨みを買う過程がしっか描かれているためです。とてもしっかりとしていて、且つ読みやすい作品です。
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積木の塔 |
ストーリィ
喫茶店で毒殺されたやり手の営業マン。警察は現場から姿を消した一人の女性の行方を追う。やがて浮上した一人の容疑者。しかし鉄壁のアリバイが立ちはだかる。如何にして犯行を遂げたのか。そして…何故。
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感想
電車を使ったアリバイ物の作品。鬼貫警部が活躍する典型的パターンです。しかし、この作品の良さはアリバイトリックよりも、寧ろ動機にあると思います。事件の背景、嵌り込んだアリ地獄の様な状況が、とても受け入れやすいものでした。時刻表が例によって沢山登場します。これをしっかり見ている人っているのでしょうか?
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人それを情死と呼ぶ |
ストーリィ
収賄事件に絡んでいた夫が、箱根で女性と心中自殺していた。打ち拉がれる未亡人と、夫の妹。しかし現場にあるべき筈の物が見付からなかったことに疑問を持った二人は、独自に調査を開始する。しかし犯人となりうる人物には、常に鉄壁のアリバイが立ちはだかる。やがて第二の殺人が発生する。
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感想
事件に疑問を持った理由が好きです。変な物が現場に落ちている…というパターンはとても受け入れやすく、誰でも疑問を持つもの。しかし逆のパターンは気付くのがむつかしい。だだからこそ、気付いた時には「調べてみよう」と思わせる力があります。調べると云っても、完全な単独ではなく、ところどころで警察に報告する辺りは現実的。鬼貫警部も登場してしまう豪華さ。ただ、最終的な事件の動機は少々受け入れ難いものでした。意外性には富んでいます。
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砂の城 |
ストーリィ
鳥取砂丘で見付かった女性の他殺死体。一緒に居た筈の男性は姿を消していた。警察の捜査により一人の容疑者が浮上する。しかし、鞄と鍵と週刊誌、三つの小道具によって成り立ったアリバイに、偶然も手助けをし、とっかかりすら掴めない。ここで鬼貫警部に事件の見直しが託された。
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感想
単純には成り立たないアリバイ。鞄、鍵、週刊誌。三つ全て揃い、初めて成立する綱渡りに近いアリバイです。普通ギリギリのアリバイという物は、すぐに壊れそうな危うさを感じますが、今回はそれを微塵も感じさせません。三段論法の様なアリバイでしたが、分かりにくいこともありません。アリバイ崩しだけで作品が纏まっているため、若干地味でしょうか。
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準急“ながら” |
ストーリィ
隕石に当たって負傷した人を助けた女性。昔の美談を取り上げた雑誌記事が、事件へと繋がる。岐阜県各務ヶ原市で殺害された男性が発見される。しかにその男性は、生まれた田舎で元気に生活していた。
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感想
死んだはずの男性が生きていた。と云うことは、すんなりと明らかになります。が、何故そんなことになってしまったのか。何が起きていたのか。それが少しずつ明らかになっていく過程が良い感じ。ストーリィは容疑者一人一人、順番にアリバイを調べていく感じでストレートな印象です。
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黒い白鳥 |
ストーリィ
東和紡績の会社社長が殺害された。東和紡績は社長のワンマン経営で、組合とは現在ストライキの真っ最中。人柄は横柄で、殺される原因も幾つか浮かぶ有様。警察は、殺害の直前に銀行の貸金庫を二度訪れていることなどを突き止め捜査を進めますが、決定的な事実が見付かりません。膠着状態を打破するため、鬼貫警部を遊軍助っ人として動員します。
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感想
前半は会社社長の殺害、組合との衝突などがメインとなったサスペンス的な雰囲気を漂わせる展開です。しかし鬼貫警部が中盤に登場すると、がらりと本格らしい雰囲気にかわります。もちろん、前半としっかり融合したままにです。事件を表面的に見てきた前半、細かいことを地道に確認し追求していく後半。相反する様ですが、完璧なまでの一体感は素晴らしいの一言です。非の打ち所のない、極めて完成度の高い作品です。
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