スペインの画家のサルバドール・ダリ(☆)はミレーの『晩鐘』の絵について,その著書『ミレー《晩鐘》の悲
劇的神話』人文書院/鈴木 雅雄 訳/2003年出版の中で,次のように述べている。
−−−以下,引用−−
敬虔に祈る二人の農民のあいだ,画面右の母親の足下近い位置に,まさしく彼らの死んだ息子の収めら
れた棺をミレーが描き込んでいたことを知らされた。ある書簡によれぽ,パリに住む友人の一人がミレーに
首都では人々の趣味が変化してきており,あまりにメロドラマティックな効果は徐々に嫌われつつあると知
らせたらしい。ミレーはこの意見に説得されて,地面を表す絵具の層の下に死んだ息子を葬ってしまったに
違いない。こうしてこれら二人の孤独な人物が醸し出す,「説明しがたい」居心地の悪さを説明することが
できる。実際ここでは,もともと彼らを結びつけていた,話の筋道を表す要素が欠けているのであり,いわ
ばコラージュの過程を裏返したように「覆い隠されて」いるのである。
もしこれが本当なら,たとえミレーが描き直しの前に棺を削り落とし消し去ってしまったとしても,その「修
正」の場所には何らかの痕跡が残っているに違いない。
−−−引用終わり−−
ダリに指摘されたルーヴル美術館は,X線による撮影をした。下の図がその結果の概略図である。
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