浅倉卓弥


<ノンシリーズ>
君の名残を (宝島社文庫)

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君の名残を
ストーリィ
雨が降りしきる中、共に帰宅する幼馴染みの高校生・友恵と武蔵。さらに友恵の親友の弟・志郎。3人は落雷と共に平安時代末期、源平が覇を競った時代まで時を遡る。互いに別々の場所で目覚め、時代の一部となっていく彼らは、その後の時代を作り出す人と深く関わり、掛け替えのない存在となっていく。
感想
何かを切っ掛けにして過去に遡り、その時代で過ごさねばならない。とてもありきたりの設定です。でも、名前が重要な意味を持った時、それは完全に打ち消されました。この辺りは流石です。ただ、タイムスリップしてしまった彼らが、そのことをあまりにも簡単に受け入れてしまい違和感が。未来から時間を超えてしまった彼らに焦点を当てるのかと思ったら、純粋に史実を辿る部分も多く、作者の意図がどうにも掴み切れません。完全なフィクションパートも、史実に沿ったパートも、どちらもとても面白いのに、全体的にはどっちつかず。結果として時代を遡った二人のドラマも薄くなり、史実を辿るには駆け足になり過ぎてしまう。フィクションの色をもっともっと濃くした方が、大切なこと、彼らの心をしっかり表現することができたのではないでしょうか。現代人が戦争とはいえ人を殺すシーンを目の当たりにしたら、もっともっと強い衝撃を受けるのでは? そんな中で己の身体を動かすことができるでしょうか。痛みを感じたら、もっと気が萎えてしまうのでは? 『四日間の奇蹟』であれ程の感動を運んでくれた浅倉氏なのだから、もっと心を表現して欲しかったです。十分読者を引きつける作品であることは間違いありませんので誤解なきよう。
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