鼻がもげるような堆肥の匂いを耐え、キャベツ畑を過ぎると、ちょっとした山道が見える。
山道の入り口には鎖が打ち付けてありそこに「ここより悟りの道」と看板が打ちつけてあった。
まるで警察が事件のあった時に貼るKEEP OUTピラピラのようであった。
ここからは異次元だ、そう覚悟し「ええい、ままよ」とその第一歩を踏み出した。
初めの曲がり道までは何の変哲もない只の山道。
しかし、そこからは空気が明らかに違っていた。
前から白い墓石のようなものが見えてくる。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
その物体は歩を進めるにつれ段々と形を鮮明にさせていった。
それだけではない、3メートル程の距離まで近づいた時、それらの物体が微量ながら蠢いているのが分かった。
岐阜県の山の中・・・何が起こるか分からない場所に来ている・・・そう決めていたつもりだった。
だが実際に考えていたものとは明らかに違う者共がここには潜んでいたのだった。
仏像・・・白い墓石は蠢きながらラーメンのスープに浮かぶ掻き混ぜられた油分のようにゆっくりと、ぐるぐると姿を変え、最終的にその状態を保った。
「お前、何故にここへ来たのか」
喋った。ゆっくりと。噛み締めるように。
右手に仏塔型のサーベルを持った仏像。
今はヤツを睨み付けていることしかできなかった。
頭から脳髄が吹き飛んでいくような感じ・・・・常識は何処に置いて来た?
この間にも仏像は話すのを止めない。
「ここは十六羅漢悟りの道、ここに来てしまったからには、世の真理を得る事以外に現世に戻る方法は皆無。」
「じ・・実は迷」
「過って来てしまった者であっても師は慈悲を与えることは無い。無事に帰りたくば、我ら十六羅漢の試練を最後まで受けることだ。」
そう言い終わるかどうかの刹那、仏像が飛び掛ってきた。
「我は因喝陀、さぁまずは我の試練に打ち勝つことができるかなぁっ!?」
・お、おそってくるぅ
・スタコラサッサと逃げる。