深谷忠記




阿蘇・雲仙逆転の殺人
ストーリィ
壮と美緒のシリーズ作品。許嫁者の二人が婚前旅行に出掛けた頃から事件が表面化してきます。愛知県の伊良湖岬で見付かった人間の手首。その後も残りの手首と足が発見されます。殺害されたのは資産家の女性。捜査線上に浮かぶ一人の容疑者には鉄壁のアリバイがありました。何故被害者は切断されたのか。壮が考える人になります。
感想
新本格が台頭し始めるまで、最も人気が高かった雰囲気の展開でしょう。東京などの都会から離れた場所、地方で殺人事件が発生。犯人は露骨に怪しい人がいるけれど、アリバイや何らかのトリックが潜んでいる。推理は理論的というよりは直感的。それを裏付けすることにより捜査を進展させる。壮と美緒の微妙な関係がそれに花を添えています。トリックは比較的大きな物ですね。
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札幌・仙台46秒の逆転
ストーリィ
北海道の函館で発見された一つの白骨死体。捜査により1年前に失踪した女性の物と断定されます。時を同じくして不祥事によって退職を余儀なくされた元刑事が、寝台特急「ゆうづる」の車内で殺害される。美緒の知人が関係者だったことから、警察に助言を求められる壮。鉄壁のアリバイに挑みます。
感想
壮と美緒の進まぬ関係。本作では文字通り、まったく進みません。もう少しイヴェントがあった方がシリーズ物として面白いかと思います。列車を使ったアリバイトリックですが、西村京太郎とは違い、そこに別の要因を含ませるのが作者の特徴なのでしょうか。時刻表トリックより、そちらの方がポイント高い気もします。作品全体でみると、少々回りくどい感じもします。
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南紀・伊豆Sの逆転
ストーリィ
美緒の父・精一の教え子でもあり、壮の友人でもある世良。旅館を経営する彼の実家に招かれた笹谷一家と壮。時を同じくして、女性が毒殺される事件が発生。女性を現場に呼び寄せた手紙にはイニシャルT・Hが記されていた。
感想
事件に巻き込まれた人間が主人公の壮・美緒と近しい人物なので、緊迫感があります。珍しく壮も積極的に事件の調査を進めまています。「S」の逆転はややインパクトに欠ける感が拭えませんが、しつこく繰り返すことによって、或る程度の存在感を示せていると思います。
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横浜・長崎殺人ライン
ストーリィ
横浜の公園で、大手電器メーカのエリート社員が殺された。捜査線上に浮かんだのは、常に被害者のライバルであった久保木。美緒の友人の兄で刑事の薬師寺は、壮にアドヴァイスを求める。横浜と長崎で起こる事件。そこに立ちはだかるアリバイを崩すことが出来るのか。
感想
壮と美緒はあまり出番がなく、少々淋しい感じ。主人公は美緒の友人の兄・薬師寺刑事。美緒のファンである彼が捜査に当たり、妹の薦めに従って(嫌々ながらも)壮に相談する。その展開はこれまでと変化があり楽しめました。が、シリーズ物として考えると、どうしてもメインキャラの弱さが気になるところです。
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「法隆寺の謎」殺人事件
ストーリィ
聖徳太子を祀る法隆寺。美緒の父と壮が在籍する慶明大学の考古学研究室から、法隆寺研究に関わる資料が盗まれた。中でも木管の一部は当時のことを知る貴重な資料。研究室の大学院生・手塚から、一枚の写真を預かって欲しいと頼まれた美緒は、否が応でも事件に巻き込まれることになった。
感想
壮が珍しく積極的です。美緒のためならここまで動けるのか、と思えるくらい動きます。シリーズの中でも、かなり充実度の高い作品と云えるでしょう。法隆寺、その歴史的な謎に関しては、殆ど引用に限られ、著者自身の意見を組み込んだり、再度ストーリィを引き出したり、と云うことはありません。この辺り、昨今の流行の差異を感じます。
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「万葉集の謎」殺人事件
ストーリィ
美緒の元に届く奇妙な葉書。「怨」と書かれ、万葉集の一節へと続く。差出人を探る美緒だが、目星を付けた相手が殺され五里霧中。事件に深く関わってしまった美緒。真実を明らかにするため壮も立ち上がる。
感想
万葉集。ミステリィでは比較的よく取り上げられる題材の一つです。この作品の良いところは、万葉集と事件が上手く融合していること。両者が互いを邪魔することなく、良いパートナとして成り立っていて、無理がありません。バランスのとれた作品です。
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「邪馬台国の謎」殺人事件
ストーリィ
邪馬台国。日本最古の謎。魅了される者は数知れず。九州へ行った壮と美緒が出会ったのは、美緒の父・精一の元教え子たち。彼らは自然を破壊するレジャーランド建設計画に反対し、選挙活動を行っていた。推進派との対立。邪馬台国の謎と開発計画とが絡み合い、事件は起こる。
感想
邪馬台国に関する資料の引用が豊富な作品。綺麗に纏められているので、詳しくない人や、さほど歴史好きでない人でも受け入れやすいでしょう。ストーリィとは直接関係ありませんが、引用されていた星新一氏のジョークはとても面白いですね。誰でも知っている謎であり、誰も知らない謎。これからも多くの作家がこの謎に挑むことでしょう。
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札幌・鈴蘭伝説の殺人
ストーリィ
恋人から貰った薬を飲んだ男が毒死する。男が最後に残した言葉は「スズ…」。その後もスズランが関係した事件が連続して発生。事件の背景を探った結果、数年前の北海道に辿り着く。昔の事件と現在の事件の間の関係は本当に存在するのか。
感想
壮と美緒のシリーズ作ですが、序盤は出番がありません。それでも物足りないことはない。事件が発生するまでの恋人たちの時間、とてもしっかりと描かれています。レギュラー陣が登場すると、事件はやや小さくなった様に感じます。思い切って、別のシリーズとして作り上げても面白かったのではないかと思います。
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熱海・黒百合伝説の殺人
ストーリィ
寝台特急「あさかぜ」に一人で乗った美緒。彼女が乗った個室には黒百合の花がおかれていた。不審に思った美緒は、壮に電話で相談し、列車のトイレへおいておくことにした。やがて夜が明け、列車は東京駅に。しかし、美緒の隣部屋からは、女性の死体が発見されていた。
感想
黒百合。この花の伝説を紐解くと、安土桃山時代の佐々成政に辿り着くところがとても面白い。百合の花。さらに黒。不吉な印象を与えるには、これほど適したお花も少ないでしょう。ストーリィは最初に大きな謎が出て、後は比較的平坦な印象。勝部長刑事も登場し、いつも通りの雰囲気でした。ちょっと殺人が軽いかと思います。
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函館・芙蓉伝説の殺人
ストーリィ
美緒の担当する作家・秋野芙蓉子は、ある若者の婦女暴行事件に関する証言をしていた。若者のアリバイに関わるその証言が元で、若者は無実を証明できなかった。それから数年後、若者は東京の公園で死を遂げる。啄木の詩を残して。
感想
ダイイングメッセージとアリバイを取り上げた作品ですが、気に入ったのは章の最初に散りばめられたお花のエピソード。章のタイトルにもなっているのですが、「矢ぐるまそう」、「忘れなぐさ」、「すいせん」、「白ゆり」、「あざみ」のステキな名前に因んだエピソードは、心をキュンとさせてくれます。忘れなぐさは特にお気に入りです。
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