芦辺拓


<森江春策シリーズ>
時の誘拐 (講談社文庫)
和時計の館の殺人 (光文社文庫)
怪人対名探偵 (講談社文庫)
グランギニョール城 (創元推理文庫)

<ノンシリーズ>
メトロポリスに死の罠を (双葉文庫)

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時の誘拐
ストーリィ
次期大阪府知事候補者の娘、根塚樹里が誘拐された。犯人の要求は2億円。身代金受け渡しには阿月と云う無関係の人間が犯人より指定された。犯人の指示に従い行動する阿月と、それを必至で追跡する警察。しかし巧妙な犯人の計画の前に、完全に翻弄されてしまいます。警察の怒りの矛先は阿月に向けられ、弁護士森江春策の出番となります。
感想
現代と戦後の二つの時代に跨った誘拐劇が演出されています。根塚樹里の拉致から始まった誘拐劇は、とにかく「華麗」。十重二十重に仕組まれた計画に翻弄され続ける警察。訳も分からず巻き込まれた阿月は、犯人の要求に従うために必至。それらが素晴らしいテンポで描かれています。これはもう、圧巻の一言。しかしここでその素晴らしいテンポが変わってしまいます。時は戦後へ。一転ゆっくりとした時の流れに。この時代で起こる出来事も、雰囲気も、決して悪い物ではありません。しかし折角の誘拐劇がしぼんでしまいました。あのテンポのまま、一気に最後まで行って欲しかった。部分的にとても良く、しかもトリックも多彩な力作です。だからこそ、一つの作品に収めきるのが困難だったのではないでしょうか。別々の作品でも、1つずつでも十分だったのではないかと感じます。が、それを差し引いても満足できる作品であることは間違いないでしょう。
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和時計の館の殺人
ストーリィ
天知家の当主・天知時平が死亡。森江春策は遺言状を携えて、和時計の館へ向かいます。館には様々な和時計が、今なお正しく時を刻んでいます。糊付けされた不思議な遺言状の公開も滞りなく終わり、一同は夕食へ。そして夜。事件は起こります。
感想
これぞ本格と呼ぶのが相応しい雰囲気の作品です。舞台も、登場人物も、アイテムも。これ程雰囲気のある作品は、本格ミステリィに注目が集まる昨今でも極めて稀。前半はどこか横溝正史を思い出させます。しかしトリックには少々難が。若干ですが分かりにくいのです。複雑と云ったら良いでしょうか。大まかにトリックを眺めると、とてもストレート。簡単に受け入れられます。が、詳細を考え出すと大変です。決してつまらないわけでも、出来が悪いわけでもありません。が、これ程の雰囲気を持った作品ならば、一つの明解なトリックで、すんなり終わって欲しかったと思います。
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怪人対名探偵
ストーリィ
奇妙な怪人<殺人喜劇王>が現れ、次々と被害者が。頬を切り裂かれた女子高生。拉致されたOL。二輪車で事故を起こした青年。弁護士・森江春策は被害者の女子高生に依頼され、探偵として事件に関わるが、その直後に不覚を取る。名探偵・花筺城太郎とは何者か。十三号室の借主は誰なのか。事件が解決する時、複雑な世界が明らかとなります。
感想
訳が分からなくなります。どれが現実なのか。特に混乱させる存在が名探偵の花筺城太郎です。少年助手の有明君と奇妙な行動を取る彼らの存在が、どうにも矛盾して仕方がない。複数の世界があるかの様に感じながら、次々と怒る凄惨な事件。それも現実のことなのか。混乱がピークに達した時、事件が解決へと向かいます。ここで一気に全てが氷塊。このスタイルが好きです。訳の分からなかった世界もうまく説明が付き、事件も解決。さらに森江春策が弁護士らしい行動をとるところが絶妙です。
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メトロポリスに死の罠を
ストーリィ
放射能汚染物質を輸送していた列車が、走行中に突如として姿を消した。何処に、どの様にして消失したのか。やがて、一つの街が消失する。街を消した人間と、消えた街で闘う人々。大きなトリックの中で繰り広げられるアクションを、軽いタッチで表現しています。
感想
軽い。軽過ぎます。列車消失! 都市消失! その大きさに過剰な期待を持ったことは、確かに否めません。が、殆どアクション的な作品なのです。最初は大きなトリック(らしきもの)を前面に押し出した本格的な雰囲気。そのギャップがちぐはぐな印象を受けました。好みの問題もあるでしょうが、作品が熱を帯びるほど、逆に冷めてしまいました。
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グランギニョール城
ストーリィ
名探偵ナイジェルソープが向かったグランギニョール城。アメリカの大富豪が買い取ったその城は、移築されることが決まっていた。先頃起きた悲劇に続き、今ふたたび事件が起こる。一方、弁護士・森江春策は関西国際空港から帰る電車の中で事件に遭遇。死者が最後に残した言葉から、森江も深い深い事件へと引きずり込まれていった。
感想
一言で云って、本格です。ナイジェルソープ編と、森江春策編が螺旋の様に絡み合いながら、微妙な距離を保つあたりがにくいところです。エラリー・クイーンの話で熱くなるところが、本作に対する芦辺氏の愛情そのものの様な気さえしてきます。敢えて云うならば、若干あっけなかったかな、と思いますが、最後まで尻すぼみにならなかったのが重要です。
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