
誰の人生にも上り坂と下り坂はある。長い上り坂の人もあれば、上り坂の短い
人もある。一方、長い下り坂の人もあれば、下り坂の短い人もある。それがその
人に与えられた運命なのかも知れない。
ある人から聞いたところによると、人生には「もう一つの坂」があるという。それは
「まさか」という「坂」だ。
「まさか」こんなことになろうとは・・・とか、「まさか」私が・・・とか、この「まさか」が
実に多いことに気付く。ひょっとしたら「上り坂」や「下り坂」より多いかもしれない。
目下、私もこの「まさか」の真っ只中に居る。
今年の6月に、信州に住んでいる長女が3人目の子を出産し、1ヶ月経ったところで、
玄関を出た天井に蜂が巣を作りかけているのを見つけたという。
上の2人の子供が、蜂に刺されてはいけないと、脚立を持ち出して蜂の巣を取り除
こうとしたところ、1匹の蜂が顔面に向かってきたので、驚いてのけぞった拍子に脚
立から落っこちて、右膝と膝下を骨折する大怪我をしてしまった。
後から考えれば、誰かに処置してもらうとか、自分でするにしても「殺虫剤」を噴霧
して、蜂たちを怯ませてから取り除けばよかったのだろうけれども、それを今になって
言ってみたところで、将来の教訓にはなり得ても、現状の解決には何ら役に立たない。
金属を入れる手術を受け、抗生物質の点滴を受ける治療が始まったが、上の2人
を母乳で育てたことから、3人目の赤ちゃんも母乳で育てたいとの思いが強すぎたた
め抗生物質の投与を途中で打ち切って、母乳を飲ませ始めたのが災いして、手術後
に炎症の疑いが出てきて大変なことになってしまった。
母乳どころではなくなり、再入院しての治療が始まったが、思うような回復に繋がら
ず、未だに入院生活を余儀なくされている。
脚立から落ちて大怪我をしたという知らせを受けて、飛んで行った妻は、3人の孫の
面倒を見始めて、5ヶ月が経過し6ヶ月目に入っている。
現役時代ならばともかくも、今になって「単身赴任」もどきを経験しようとは、夢にも
思ってもいなかったことである。まさに「まさか」のできごとに遭遇してしまったことにな
る。
一時は「骨髄炎」の心配まで出てきたが、その疑いが消えて、やっと軽いリハビリを
始められるところまできたので、内心ではホッとしているが、もう双六のように「振り出し
へ戻る」ことのないように、焦らず、慌てずにジックリと時間をかけてリハビリに取り組
むように、見舞いに行く度に、心細くなって電話がかかってくる度に言い聞かせている
ところである。
こんな時、親としては本当に大したことができない「もどかしさ」と「無力感」を強く感じ
るばかり。毎日の単調な入院生活の中で、ひと時でも気分転換になればと「花の写真」
などをプリントした絵葉書を日記代わりに発送しているが、今の私にできることと言えば
これくらいしかない。随分貯まった絵葉書を、ベッドの上でお守りのように眺めていると
言ってきている。
2人の子供しか育てたことがない妻が、急に3人の孫の面倒を見ることになって、
かなり疲れていることだろうと思うが、ここで倒れる訳にはいかず、もうしばらくの辛抱
と頑張りをみせてほしいと思っている。
最近になって、家族ぐるみで長年にわたって親しくお付き合いをしてきた親友のSさん
から、奥様に先立たれたという悲しい知らせを受けた。あんなに元気だった奥様に先立
たれようとは夢にも思ってもいなかつたであろうSさんにとっては、まさに「まさか」中の
「まさか」であったろうと思う。
これから2人でいろいろと余生を楽しもうと思っておられただけに、その落胆振りは大
きく、慰めの言葉も見つからない。肝臓にできていた悪性腫瘍に気が付くのが遅く、身体
の変調に気が付いた時には手の施し様がなかったということである。それにしても満55
歳の若さで亡くなられては哀しみも深い。
人によって「まさか」という「坂」の勾配が、大きい人、小さい人、いろいろあろうかと
思いますが、みなさんにとっての「まさか」は、一体どんな「坂」なのでしょうか?
(注)みなさん方に、大変ご心配をおかけしましたが、今では娘の家族も
私どもも普通の生活ができるようになりましたので、ご安心下さい。