西澤保彦




両性具有迷宮
ストーリィ
なつこシリーズ第2弾。ある日コンビニで小説家・なつこは事故に遭う。事故と云っても交通事故ではない。宇宙人がミスを犯し、爆弾を爆発させたのだ。その爆弾は、なんと「女性に男性器を生やす」と云うとんでもない代物だった。同時にコンビにいた十数人の女性たちも同様の被害に。なつこはすんなりその事実を受け入れたが、動揺する女性が大半を占めた様子。やがて同じ被害にあった女性が次々に殺害されて行く。
感想
SF小説であり、官能小説であり、ミステリィであり。こんな小説、他に例はないでしょう。「くだらない」と一言で片づけるのはちょっと待て。そこにはしっかりと西澤ワールドが広がっています。が! 性描写が相当量を占めているのも事実。その辺りに抵抗のある方は控えた方が無難かもしれません。可成りはちゃめちゃで楽しい雰囲気なので、気楽に読むと良いのではないでしょうか。くれぐれも、公共交通機関利用中に読んで興奮しません様に…。
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黄金色の祈り
ストーリィ
チューバ、トランペット、オーボエ…ことある毎に次々とパートをかえる主人公。何でも出来ると思っていた当時の自分、全てが中途半端と思える今の自分。やがてアメリカの大学へ留学。詩を覚え、帰国後は紆余曲折の果て作家に。何故主人公はいつまで経っても満たされないなのか。
感想
どこまで作者自身の話なのでしょうか。もしかしたら殆ど? もしかしたら全然? 読み進めるほどに、主人公と作者を置き換えて捉える自分に気付きます。それくらい主人公の心境心理が、説得力をもって、切々と綴られているからです。この作品は西澤保彦の他作品とは、雰囲気が大きく異なります。私が「作家、西澤保彦」に求めているものとは必ずしも一致しません。しかし、これ程読ませる作品を創造することもできるのか、と驚きです。本当に凄い作品です。完全にミステリィでない、例えば純文学に近い作品を一度書いて欲しいな…と思いました。
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猟死の果て
ストーリィ
青鹿女子学園の3年生が、全裸の状態で絞殺されていた。続いて起こる、第二第三の事件。捜査に当たる警察も、一人の警察官の行動が統制を乱して停滞気味。それを尻目に新たな事件が発生する。被害者にミッシングリンクは存在するのか。それぞれの人間が置かれた立場や視点が、事件をより複雑な物へと変えていく。
感想
人物描写の妙。とにかく嫌な人が沢山出てきます。近くにいて欲しくないと、強く思う人が何人も出てくる。勿論、一緒にいても良いと思える人、何でもない普通の人だって出てきます。警察小説という、どちらかといえば同じ様な人物ばかりになりがちなジャンルですが、そういう感じはまったくありません。西澤氏にしては珍しい、正統派的な作品といえるでしょう。
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異邦人 fusion
ストーリィ
実家へ変える日の空港、羽田。影二がかけた電話から聞こえてきたのは姉の声。一冊の本を買う様に頼まれる影二。空港内の書店でそれを見付ける。姉の恋人だった女性の著。私小説の雰囲気を強くにおわせる内容に戸惑うが、先を読み進める。やがて到着する飛行機。大地に降り立つ影二だが、そこは23年前の世界。彼の父親が不振な死を遂げた3日前だった。
感想
過去へタイムスリップしてしまった主人公。それは彼の父が死んだ年。と、これだけならよくある設定です。何人もの作家が手を変え、品を変え、目線を変えたストーリィです。でも、西澤氏が描く世界は、良くある単純なストーリィ、単純な設定であるわけがないのです。今回も、ルールがとてもしっかりしています。もちろん、それが重要な意味を持ちます。少々ややこしい感があり、作者の意図したことを完璧には理解できなかったのが残念。是非、もう一度読み直したい一冊です。
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リドル・ロマンス
ストーリィ
美形で長身のハーレクイン。クライアントの望みを叶える代わりに、しっかりと成功報酬を受け取ります。ちょっと不思議な形の報酬を。

 「トランス・ウーマン」:結婚式当日に花嫁が逃げて土壇場キャンセル
 「イリュージョン・レディ」:若くして結婚したことが、夢想の学歴を生む
 「マティエリアル・ガール」:太ってしまったことに悩む女性の本当の悩みは?
 「イマジナリィ・ブライド」:記憶をなくした自分は同性愛者だったのか?
 「アモルファス・ドーター」:イジメにあって殺された同級生の死と責任
 「クロッシング・ミストレス」:あの時別の男性を選んでいたら、私の人生は…
 「スーサイダル・シスター」:妹は人の心、私の心を読むことが出来るのか
 「アクト・オブ・ウーマン」:会社の同期と同じ時期に節目を迎え、今に至る
感想
魅力的なシリーズ作品を数多く生み出す西澤氏ですが、本作はそれらのシリーズとは少し違う設定です。しかし、やっぱり面白い! ちょっと不思議なハーレクインとその能力は、少し現実離れしていますが、そこが西澤氏の本領発揮の場所。この作品の世界を、正しく、確実に、そして自然に読者に伝えてくれます。設定だけでもドキドキできるのに、さらにクライアントの悩みやシチュエーションが、それに拍車を掛けてきます。最後に意外性に満ちた結末と、すっきりした解明。もう、流石としか云いようがありません。
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笑う怪獣
ストーリィ
僕らは怪獣に遭遇してしまった。どうして怪獣なんかが居るんだって? そんなこと、僕らが知りたいよ。居るんだから、仕方がないじゃん! 年甲斐もなくナンパに明け暮れる3人組の物語。

 「怪獣は孤島に笑う」:怪獣に遭遇し孤島に取り残されてしまった
 「怪獣は高原を転ぶ」:せっかく良いところだったのに…高原を暴れる怪獣
 「聖夜の宇宙人」:ナンパに成功した女の子は…食べる食べる食べる…
 「通りすがりの改造人間」:3人組の一人に彼女が…でも何かやつれてない?
 「怪獣は密室に踊る」:結婚したのも束の間、マンションに閉じこめられてしまった
 「書店、ときどき怪人」:彼女に会うため、読みもしない本を買いに書店へ日参
 「女子高生幽霊奇譚」:雨さえ降らなければ…
感想
怪獣が出てくる? くだらない。そう片付けてしまうの簡単です。でもちょっと待って! 本当に怪獣っていないのでしょうか? 怪獣という言葉の定義からすれば確かにいないのかもしれませんが、本当にいないの? もしいたら、もしいたとしたならば…こんな世界・こんな事件が本当に起きるかも。そう考えて、しかも気楽に読んだら、きっと楽しくなりますよ。
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ファンタズム
ストーリィ
有銘継哉はリサを殺した。でも何故なんだろう。何故リサを殺してしまったのか。そもそも、リサは僕が初めて手にかけた相手なのだろうか。いや、殺すのはリサだけで良いのだろうか。連続女性殺人事件の幕が切って落とされた。
感想
連続殺人が発生した物の、奇妙な犯人の行動に刑事が頭を悩ませる。シンプルに云えばそんな展開なのですが、西澤作品なので、とんでもない仕掛けがあるのでは、と少々身構えすぎたようです。「え?! これで終わりなの?」。ちょっと拍子抜けしてしまいました。身構えすぎた私の読み方もあまり良くなかった様に思います。
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