私は手織で洋服やタピストリーを作る仕事をしています。 2001年4月にファッションショー、5月末には
タピストリー展をかかえて忙しい毎日を送っていました。予定がすべて終わりホッとして、気になっていた
乳がんの検診を受けたところ、その日のうちにガンの疑いがあると言われました。結果が出て、「すぐ手術
をした方がいい」と言われましたが、先に抗がん剤を打って小さくなれば、温存手術の可能性も生まれてく
るということで、術前抗がん剤の治療を受けることになりました。
手術もしていないのに、2週間後には髪の毛が全部抜けると言われ、順序が逆であるだけにどう受けとめ
たらいいかと戸惑いました。その時先生にカツラのパンフレットをいただき、抜けてしまう日に間に合うよ
うにとカツラを作りました。
髪の毛は徐々に抜け始め減っていきましたが、途中前髪が少し残っていてスカーフをすればおかしくない
時期があり、本当にすべて抜けたときに、「前髪だけあればいいんだ、ちょろちょろと前に毛があるだけで
全然印象が違うんだ」と気づきました。前髪の付け毛を作ろうと思ったのはその時です。
ちょうど私は織物をしていることもあり、「自分の大切な毛、捨てるのはもったいない、治ったらいつか
記念に織物にしてやろう」と思って抜けた髪の毛を平たい化粧箱に保存してありました。これは、「シャン
プーしてドサッと抜けるとショックだから、抜け始めたら手櫛で自分で先に抜いておくほうがいいよ」とい
う病院の先輩のアドバイスを受けて、先に抜いた毛をとっておいたものなのです。
その毛を両面テープに貼りリボンで挟んで私の付け毛はでき上がりました。
自分で作ったブラウス&パンツの残り布でオリジナルバンダナ(別紙参照)を作り、そこにマジックテー
プをつけ、付け毛を付けられるようにしました。こうして洋服とお揃いだと、誰にも髪がないなんて気づか
れず、おしゃれでお揃いのスカーフを頭に巻いていると見られてどこにでも出かけることができました。
夏で汗をかくので、何枚か替えのスカーフを古い着物地等の布で作り、手術で入院した時もそれをかぶっ
ていました。入院中、 私は「少しは毛が残っている人なんだ」と思われていたようで、誰からも疑われるこ
とはありませんでした。カツラはあっても入院中はかぶっていられないし、家でも夏は暑くてかぶっていら
れません。だからこの付け毛付きスカーフはとても重宝しました。退院の前日、先生に「実はこうなんだ」
と付け毛を取ってお見せしたら、先生もびっくり! ということで、「他の患者さんにもこの付け毛の作り
方を教えてあげてほしい」とご要望をいただき、このプリントを作った次第です。
市販の人工毛で作ってもいいのですが、自分の毛で作ると今までの自分の毛の色(白髪の混ざり具合など
も)の物ができ、手触りもよく気持ちがいいです。着脱できることによって、スカーフは毎日でも洗濯できる
し、付け毛は時々シャンプーリンスしてタオルで水分をふき取り自然乾燥すればOKです。
朝ゴミ出しに行く時も、急に宅急便屋さんがきても、これさえつけておけば安心、安心。
この工夫のおかげで抜け始めてからの9ヶ月間、私は本当に助かりました。ようやく毛も生え揃ってきて、
もうそろそろこの付け毛にお世話にならずに済むかなと思っています。
抗がん剤治療は体がつらいだけでなく、体調がいい日も脱毛のせいで出かけるのがいやになり、近所の目
も気になって引きこもりがちになり、気持ちもますます落ち込みます。「普通の人」に見えることがどれだ
け自信につながるか、経験した者にしかわからないかもしれません。
ご本人が作れないようなら、御家族やお友達の方でも作ってあげてください。
治療中、少しでも明るく前向きな日々が過ごせるようお役に立てればと思います。(2002年4月)
田口育子