猫目石   <すけっち> 〜序章 日本名で「猫目石」英語では「キャッツアイ」と呼ばれる宝石。 それは本当に猫の目のように見える…。怪しく、何か心の中を 見透かされるような光を放っている。 …ここに1つの「猫目石」が一粒ついたプラチナの古い指輪が ある…それを持った少年の不思議な日々、冒険、悲劇、はたまた 喜劇がはじまろうとしている。少年の名前は… 少年の名前は「エルシュ」年は12歳。去年、母親が亡くなり さびしさから夢見がちなことばかり言うようになった。父親は やさしい人だったが少年にはまだそのことを気付くほど大人では なかった。 指輪は母親の形見で父親が皮紐にくくりつけてエルシュのお守り として渡してくれた。 それを少年は首から下げている…。 「お父さん、そこに小人がいるよ。」少年の言葉に彼は 「いやしないじゃないか。」と答えた。 そういえば、彼女、少年の母もそんなことを話ていたのを思い出 していた。でもいるわけがない。 「もう寝る時間だ、おやすみ…」 ちいさなベットの中で少年はつぶやく。 「いるわけがない…だけど」  だけど…もしかして嘘でも、母に会えるかも知れないから エルシュにはそう思えてならなかった。その時… 「お母さんと会いたいのか…い…?」と胸のあたりから声が聞こ えてきた。それは首から下げた指輪から… 気が付くと真っ白い長い毛の大きな猫が目の前にいる。 「エルシュ、久しぶり…」人懐っこい笑い顔。 お母さんが亡くなるのといっしょに姿を隠したフィリップだった。 「僕はこの宝石の…そんなことよりもお母さんに会いたいんだろ。」 「旅にでるんだ。今すぐに。」 せかされて僕はパジャマのままで小さなこの部屋の扉を開くと… 家の廊下のはずなのに? 広がるのは不思議な湖が広がっていた。他にも見たこともない花々が… そして、「一人と一匹の冒険が始まった。」 「おい!おまえらどこのどいつだぁ〜〜!」 足元から声が聞こえてきた。 「俺をふむなーー!」 それは愛らしい?お花だった。 「あっ!ごめんなさい」 「おっ…素直だな…」 と言った瞬間に猫のフィリップが花を…食べた。 「口がうるさいやつは食べるにかぎる。」 「…旅の先行きが…」と不安になる少年であった…。 <舞奈> 「ねぇ、エルシュは花って好き?」 「うん。すごくキレイだもんね・・・。」 少年は冷や汗をたらしながら答えた。 「まだいっぱいあるよ。一緒に食べようよ!」 少年はまともに答えたことを後悔した。次の日、辺り一面に咲いていた 花は見事に無くなっていた。 <夕月勉斗> 「フィリップ・・・お腹が痛いよ・・・・・。」 「おまえが食いすぎなんだ。」 フィリップはじと〜っと少年を見ていた。 「だ、だってフィリップが一緒に食べようって・・・」 「僕はうるさいやつを食べよう、っていったんだ。」 言い訳する少年をさも面白そうにからかった猫はひょいと仰向けに倒れ ている少年のお腹へ飛び乗った。 <すけっち> 「グフッ!」 口から種が飛び出してきた。 「うむ。植えてみるかぁ」 フィリップは前足で土に埋めていた…ニョキニョキ…ニョキ? それはとても大きく育って…「なんっだろう…」 少年は空を見上げてつぶやいた。 <夕月勉斗> 緑色のツタは見る見るうちに絡まりながら天高く伸びて行く。 空の青と白へ先が霞んで消える。 「大冒険に行ってみるかい?」 フィリップは仰向けのままの少年ににかっと笑ってから、壮大な天空 を見上げてみせる。 「むかし、おとぎばなしで読んだことがあるよ。」 少年は目を閉じて少し微笑んだ。フィリップももう一度、少年を見つめ 直し、にかっと笑った。 <舞奈> 「よっと!」勢いよく立ち上がった少年は、 巨大なツタに手をかけて登ろうとした・・・が、 「わっわっわ〜〜〜!」 数10センチのところで落ちてしまった。 少年は腕力がなかった。 「なにやってるんだよ、エルシュ!そんなことじゃ超神水は手に入ら ないぞ!!」 <桜月夜> 落ちたエルシュは思った。 「超神水なんか要らない!」 「こんな腹の立つ木は切り倒すべし!」 そしてエルシュは何処からともなく日本刀を取り出し叫び声と共に一閃!! 「我が道に敵な〜〜し!!」 <すけっち> ふっと木は消えてあたりは元にもどっていた。 「エルシュって…」少年は思っていた。 僕は何のために旅に出たんだろう、その時。目の前に は、新しい扉が開いた。そこから、いい匂いが なんだかうまそうな…またお腹がすいて… 「懐かしい…」とエルシュがつぶやく。少年も大好きな 匂いであった。 <goa> そう、それは果物の王様『ドリアン』の匂いだ。 フィリップはその匂いに気を失いそうになるのを必死にこらえている。 (猫の嗅覚は人間の何倍でしょうかね?) エルシュはゆっくりと扉に手を掛けて、手前に引いた。 扉の開いたその瞬間、フィリップはエルシュに一言残して気絶した・・・ <夕月勉斗> 「キャッツ・ダイ・・・」(猫・死ぬ・・・) 「フィ、フィリップーーーーーーーーーーーーっっっっ!!」 フィリップが崩れ落ちるのをエルシュは慌てて抱きとめる。 しかし、少年の絶叫をもってしても猫の瞳は開かれない。 (このままじゃ、大変だ!) 少年はすっくと立ち上がり扉とは反対の方向に一目散に駆け出した。 <JENNIFER> 「いったいどれくらい走っただろう。」 無我夢中でエルシェは走っていた。 フィリップを助けたい。 しかし街がなかなか見当たらない。 見渡せば青々と茂った木々ばかり。 時々吹き抜ける風が肌を震わす。 <goa> 腕の中のフィリップは口元から泡を吹き出し続けている。 『絶対に助けるからね・・・もう少しだから・・・』 エルシュはひたすら前へ前へと走り続ける。 目の前では、光が溢れ、森の出口がもう少しだということをエルシュ に告げる。 もう少しで森を抜けるそのときエルシュは声を聞いた。 「これ、そこを行く若者よ。なにをそんなに急いでいるのじゃ?」 エルシュは立ち止まり、声の主を捜す・・・ <桜月夜> 声の主を捜すエルシュに更に声が問賭ける。 『これ、何処を見ている。私はこっちじゃ。』 その声が聴こえたと同時に目の前の大樹に変化が起こった・・・。 <すけっち> まばゆい…光が…まるで天にも届くほどに…。 <夕月勉斗> その光の中から真っ白な顎髭を蓄えた老人の姿が浮かび上がる。 顔には深い彫りが刻まれ、一目で見れば厳格そうな表情が見てとれる。 しかし、瞳は孫を見る老人のそれでとても温かい、癒しの瞳である。 少年は安堵し、腕の中で眠る猫を老人に差し出す。 「フィリップを・・フィリップを助けて!!」 <舞奈> 「ふぉっふぉっふぉっ、いやじゃ。」 <JENNIFER> と言うと目の前から霧のように消えていった。 なんて不親切なジジイ・・・・・もとい老人なんだ!! 一体なんだったんだ。 あの癒しの瞳は? 気がついたら腕の中にいた生命体に異変が。。。 <金坊> フィリップは死んでいた。もうどんなに泣こうが、喚こうが、彼は 戻らない。優しい嘘なんかはいらない。辛い現実なんかもいらない。 欲しかったのは、本当。僕が僕でいられる場所。でもそれももう叶わ ない。今此処にあるのは誰もが同情して、一緒に上っ面の涙を流して くれるような現実。結局そんなものなのさ。 ふと空を見上げると、さっきまで晴れていた空が曇っていた。 みるみるとその雲は晴れた空を覆い尽くしていったと思うと、つい には雨が降り始めた。 <夕月勉斗> 痛み。 確かに芽生えた震えは、雫によるものだろうか。 否。 少年は夢から覚めようとしているのだ。 本当。 真実。 正真正銘の世界。エルシュが望む、必要とされる世界は・・・ <すけっち> …世界は緩やかに流れる 遠くで父の呼ぶこえが聞こえる… 「フィリップ…」 見てきた世界がまぶしい光に包まれる。 「エルシュ…」光の中から母の声が。 「エルシュ!何やってんだよ〜」と フィリップの声が、小さな不思議な光の玉が 少年の胸にふわっと入っていく。 「人は亡くなっても君の心の中で生きているんだよ…」老人の声。 「さぁ戻るんだ…君の本当の世界へ」 <金坊> 僕の中で何が生まれたのか?何が消えていったのかわからない。 でもとにかく何かが変わったんだ。そう思った。 <夕月勉斗> 「気がついたようじゃの。」 エルシュはしわがれた老人の声によって目を覚ました。 「ぼくは?・・・ここは?」 まだ少年の頭の中は混沌としており、とても物を考えることが出来る 状態ではないようだ。それを見て、白衣の老人は顎髭を撫でながら、 ゆっくり諭すように言った。 「今はお眠り。次に目覚めたときに全てを話すことに しよう。お休み、エルシュ君。」 <舞奈> 「君の持つ宝石が、本来の役割を果たす時が来た。」 老人の声とともに宝石がかすかに光りだす。 その光は、夜にうごめく猫の目のようだった。 「それは持ち主が悲しみから逃げようとする弱い心を吸い取ってしま うのじゃ。その光はお前さんが強くなった証拠。もう立派な大人とい うことじゃ。」 光はだんだん大きくなる。 「本来の役割って?」 「子供も心を失った大人を封じ込めるのじゃ!」 光は僕を包んでいた。何も見えない。 光がきえた。僕は今、宝石の中にいるようだ。 精霊とでもいうんだろうか。 「あーっ!綺麗な宝石が落ちてるぅぅぅっ!」 かわいい少女が僕を見つけて拾った。 この子を誤った大人にしてはいけないと思うと、いつのまにか外に出 ていた。 「やぁ、僕の名前はフィリップっていうんだ。」 おわり