アンソロジー


<ノンシリーズ>
七つの危険な真実 (新潮文庫)
いじめの時間 (新潮文庫)
ありがと。 (メディアファクトリー)
七つの黒い夢 (新潮文庫)
尾道草紙
尾道草紙2
ナナイロノコイ (ハルキ文庫)

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七つの危険な真実
ストーリィ
人権団体への活動に賛同した7人の著者作品のアンソロジー。著者印税の50%が人権団体へ寄贈されます。

 赤川次郎「透き通った一日」:幽霊になった自分に気付く女性高生
 阿刀田高「マッチ箱の人生」:客が取り出したマッチ箱にまつわる話
 宮部みゆき「返事はいらない」:自殺未遂の女性が誘われた犯罪
 乃南アサ「福の神」:嫌いな客が引き寄せてくれた物は…
 連城三紀彦「過去からの声」:刑事をやめた男からの手紙
 夏木静子「襲われて」:何故女性は突如襲われたのか
 北村薫「眠れる森」:不眠症の画家の展覧会
感想
真実、それが判明したときに何が起こるか、何を感じるか。唯一の書き下ろし作品である赤川次郎の「透き通った一日」が、このアンソロジーの世界へ読者を優しく誘います。宮部みゆき,乃南アサの作品は既読でしたが、どちらも好きな作品。久々の読み直しとなりました。凄かったのは連城三紀彦の「過去からの声」。僅か2年で刑事をやめた男が、元同僚の先輩へ当てた手紙と云う構成の作品。読み手を引き込む何かがあります。そしてその真実も演出が巧み。連城三紀彦に少し興味が湧きました。
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いじめの時間
ストーリィ
「いじめ」をテーマにした女性作家によるアンソロジーです。

 江國香織「緑の猫」:仲良しだった友人の調子が悪くなって行く
 大岡玲「亀をいじめる」:亀をいじめ、子供がいじめられ、自分自身の思い出は…
 角田光代「空のクロール」:とても綺麗な泳ぎをする同級生に惹かれるが
 野中柊「ドロップ!」:一日休んだ後の不安な気持ち、自分の席はどこ?
 湯本香樹実「リターン・マッチ」:一対一の勝負を挑まれ戸惑うが…
 柳美里「潮合い」:やってきた転校生は不思議な雰囲気持っていた
 稲葉真弓「かかしの旅」:姿を消した生徒、先生への手紙
感想
いじめ。いじめる側に、られる側。単にそんな立場を描いただけの作品では面白くない。この人ならではと思える「いじめの時間」を表現しているのは江國さんです。普段当たり前にしていること、ふと考えるとどうして良いのか分からなくなる。その怖さをうまく効かせています。オーソドックスな「いじめ」を表現した中でキラリと光ったのは角田光代氏の作品。とてもバランスの良い作品です。
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ありがと。
ストーリィ
「Web ダ・ヴィンチ」に連載された作品。

 狗飼恭子「町が雪白に覆われたなら」:喫茶店で働く指紋のない女性
 加納朋子「モノレールねこ」:野良猫が仲介する文通
 久美沙織「賢者のオークション」:現状への不満とオークション
 近藤史恵「窓の下には」:同じマンションに越してきた女の子
 島村洋子「ルージュ」:恋人は高価なルージュで完璧な化粧をする
 中上紀「シンメトリーライフ」:義父が死に、ずっと離れていた父や弟と会うことに
 中山可穂「光の毛布」:途轍もなく忙しい仕事が、自由な時間と恋人を奪っていく
 藤野千代「アメリカを連れて」:犬の散歩が縁で知り合った夫婦
 前川麻子「愛は、ダイヤモンドじゃない」:彼と共に暮らした日々は…
 三浦しをん「骨片」:大学を卒業し、郷里であんこ屋を手伝う
 光原百合「届いた絵本」:昔読んでくれた本と、今届いた本
 横森理香「プリビアス・ライフ」:輪廻転生を繰りかえす魂の物語
感想
狗飼氏の作品は初読でしたが、とってもステキなお話。人が持つ影の部分、劣等感を巧く表現した上で、これ以上ないくらい綺麗に収束させています。加納氏は流石。展開も魅力的なのですが、作品を纏め上げたのは、「○ー○」と云うたった一つの台詞。(伏せ字です)一言の重みを感じました。ミステリィとして良くできていたのは島村氏の「ルージュ」。一番感動を覚えたのは光原氏の「届いた絵本」。主人公の少女の気持や考えを、絶妙のバランスで表現しています。
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七つの黒い夢
ストーリィ
「黒い夢」を表現する七人の作家たち。

 乙一「この子の絵は未完成」:においを発する絵を描いてしまう息子
 恩田陸「赤い毬」:とっくに死んだはずの祖母と出会い毬をついた
 北村薫「百物語」:眠ってはだめ…百物語で時を過ごそう
 誉田哲也「天使のレシート」:ちょっと憧れのお姉さんの名前は「天使」
 西澤保彦「桟敷がたり」:離陸した飛行機にトラブルが発生して待ちぼうけ
 桜坂洋「10月はSPAMで満ちている」:就職先はSPAMメールの原稿書き
 岩井志麻子「哭く姉と笑う弟」:幼き頃、姉に聞かされた物語を思い出す
感想
乙一氏の作品が白眉。説明的でないところがポイントです。温かな雰囲気と、不思議で魅力ある世界を、しっかりと表現しています。西澤氏の作品はその対岸。しっかりとした解決で、曖昧さを残しません。この短いページ数でよくぞここまで。誉田氏は初読でしたが、一番印象に残りました。前半部分は大好きです。が、後半部分は肌に合わない感じ。ホラー作家なのでしょうが、前半の優しい感じで最後まで書き上げくれれば、とっても贔屓になれそうです。
お気に入りの一文
なんと、天使さんには下の名前がおありか。(「天使のレシート」より)
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尾道草紙
ストーリィ
尾道大学日本文学科の授業から生まれた創作民話集。

 「ことほぎのしろ」:迷子になり、まずいものに出くわした
 「神輿」:担ぎ手がいない神輿が迫る
 「港の双子」:港の双子に願掛けすると叶うらしい
 「ポンポン岩と千の光」:幸せになるため千の光を見に…
 「夏の終わりの幻想」:古本屋で目に留めたボロボロの本
 「雁木の夢」:おばあちゃんの記憶と石段と海べりと
感想
これほどの出来とは全く想像していませんでした。「学生」「授業」と云った色眼鏡でこの作品をとらえていたことが恥ずかしいです。「ことほぎのしろ」は白眉。この作品を最初に持ってきたのは大正解。一番面白かったです。気になったのはただ一点、「はい、」という表現。ちょっと雰囲気が違う気がします。ただ、作品の世界から現実世界に引き戻そうという意図だったならば、脱帽。「神輿」は良くまとまっていますが、読まれることに対する意識が弱い気がします。自分のために書いた作品という感じです。「港の双子」は前半の文と文の繋ぎに若干難がある(リズムがもう一つ)感じがしましたが、一番感動した作品。途中から猛烈に先が読みたくなり、もどかしさすら覚えました。終わり方も素晴らしく、好みです。「ポンポン岩と千の光」は完成度が高い反面、個性が弱いです。「夏の終わりの幻想」は雰囲気が良い作品ですが、作品全体のまとまりがもうひとつ。前半・中半・後半と、少しずつずれている印象。「雁木の夢」は流石に表現が洒落ています。「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」ってのは特に良いですね!
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尾道草紙2
ストーリィ
尾道大学日本文学科の授業から生まれた創作民話集 第2弾。

 「涙土手」:雨が降り、老人から話を聞いた
 「盆通い」:海で亡くなった少女はお盆に家族を探していた
 「青い空」:二匹の蝶に誘われて狭い路へ
 「猫主様」:娘にも漸く友達ができたらしい
 「約束一つ」:井戸は使わなければ死んでしまうらしい
 「かくれん坊」:夕方の小路にはなにが居るかわからない
 「西国寺山の天狗」:人々を見守る恥ずかしがり屋の天狗
 「お稲荷さん」:お姉ちゃんがお嫁に行く キツネは化けて出るだろうか?
 「花吹雪」:おばあちゃんの部屋に飾られた桜の絵
感想
「涙土手」は出だしのリズムが少し重いかなと感じましたが、老人のお話が始まるとテンポも良く、クライマックスは感動の一言。伏線が絶妙でした。非常に味がある作品です。「盆通い」は「やれ」という二文字の使い方がとても良く、雰囲気が伝わってきます。「青い空」はもう少しストーリィに起伏が激しい方が好みですが、描写の繊細さがステキなので満足。「猫主様」は先の展開が簡単に推測できてしまうのに、物足りなさを全く感じさせない力が潜んでいます。読点の使い方が秀逸。「約束一つ」は文章のリズムがとても良く、するする進みます。「かくれん坊」の語り手はじいちゃんであり、方言を使うことがとても自然に感じられます。最後の2行がまた好きです。「西国寺山の天狗」は文章と挿絵が完璧に一体となった作品。文章で表現された内容が、まさしく挿絵で表現されています。優しいストーリィも好みです。「お稲荷さん」は「なるほど、そうきたか!」という結末にニヤリ。「花吹雪」は説得力のある作品。穏やかに流れている川の様な感じも受けます。
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ナナイロノコイ
ストーリィ
七人の女流作家による恋愛小説アンソロジー。

 江國香織「ドラジェ」、角田光代「そしてふたたび、私たちのこと」、井上荒野「帰れない猫」、谷村志穂「これっきり」、藤野千夜「ビルの中」、ミーヨン「くらげ」、唯川恵「手のひらの雪のように」
感想
江國さんの作品目当てで購入した一冊ですが、その世界を存分に味わうことが出来ました。とても短い作品ではありますが、その中に含まれた色は決して薄くありません。唯川さんの作品もとても良い盛り上がりをみせましたが、最後の1ページはない方が好みです。このあたりの感覚は非常にむつかしところだと思います。
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