狄希は中山(現在の中華人民共和国,河北省霊寿県付近)の人で,千日酒を造る
ことができた。これを飲めば千日酔うほどの銘酒であった。
同じ州の劉玄石は酒好きでこれを求めたが,まだ発酵していないために断られた。
無理矢理一杯飲ませてもらい,もう一杯せがむと,狄希は言った。「とにかく帰って
日を改めて来てくれ。いま飲んだ一杯だけでも千日は眠れるから」と…
玄石は家に帰って酔いつぶれて死んだようになり,家人は死んだものと疑わずに悲
しんで埋葬した。
三年経ち,狄希は「玄石の酔も醒めたころ。様子を伺いに行くとしよう」と言って玄石
の家を訪ね,「玄石は居られるか」と問うと,家人はいぶかって「玄石が亡くなって
三年の喪が明けたところ」と言った。狄希は驚いて,家人に千日酒の事情を伝えて墓
を掘り棺を開くように命じた。墓に行ってみると墓から湯気が立上っていた。
直ぐに墓を掘らせると,ちょうど目を開けあくびをしながら間のびした声で「気持よく
酔っぱらった」と言い、狄希に「お前はなんという奴だ。わしを一杯で酔いつぶすとは!
今ちょうど醒めたぞ。ところで日も高いが何時か」と問うた。これを見ていた墓<の周りに
いた人たちは皆笑ったが,玄石の酒のにおいを吸込んで,みな三ヶ月も酔いつぶれて
しまった。
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