つぼみのホームページ(中の字)
ある夫婦,読み書きが出来ず,恥をかくことが多かったので 娘を塾に通わせた。通い始めてしばらくして,娘の様子が気になり, 問いただすと…

「だって先生が字を教えてやるって無理矢理に…」

親「無理矢理に…?」

「はじめは,<呂>の字を教えてやるっていうのよ」

親「それで教えてもらったのかい?」

「ええ,私は嫌だといって逃げようとしたんだけれど先生が捕まえてはなさないのよ」

親「おまえは文字を習いに行っているのにどうして逃げようとしたんだい?」

「だって体で教えてやるって言うんだもの…
  <呂>の字は<口>と<口>を<ノ=舌>でつなぐことなのよ」

親「何だって?それじゃ,お前,口を吸われたのかい?なぜその時大声をたてなかったのだ?!」

「無理よ。先生はその時わたしを抱き寄せてもう<呂>の字を書いていたんだもの…」

親「口をはなしたとき,声をたてられたじゃないか!」

ここまで<呂>の字。以下〈中〉の字

「ところが,口をはなす前に,もう,〈中〉という字を書いていたのよ」

親「なんだね,その〈中〉という字というのは?」

「〈中〉という字は,〈口〉へ<|>(縦棒)を突き刺すことなのよ」

親「なんだと,おまえの口へか?」

「まさか。そんなことをするものですか。〈中〉の字の<口>というのは,口は口でも…
  下のほうの口なのよ」

親「それなら声はたてられるじゃないか」

「たてられるわ」

親「なぜたてなかったのだ!」

「たてたわ。たてないでおこうと思っても,どうしても自然に声が出てくるでしょう…?
  声が大きくなってくると,先生はすぐ,下では<中>の字を書きながら、上で<呂>の字を書いて,
  声をふさいでしまうのよ」

親「あきれ先生だ。おまえもおまえだよ,突きとばして逃げようとすれば逃げられたのに」

「でも突きとばしたら<中>の字がはずれてしまうじゃないの」

父親がため息をついて言った。

「えらいことをしてくれたのう…おかげでわしも〈呂〉という字と〈中〉という字だけは覚えたが…」


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