正義の資格  プロローグ  その日の街はいつもとは違っていた。いつもなら深夜から朝方にかけて続く暴走族の迷 惑行為も、二時頃には終わっていた。今まで黙っていた警察がついに重い腰を上げ、暴走 族の取り締まりに乗り出したのだ。  街の道という道全てに配属された武装警官は数百人。街全体を取り囲み、暴走族の一味 と思われる車やバイクの暴走を止めた。止められた車はただちに包囲され、乗っていた数 人の若者を引っ張り出した。 「何すんだよ!俺は何もやってねえ!!」 「黙れ!」 手錠を掛けようとした警官の手を強引に振りほどいた若者は、ポケットからナイフを取り 出そうとした。しかし、その行動は一つの銃声によって阻まれた。後ろにいた警官がナイ フを狙って撃ったのだ。 「そっ、そんなに簡単に撃っていいと思ってんのかよっ!」 「私達はそれを許された人間だ。」 警察官の中に一人、黒いコートを着た人物が言った。 「本部長!この辺りの奴らは全員捕らえました。」 「もう居ないか?」 本部長が報告してきた警察官に注意をする。その直後、車の隅に隠れていた一人の若者が そばにあるバイクにまたがり走り出した。 「小癪な。」 本部長は拳銃を構え、逃げた若者に向けて発砲した。若者は豪快に転げ落ち、血を流しな がら倒れた。それを見た若者は逆上し、手錠をしているのにもかかわらず暴れ出した。 「醜いな。」 本部長が左手を挙げた。包囲していた警察官全員が拳銃を構える。 「これが、正義だ。」 静かな夜空に、銃声と悲鳴が鳴り響いた。  ストーリー 「ちょっとついてきな!」 授業が終わった後、僕はいつもどおり数人の上級生に校舎の裏に連れていかれた。 「金は持ってきたかい?心優しいた・だ・よ・し・君!」 壁に叩きつけられ囲まれた僕は、ただ震えることしかできなかった。 「どうなんだよっ!」 茶髪の人にパンチを入れられる。 「いっ、いやっ、そんなっ、家にはお金なんて・・・。」 もうだめだ。震えがが止まらなくて、立っていられない。 「あぁっ!」 唇にピアスをした人が怖い顔で睨んでくる。僕は恐怖のあまり、漏らしてしまった。 「おいおい、中二にもなっておねしょかよ。」 「ギャハハハ、だっせー。」 馬鹿にされている。もういいだろ?早く僕を解放してくれよっ。 「・・・うっく、えっく。」 涙まで流れてきた。もういやだ。 「泣くことないだろ?俺はただ金持ってきたかってきいいただけだろ?」 なぜか上半身裸の人が更に脅しをかけると、ガムを噛んでる人が止めた。 「もういいいだろ。ここで大泣きされて先公に見つかるとやばいぜ。」 この一言で上級生達は帰ってしまった。僕は解放された安堵感からか、泣き崩れてしまっ た。  家に帰った僕は、ずっと部屋にこもりっていた。晩ご飯の時間になっても食欲が無い。 僕の通っている猿月中学校では、弱いものいじめが頻繁に行われていた。中でも僕、練馬 正義はよく狙われていた。この事は担任の先生もよく知っている。しかし、先生は何もし てくれないのでたちが悪い。 「畜生っ!畜生っ!!畜生ーっ!!!」 力が欲しい。仕返しできる力が。だけど体の弱い僕に出来ることなんて・・・。 「はぁ。」 思い悩んでいると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。でも、僕の部屋の入 り口からではない。僕とベッドの間の空間から聞こえてくる。 「何?誰かいるの?」 「失礼しますよ。」 何も無い所から返事がきた。僕が首をかしげていると、目の前の空間が縦に切り裂かれて いった。 「ひっ!」 僕は後ろに逃げたが、すぐに壁にぶつかる。空間の切れ目から白い霧が出てくると、その 霧はみるみると人の形を創り出した。そして霧は霧ではなく、人になった。 「どうも、私はエルドといいます。」 エルドと名乗ったものはどう見ても人にしか見えなかった。細身で長身、白のタキシード に白のシルクハットっと、どう見ても怪しいけど。 「何?人間?それとも・・・悪魔?」 「私は人間ではありません。かといって、人間でいう天使でも悪魔でもありません。」 へ、変なおじさんだ! 「そうですねぇ。強いて言えば、人間の心に棲む精霊?とでもいいましょうか。」 精霊?精霊って一体何だ? 「その精霊が一体僕に何の用だ!」 「おやおや、ひどい言われようですね。私はあなたの願いを叶えにきたのですよ。」 えっ?何? 「あなたは今、力が欲しいと思いましたね。しかも、いじめの仕返しの為に。」 「な、何でそれを・・・。」 この人、僕の心を読んでる。やっぱり人間じゃない。 「いじめはいけない事だ。そんな事をする人間には、正義の制裁のするべきだ。私が力を 貸しますよ。」 制裁? 「君の名は?」 「た、ただよし・・・」 しまった。つい答えてしまった。さっきからこの人のペースにはまりっぱなしだ。 「そうですかか。正義と書いてただよしですか。実に良い名だ。」 ただよし・・・せいぎかぁ。 「どうします?私の力を使いますか?あなたは正義の味方になれるのですよ。悪い人たち を放っておけば、あなたみたいな人達が増えるだけです。」 この人は怪しい。でも、言っている事は正しい。僕は・・・、 「僕は正義の為に戦うよ!えぇっと、名前なんだっけ?」 「エルドですよ。よく言いましたね。では、あなたに力を与えます。」 そう言うと今までピクリとも動かなかったエルドが、僕に近づいてくる。 「僕は何をすればいいの?」 「そのままじっとしていてください。」 エルドは右の掌を僕の額に当てた。 「細胞分解!」 「えぇっ?」 エルドが叫ぶと僕とエルドの体は霧の様になり、そして消えていった。しばらくすると体 は戻っていたが、エルドの姿は無かった。 「どこ行ったの?エルドー!」 『私は正義の心の中にいる。』 どういう事? 『正義の細胞と私の細胞は合体した。私は正義の中にいる。これで正義は強力な力を使え る様になる。使う時は心の中で私を呼んでくれ。それと、私の声は正義にか聞こえないの で注意してくれ。』 えっ、何?何も変わってないような気がするけど・・・。ねぇ、答えてよ、エルド! 『おやすみ。』 ・・・何か不安。  次の日、僕は一日の授業が終わると逃げるように教室を出た。不良達は、いつも授業が 終わる頃に校舎裏に集まる。そこを待ち伏せするのだとエルドはいう。不良っていうから には、授業さぼってもう集まっているんじゃないのかなぁ。 『心配しなくていい。早く現場へ。』 もう着いたよ。 「あっ!」 物陰にい隠れて覗いてみると、案の定そこには不良がいた。でもまだ二・三人のようだ。 『まだ行ってはいけないよ。』 なんで?すごい力があるんでしょ? 『だからです。正義は人間には無い力を得ました。その力を使っても、化け物扱いされる だけですよ。』 どうすればいいの? 『姿を変えましょう。変身ヒーローのようにね。』 そんなことできるの? 『細胞を少し変化させるだけです。そうですねぇ。変身ポーズでも決めましょうか。』 そんなの必要なの? 『雰囲気ですよ。そうですねぇ。左手を広げて中指を額に当て、右手は広げて前にかざし て下さい。そして細胞進化と叫べば、私の力で変身させます。』 僕は言われた通りにやってみた。 「細胞進化!」 エルドが心の中で了解!と言う。すると、僕の体が昨日とお同じ様に一瞬霧になった。そ の霧はだんだんと鎧の様な形を創る。そして一秒後、僕は白い全身甲冑で覆われていた。 右腕には上に沿った刃物が、左腕には小さな六角形の盾が付いていた。腹の部分には、黒 い玉があり、背中には小さな翼がある。一体何に使うの? 『深く考えなくていい。この体の半分は私。戦闘状態に入れば体が勝手に動く。しかし、 正義の考えが私についてこなければ力は半減する。』 解ったよ。じゃぁ、行こうか。 「てやぁぁぁっ!」 僕が不良に向かって走り出すと、五メートルあった距離が一瞬で縮まった。 「なっ、何だてめぇ?!」 一人の不良が振り向く所を、加速が付いた右フックでぶっ飛ばす。すると、右腕に付いた 刃物から衝撃波が出て、隣にいた不良をもぶっ飛ばした。 「っやろぉ!」 残りの一人が背中から襲ってくる。 『背中に力を込めろ!』 言うとおりにすると、背中の小さな羽が伸びて相手を突き飛ばしていた。 「ぐはぁっ。」 あっという間に倒れこむ三人。 「これが力か!」 僕は喜びのあまり、体が震えていた。この圧倒的な力があれば、いじめなんて怖くない。 『そうです。この力を使い、不良達を懲らしめてやりましょう。』 「やい!不良ABC!!いつもやってる弱い 者いじめはやめろっ!!!」 「ふ・ざ・け・る・な・よぉ!」 立ち上がった不良ABCは、手にナイフを取って僕に向かってくる。 『さぁ、今こそ正義の鉄槌をっっっ!』 僕はバラバラに向かってくる三人に対して、右腕の刃物を縦に構える。 「まずは一人目ぇ!」 そして不良Aに向かって超スピードで走り抜けた。相手はナイフを振り下ろす間もなく、 真っ二つになる。 「二人目ぇ!」 もう一方へ走り抜け、不良Bも真っ二つ。 「ラストォ!」 不良Cはナイフを盾にしたが、ナイフごと真っ二つ。わずか一秒の間に、三人は断末魔を 上げて倒れた。 「僕をいじめた罰だよ!」 僕が勝利の余韻に浸っていると、周りが騒がしくなってきた。どうやら仲間が来たみたい だ。十人はいる。 「なっ、おい!不良A!不良Aぇぇー!」 あいつの本名は不良Aだったのか? 「この人殺しがぁーーーー!」 仲間が殺されて逆上したのか、全員が襲ってきた。 「この人数はキツイかぁ。」 とまどっていたら、すでに囲まれていた。一人目のパンチを左の盾で受け止める。しかし 一人分しか受けきれず、周りから攻撃を食らう。どうすればいい? 『力を盾に集中しなさい!』 盾に力を込めると、一つの角からビーム状のソードが出てきた。そして盾を中心にネズミ 花火の様に回りだした。ソードはだんだん伸びてゆき、不良全員を切り刻んでいた。 「すごい・・・。」 大量の血が地面に落ちる。数秒後には、白い甲冑が赤になっていた。 「ふぅ、すっきりした。」 『裁きは終わった。そろそろ帰ろう。』 不良をこらしめた僕は、誰にも見つからない様に霧状になって家まで帰った。  次の日の朝、テレビのニュースでは猿月中で起きた殺人事件の事で持ちきりだった。 「あらやだ、正義の通ってるとこね。」 食卓を囲んで、母親が呑気な事を言う。僕は持っていた箸を落とした。 「どうしたの?やっぱり怖いのね。今日は学校行くのやめなさい。」 怖い。確かに怖い。だって、犯人は僕なんだから。まさか犯人が隣にいるとは思わないだ ろう。 「食欲・・・無い。」 僕は朝食を残して自分の部屋に戻った。 「ふぅ。」 僕はベットに寝ころび、考えた。殺すつもりじゃなかった。ただ、見返してやりたかった だけなのに・・・。変身すると、エルドの影響か人が変わったようになる。あれが僕の本 当の性格なんだろうか。 『間違った事はしていない。』 人が死んだのに・・・。 『正義の為だ。』 でも・・・。 『放っておけば、絶対あの中から殺人犯が生まれる。』 エルドと話していると、母親の声が聞こえてきた。 「学校から電話よーっ。事情聴取するから、生徒は学校に集合だってーっ。」  学校に行くと、凄い数の警察官がいた。教室の全てを使い、個人事情聴取が行われた。 「君は、よくいじめられていたそうだね。」 「・・・はい。」 僕の番になって、最初に聞かれたのがそれだった。 「殺された人の中で、いじめられた人はいるかな?」 「僕はほとんどの人からいじめられているので・・・。」 「そうか。じゃぁ昨日の授業後、なにをしていた?」 「真っ直ぐ家に帰りました。・・・僕を疑っているんですか?」 「そうじゃないが。ただ、まず最初に被害者に恨みを持つ者の犯行だと思うだろう。」 うっ。確かに僕がやったんだけれど。 「あいつらは悪者なんだ。死んでもよかったんだ。」 「確かに悪いかもしれない。被害者が死んで良かった人もいる。ただ、それを悲しむ人も いるんだ。」 僕はまだ、言ってる意味が解らなかった。  次の日、街の公民館では集団葬儀が行われた。生徒は全員出席だった。被害者の父兄や 生徒の一部は涙を流している。そうか、このことか。あいつらが死んで悲しむ人がいる。 ほんとにあれで良かったんだろうか。あれがほんとに正義なのだろうか。 『あれで良かったのだ。』 違う。違うよエルド。僕の為に関係ない人が悲しんでるんだ。そんなの、何か違うよ。も っと他にやり方があるんじゃないの? 『甘いやり方は後悔するだけだ。』 僕は、何を信じて良いのか解らなかった。  葬儀の帰り道、人気のない夜の路地裏から女の子の叫び声が聞こえた。物陰から覗いて 見ると、同じ学校の女の子が高校生ぐらいの男四人に囲まれている。しかも女の子は、僕 が前から思いを寄せる子だった。名前は・・・知らない。 「よーオネーチャン。俺の弟分が殺されたんだけどよ。何か知らねーかよ。」 不良1が女の子の肩を掴んで問いかける。 「しっ、知りません!」 体をねじって不良1の腕を強引に振り払おうとするが、不良2が後ろから押さえつける。 「まあまあ、そこらのホテルでゆっくりと話きてあげるからさぁ、へへっ。」 僕はこの光景を黙って見ている事しか出来なかった。 『助けないでいいのかい?』 だって、あの力は・・・。 『人が死ねば悲しむ人もいる。確かにそんな考え方もあるが、その前に悲しみを受ける人 がいる。この場合、彼女がそうだ。彼女は全く関係の無い被害者で、一生傷を背負って生 きていくかもしれない。それを防ぐのは、正義以外のなにものでもない。』 でも・・・。 『さぁ、正義の鉄槌を!』 その時、僕には不良3がハンカチを取り出し女の子の口元に当てようとするのが見えた。 『さぁっ!』 僕はとっさに変身の構えをとっていた。 「細胞進化!」 叫んだ瞬間、僕は不良の中に飛び込んで攻撃していた。 「ぶへぇ!」 高速のキックを食らった不良3は派手に吹っ飛んでいった。吹っ飛んだ方向に向かって右 腕を振り、衝撃波で追い打ちをかける。女の子はなにが起こったのか解らないようで、キ ョトンとしている。 「なんだ、貴様は?!」 仲間が倒されて逆上した不良1は 、勢いよく突進してきた。 「なんのぉ!」 僕はそれを盾を縦にして受け止め、回転ビームソードで切り刻んだ。勢いよく飛び散る血 は、女の子にもかかっていた。 「きゃーーーっ!」 現状を理解した女の子は、走って逃げていった。せっかく助けてやったのに・・・。 『これでいい。正義とは、社会の裏にあるものだ。』 僕は残りの不良に体を向けた。 「あと二人。」 脅しをかけたつもりはないが、不良2は逃げようとしていた。しかし、それも叶わなかっ た。今まで黙っていた不良4が不良2の首を片手で掴み、握りつぶしたのだ。 「あっ!、がぁっ。」 不良2が息絶えると、不良4は不良2の体を拳で突き飛ばした。そのガッチリとした長身 から繰り出されるパンチはかなり重そうで、骨が折れる音が聞こえてきた。どうやらこお の人がボスらしい。 「普通の人間じゃない・・・。」 「甲冑を着ている奴が言う言葉では無い。」 なるほど、一理ある。 「いざ、勝負!」 ボスの言葉とともに、戦いが始まった。僕は無数のパンチやキックを出すが、相手の長い 腕に牽制せれて届かない。 「くそっ!」 そして、あの強烈なパンチが何発もくる。甲冑のおかげで痛くはないが、距離が離れてし まう。 「距離・・・そうか!」 今度は距離を置いて衝撃波で攻撃した。 「乱れ衝撃波!!!」 右腕を振り回して連続で出す。しかし、ボスには届かなかった。 「甘いっ!」 一喝すると、気合で相殺してしまった。 「なぜ、我々の行動の邪魔をする?」 ボスは立ち止まったまま問いかけてきた。 「あなた達が悪いことをしようとしたからに決まってるじゃないですか。」 「お前には関係のないことだ。」 「確かに、関係無いことかもしれない・・・でも、」 「女を助けて、お前の何になる?」 うっ。僕は言い返せなかった。 「正義の為とでも言うか?はっ、警察みたいなこと言うなよ!そぉいうのを偽善って言う んだよ!!」 偽善?僕がやってることは間違っているのか? 『あなたは間違ってはいません。世の為には悪を排除すべきなのです。それが、正義なの です。』 そっ、そうだよね。僕は間違ってなんかないよね。 「僕は正しいんだぁぁぁ!」 無意識のうちに、体はボスに向かっていた。しかし、攻撃は効いていない。それどころか 弱まっているようだ。 「信念が足らんのだ!正義とは、信念を貫き通すことだ!!」 ボスの気合の叫びで、僕は吹き飛ばされる。為す術無しか・・・。 『月は出ているか?』 へっ? 『月は出ているかと聞いている!』 もう夜だから月は出てるけど・・・。 『力が弱まってきている。正義の迷いが私との波長を狂わせた為だ。』 僕の所為で攻撃が効かなかったのか。 『力を補充して攻撃するしかない。月光は私にとって特別なんだ。月に背を向ければ、力 を蓄える事ができる。』 丁度僕はボスと月の間にいた。体勢を整えてボスに向き直ると、腰にある玉に力が集まる のを感じた。 『強力な光線を発射します。腰を落として、体を固定させてください。』 言われたとおりに腰を落とす。ボスはこの行動を黙って見ているわけでもなく、拳を構え てこっちに向かって走ってくる。 「怖じ気づいたかぁ!」 一瞬で距離をつめてきたボスは、これで終わりだとでも言うように腕を大きく振りかぶっ た。 「ぼでぇがガラ空きだ!」 『今だ!』 僕とエルドが同時に叫ぶと、腰の玉から二メートルはある大きな光線が出てボスを襲った。 「うが・・・。」 ボスは喋る余裕もなく、光線に飲まれていった。その光線はボスを突き抜け、後ろにあっ たビルをも破壊していった。 「す・・・すごい。」 『これが、正義だ。』 崩れ落ちていくビル。それと同時に、僕の心も崩れ落ちていくような気がした。この力さ えあれば、なんでもできる。いじめなんて問題じゃない。今まで考えていた正義なんて嘘 だ。力さえあれば、全てが正当化するじゃないか。そうだ。力が正義なんだ。 『そうです。この力こそが正義なのです。』 「ふふっ、ひゃーっはっはっは!」 その頃、街は混乱に陥っていた。ビルが崩れたことによって周りの建物に火災が発生。公 道では突然の大きな光線によって、玉突き事故が発生していた。 「みんな、僕ををいじめた報いだぁー!」 僕は叫んだ。しかし、その声をかき消すかのように僕の後ろでパトカーのサイレンが鳴り 響いた。 「警察だ!手を挙げろ!」 いつの間にか、何十人もの警察官に包囲されていた。 「なんで警察のいうことを聞かなくちゃいけないんだ?!」 「お前は人を殺したとの通報があった。」 「!」 よく見ると、警官達の後ろにあるパトカーの中に、助けた女の子の姿があった。 「そうか・・・みんな、僕のことがいらないんだね。正義の象徴であるこの僕がっ!」 頭にきた僕は、構えをとった。 「ふざけるな!正義は我々警察にある!」 警官達は一斉に拳銃を構えた。 「一般人に平気で銃口を向けるのが、正義なのか!!!」 叫ぶと同時に、僕は一人の警察官に飛びかかった。 「ぐぁっ!」 右腕の刃物で一閃、首が吹き飛んでいった。 「撃てぇぇぇ!」 警察官のリーダーらしき人物が号令すると、警官達は僕を狙って打ちだした。 「力無き正義が、僕に勝てる訳ない!」 警官達の放った玉は甲冑に弾かれていく。 『正義と私の波長が合った今、普通の攻撃は通用しない。そして、こちらの攻撃力はとて つもなく強力だ。』 僕は右腕に全神経を集中させ、拳で地面を突いた。 「正義の鉄槌!」 刃物から出た衝撃波は地面にブチ当たり、拡散して警官達を襲った。拡散といっても一つ 一つの威力はすさまじく、衝撃に触れるだけで警官達の体の一部は熔けていった。数秒後 にはそこは死体の山になっていた。 「無敵だ。この正義の力で、世界を変えてやる。今の僕にはそれができる。」 僕が勝利の余韻に浸っていると、死体の山から一人の男が出てきた。リーダー格の人だ。 「正義?聞いてあきれる。お前のやってる事はただの暴力だ。そこらの不良がやってるの と変わらない。」 「なんだと?!」 「私達警察は、国で定められた正義。皆に認められているんだよ。君はどうだ?甲冑を着 て、姿を隠す理由があるんだろ?皆に認められていないからだろ?」 僕は・・・間違っているのか?一人でいきがっているだけなのか?僕は正義じゃないのか? 「くっ・・・。」 頭が痛くなってきた。 「うぅっ、ぐわぁぁぁ!!!」 もう立っていられなくなった。頭を抱え込み倒れる。リーダーが拳銃を構えているのも関 係なかった。 「正義は我々にある。」 リーダーが発砲する。しかし、当たる寸前には僕の体は無かった。霧となって消えていい ったのだ。そしてもう戻ることはなかった。体も。心も。  エピローグ  正義の体が消えて数秒後、そこには白いタキシードを着た男が立っていた。エルドであ る。 「な、何者だ、貴様!」 リーダー格の男が驚くのも無理はない。人が霧になり、そして別人になったのだから。 「そろそろあの体は駄目だと思ってました。私の思想に耐えられなくなった。」 エルドは男に近づきながら話す。 「私はエルド。正義を司る精霊。今は人間の姿を借りていますがね。」 「何言ってやがる。」 男はエルドに向けて発砲するが、玉はエルドの体をすり抜けていった。 「無駄ですよ。私は人間の細胞を自由に操る能力を持っていますから。今のは瞬時に細胞 を分裂させて、体に穴を作ったのです。」 「そんなこと、できるわけ・・・」 「できますよ。例えばこうやってね。」 エルドは男の額を掴んだ。 「あなたは間違った正義を持っている。だからあなたは私にとっては要らない存在だ。」 エルドが話し終えると、男はすでに細かな細胞に分解された。その細胞が広がって行く様 は、あたかも霧が出たかのようであった。 「さぁ、次はどの人の正義で遊びましょうかねぇ。」  後書き  今回はバトルシーンが書きたくて、それが中心になっています。テーマである「正義と は?」は二の次?答えも出てないし。やっぱ一日で書くと、内容が薄いなぁ。