西澤保彦
実況中死 |
ストーリィ
ミステリィ作家の保科匡緒、チョーモンインの神麻嗣子、警部の能解匡緒の3人が活躍するシリーズ第2弾。不倫中の夫を追いかけていた主婦の岡本泰子に不幸の追い打ち、雷が落ちてきます。奇跡的に無事だったものの、他人の見ているもの、聞いているものが頭の中に流れ込むようになってしまいます。不審な行動をとる人物と<パス>が繋がり苦しむ彼女を救うのは、もちろん神麻さんです。
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感想
やっぱり気になるのが3人の距離。そして神麻さんの言動です。純情で、無垢で、真っ直ぐ過ぎて、おっちょこちょい。よくぞこれ程までに可愛いキャラクタを作り上げ、さらにその可愛さを維持できるものです。でもこの作品、決してそれだけではありません。キャラクタの魅力におんぶしていないのが素晴らしい! ミステリィとしての完成度はかなりのもの。伏線があちこちに張られています。行動は見えれども姿は見えぬ犯人、一体誰なのか…。フーダニットに拘って読んでも十分楽しめるでしょう。
最後に神麻さんから一言。「根拠を求めるのは、愛のない証拠ですっ」。はい。 |
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念力密室 |
ストーリィ
チョーモンインシリーズ3作目。サイコキネシスによる密室殺人をテーマにした短編集です。出逢いの話も集録されています。
「念力密室!」:保科匡緒、神麻嗣子、能解匡緒の3人が出会った事件 「死体はベランダに遭難する 念力密室2」:花火の最中に起きた事件 「鍵の抜ける道 念力密室3」:神麻さんが見付けた密室内の死体が消失 「乳児の告発 念力密室4」:殺人の起きた密室に残されていた赤ん坊 「鍵の戻る道 念力密室5」:保科の元妻・聡子が泥棒に入られる気配を感じる 「念力密室F」:頭がもやもやした状態の密室 |
感想
チョーモンインと短編集。比較的相性が良い様です。複雑になりすぎないところがベターでしょう。今回は珍しく恐ろしい話が2作ほど集録されています。やっぱりこのシリーズはハッピーエンドか笑ってすませられる程度にして欲しいです。短編集だけに視線が変化します。保科さんの視線で進む場合もあれば、能解警部の視線で進む場合も。能解警部の視線は彼女の魅力が、可愛さがとても良く表現されて満足です。今度は神麻さんが視点の物も読んでみたいな、と思ってみたり。
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夢幻巡礼 |
ストーリィ
チョーモンインシリーズ4作目。能解警部の部下、奈蔵渉。能解警部とは同じ大学で既知の間柄。彼らが十年前に遭遇した、悲惨な事件。そこで消えた一人の人物から、奈蔵の元へでんわがかかって来たのは、事件から数えて十年後のことであった。
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感想
シリーズ作品とはいえ、主要人物が殆ど出てこない、外伝的な作品です。保科さんや神麻さんは、出番すらありません。主役は奈蔵と云う警察官。能解警部ですらその脇役です。この不思議な構成に、ちょっぴり不満だったのは最初のうち。徐々にその世界にひきこまれ、シリーズがどうとか、そんなことはどうでも良くなりました。何と云っても、エピローグの使い方が巧いです。
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転・送・密・室 |
ストーリィ
チョーモンインシリーズ5作目。展開、急を見せる短編集です。
「現場有罪証明」:同時刻に別の場所に存在するリモート・ダブル能力とアリバイ 「転・送・密・室」:時を飛び越えるタイムイレイザー能力と密室 「幻視路」:保科の元妻・聡子は大学時代の恋人に出会い、不思議な依頼を受ける 「神余響子的憂鬱」:スキマーが殺されたチョーモンイン神余は、神麻と組まされる 「<擬態>密室」:能解警部の部下、百百太郎が見合いをして窮地に追い込まれる 「神麻嗣子的日常」:保科の世話を焼き、炊事洗濯を教え込む神麻さんだが… |
感想
主要メンバがバランス良く登場してストーリィが進む「現場有罪証明」と「転・送・密・室」。どちらもシリーズの中の一作として、据わりの良い作品です。しかし、そのまま単純には進まないのが西澤作品。「幻視路」では聡子が主役です。聡子の性格、現在置かれている状況を巧く説明しつつ、その上で作品を引き立てるところは流石。と、ここで新たなキャラクタ神余響子が登場。チョーモンインのことが少しずつ明らかになって行きます。さらに「<擬態>密室」では、百百太郎までもがチョーモンインの存在を知ることに。秘密組織がこんなに知れ渡ってしまうなんて…と淋しさを感じたところに待っていたのは最終話。思いもしなかった結末です。この一連の流れ、これこそが西澤氏のシリーズ作品の魅力ではないでしょうか。それぞれの作品のつながりが、非常に強いと思うのです。シリーズ作品全てを合わせ、初めて一つの作品となる。次作は一体どんなシーンから始まるのか。待ち切れません!
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生贄を抱く夜 |
ストーリィ
チョーモンインシリーズ7作目。
「一本気心中」:変装能力と壊れた夫婦生活の果て 「もつれて消える」:夢と不倫と超能力のエロティックサスペンス 「殺し合い」:親戚の結婚式で話題に上ったのは小学生の時の担任教師 「生贄を抱く夜」:私の(表向きの)親友が結婚式を挙げる日、悲劇が… 「動く刺青」:夜な夜な女性の裸体を求めて念写をしていた男は刺青を見付ける 「共喰い」:別々のテーブルに座っていた3人がいっぺんに死亡した 「情熱と無駄のあいだ」:食い意地の張ったテレポータ女性のささやかな復讐 |
感想
トリックは出尽くした。新しいトリックはもう生まれない。そんな悲観的な声も聴かれる本格ミステリィですが、この作品、このシリーズを読んでから云って頂きましょう。本格とSFが見事に融合したシリーズ作品で、キャラクタの魅力も十二分。超能力者は誰なのか、どんな能力なのか、この2点がポイント。そこを抑えつつ、「謎解き」の要素がしっかりしている現代本格ミステリィです。「情熱と無駄のあいだ」が最もこのシリーズらしい雰囲気。読んでいて楽しくなります。謎解き要素が強いのは「生贄を抱く夜」。お気楽なのは「もつれて消える」など、趣の異なる作品が収録されています。
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