和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。
安倍晋三首相は和食と絡めて日本の農産品のPRに力を入れていて,首相官
邸でもたれる外国の賓客への供宴でも和食や日本ワインが活用されている。
しかしこういう小粋なもてなし方もある。
10月初め,スペインのラホイ首相が来日した。「日スペイン交流400周年」
で各種事業が両国で始まるのに合わせた来日で,安倍・ラホイ両首脳は会談で,政
治,経済,文化面での協力強化で合意した。その夜,官邸で歓迎夕食会がもたれた。
日本は事前に相手国に「和食,洋食,和洋折衷」のいずれが希望かを聞き,それに
応じてメニューを練るのが慣例になっていて,スペイン側は和食を希望した。
ラホイ首相は和食好みなのだろう。
料理は<茶わん蒸し><おつくり><焼き物><煮物><カニご飯>。これに合
わせ飲み物は,白ワインが<山のシャルドネ2010年>,赤ワインが<シャトー・
ラグランジュ05年>,日本酒は<久保田・洗心(新潟県)>だった(数年前から官
邸では日本酒で乾杯を行う)。
白ワインは栃木県の知的障害者施設ココ・ファームが造っているが,私が注目した
のは赤ワインだ。フランス・ボルドー地方の格付け第3級で,30年前の1983年サ
ントリーが買収したシャトー(ワイナリー)である。
同社が買収した時の騒ぎを私は覚えている。欧米系以外の企業がフランスのシャ
トーを買収するのは初めてで、仏メディアは「日本のフランス文化への侵略」「転売
益狙いではないか」と批判的に書いた。日本がバブルへの道をひた走り,世界のビ
ルや土地を買い占めていた時期だ。
当時,シャトーは荒れ放題で,同社は土壌を入れ替え,ブドウを植え替えるなど,日
本人特有のこだわりと徹底ぶりで抜本的に手を入れた。そしていまでは「第2級のワ
インに匹敵する」と評価されるまでになった。
もっとも官邸がこのワインを出したのは,サントリーがシャトーを買収して30年という
節目だけではないと私はみている。その前までシャトーはスペインの企業が所有して
いた。「貴国から譲り受けたシャトーをここまで立派に育て上げました」と,日本とスペ
インの協力がもたらす可能性をワインを通して示そうとしたのではないか。
グローバル時代らしく日本が育てた外国ワインと和食の組み合わせ。スペイン側はこ
のメッセージをどう受け止めただろう。
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