浅田次郎


<ノンシリーズ>
鉄道員 (集英社文庫)
蒼穹の昴 (講談社文庫)

§ 感想へ戻る §


鉄道員
ストーリィ
第117回直木賞を受賞した表題作を含む短編集。

 「鉄道員」:廃線が決まった路線の駅長は、いつの日も仕事を忘れなかった
 「ラブ・レター」:形だけ籍を入れた見ず知らずの外国人女性の葬儀に向かう
 「悪魔」:厳しくて剛胆な父、恐ろしい家庭教師、そして母
 「角筈にて」:プロジェクト失敗により左遷された男は日本と別れを告げる
 「伽羅」:ファッションメーカの営業マンが商品をさばく相手を見付けたが…
 「うらぼんえ」:離婚寸前の夫の新盆に行くことになった天涯孤独の女性
 「ろくでなしのサンタ」:起訴猶予で釈放された男とクリスマス
 「オリヲン座からの招待状」:幼き日の想い出の場所、オリヲン座へ向かう夫婦
感想
映画化もされ大ヒットとなった表題作「鉄道員」。期待を遙かに上回る感動に、涙なみだ。余りにも切なく、あまりにも美しい。文句の付けようもない歴史に残る作品です。「ラブ・レター」も心がキュンとなる作品。きちんとした職に就けず、警察のやっかいになることもしばしば。そんな人間が会ったことすらない自分の妻の葬式で、妻と心をかわすのです。これだけでは訳が分からないでしょうが、読めば分かります! 「悪魔」は魅惑的なストーリィ。谷崎潤一郎の世界と似た部分があります。「角筈にて」は左遷された男と部下との繋がり、顧みなかった妻との繋がり、そして娘との…。左遷されたことで、それぞれと真っ直ぐ心を通わすことが出来る様になった一人の男の姿がとても幸せに見えます。「伽羅」はちょっとホラー色があります。営業マンの厳しさと、目の前にいるお客。その距離感が絶妙です。「うらぼんえ」は独りぽっちの女性が体験した、お盆ならではのストーリィ。「ろくでなしのサンタ」は、不器用でどうしようもない男が、クリスマスに見せた人としての優しさを見ることが出来ます。「オリヲン座からの招待状」は今と昔。今の自分と昔の自分、今の二人と昔の二人。それを見せたのはオリヲン座という映画館と云うところが乙ですね。
↑リストへ   感想へ戻る



蒼穹の昴
ストーリィ
中国、清王朝の末期。西大后が政権を握っていた。貧しい家に生まれた少年・春児は糞拾いをして生計を立てる。同郷の文秀は、科挙の試験を受けるため都へ。占い師の予言を信じた春児は、文秀の話し相手として行動を共にする。その先に待っていたのは、全く別々の人生であった。
感想
とにかく大きなストーリィです。でも、舞台が中国なら、違和感は全くなし。壮大なスケールこそ相応しい舞台です。主人公は春児と文秀の二人。科挙に合格し表舞台を進む文秀と、宦官への道を選んだ春児。道は違えど、どちらも一生懸命で、応援せずには居られません。歴史上の重要人物も多数登場。特に乾隆帝や西大后、李鴻章らは、とても魅力的。他にも多くの人物が登場し、それぞれが輝きを持っています。ちょっと気になったのは、ジャーナリストの日本人。スポットが当たり過ぎではないでしょうか。
↑リストへ   感想へ戻る