江國香織


<エッセイ>
泣く大人 (角川文庫)
とるにたらないものもの (集英社文庫)

<ノンシリーズ>
ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)
ホテル カクタス (集英社文庫)
モンテロッソのピンクの壁 (集英社文庫)
泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
東京タワー (新潮文庫)
号泣する準備はできていた (新潮文庫)
スイートリトルライズ (幻冬舎文庫)
ぬるい眠り (新潮文庫)

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泣く大人
ストーリィ
「泣かない子供」から「泣く大人」へ。江國香織という女性の、心をそのまま綴ったエッセイです。
 T:雨が世界を冷やす夜
 U:男友達の部屋
 V:ほしいもののこと
 W:日ざしの匂いの、灰暗い場所
感想
飾らない、綺麗事ではなく、ただただ、思ったことをそのままに、偽りなく書き表す。そんな江國さんのエッセイ、大好きです。雨とは犬の名前。そこから始まるストーリィは、大きな感動を与えてくれました。お父さんの云った1つの約束事。身体中に震えが走ります。こんなコトを、気取るわけでもなく云える人、世の中には居るんですね。両棲類には爆笑。ちっちゃな男友達にはほのぼの。江國さんの感情を味わうことができ、読者にもいろいろな感情が生まれる、そんな一冊です。
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ウエハースの椅子
ストーリィ
「ちびちゃん」だった子供の頃の私。産まれた「ちびちびちゃん」の妹。私は今、大人になり、絵を描き、恋人がいる。子供の頃の想い出。現在の自分。恋人との時間。妹の恋愛。妹の恋人。のら猫たちと過ごす時間。ごく限られた空間で、ごく限られた相手と過ごす私の日々を、独特の世界で描きます。
感想
不思議です。唐突にシーンが変わったり、時間が流れたり、何度も起こります。でも、決してバラバラではない。とても纏まっています。それが不思議。ストーリィは特に何かが起こるわけではなく、小説と云うより、寧ろ詩の集合体の様。数え切れないほど多くの、素敵な表現。例えば「角砂糖」。それら表現は時として、驚くほどにシャープ。あまりにシャープでビックリするほどに。また時として、驚くほどふんわりと柔らかく、温かく、軽い感じ。マイペースに生きる私が宝石の様な表現で、静かに優しく鋭く表現されています。
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ホテル カクタス
ストーリィ
「ホテル・カクタス」、アパートの名前です。そこには色んなヒトが住んでいます。数字の2、きゅうり、帽子。彼ら3人はトモダチです。時には楽しく、時にはギクシャクしながらも、お互いを大切に思っています。
感想
とっても不思議なお話です。主人公は人間ではありません。まったく種類の異なる3人です。そんな設定が思い浮かぶこと自体が凄い。3人はそれぞれ性格が違います。しかしお互いに干渉し過ぎることもなければ、放っておく訳でもありません。行動や考えはとても可愛らしく、部分的に凄く共感できたり、出来なかったり。そして結末へと進みます。雰囲気を壊すことなく、如何に上手く収束させるか。「あ、終わったな…」と思ったら、まだ1ページ残っていました。この1ページが素晴らしい!
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モンテロッソのピンクの壁
ストーリィ
平和に暮らしているネコのハスカップ。夢で見たモンテロッソのピンクの壁を目指し、旅に出ます。
感想
心に潤いを与えてくれる作品です。モンテロッソの考え、とても可愛い! そして純粋で、誇り高く、気まま。ライオンに会いたくない理由とか、面白いですね。そして表現にも注目。同じ言葉を、ただただ3つ繋げただけなのに、とても深い意志を感じます。
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泳ぐのに、安全でも適切でもありません
ストーリィ
第15回山本周五郎賞受賞の短編集です。

 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」、「うんとお腹をすかせてきてね」、「サマーブランケット」、「りんご追分」、「うしなう」、「ジェーン」、「動物園」、「犬小屋」、「十日間の死」、「愛しい人が、もうすぐここにやってくる」
感想
江國さんらしい世界に溢れた作品です。表題作、「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」はそのタイトルの解釈が素晴らしいです。表紙にも英語でIt's not safe or suitable to swim.と書かれていますが、日本語と共に並べる意味を感じます。その他の作品もいかにも「らしい」のですが、いつも不思議に感じます。私がこの世界のどこを気に入っているのか。心を引きつけるものは、確かにあります。が、同時に物足りなさをも感じるのです。何が物足りないか、と云うのもよく分からない。これからも絶対読み続けたい作家さんですが、この謎が解ける日は来るのでしょうか。
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東京タワー
ストーリィ
大学生の透と耕二。透は母親の友人・詩史と恋人になるが、詩史には当然の如く夫の存在が。一方の耕二は恋人がいるにもかかわらず、別の女性との関係にも余念がない。そんな二人だが妙に気が合うのだ。二人の恋の行方はどの様な結末を迎えるのか。
感想
不倫。二股。こう書いてしまえば、本当にいやらしい感じがします。でも、江國さんの綴る作品に限っては、そういう印象を抱きません。何故でしょう。不思議なことですが、それが当たり前の様に、別に構わないとか思うことすらなく、普通に受け入れられるのです。以前、江國さんはエッセイで、「結婚して夫はいても絶対に新たな恋をしないとは言い切れない」というようなコトを書いておられます。そんな江國さんの心が、作品にも綺麗な雰囲気をしみ出させているのではないか、そう思いました。
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とるにたらないものもの
ストーリィ
とるにたらないものものだけど、でも、ちょっと気になるものもの。ちょっと忘れられないものもの。ちょっと大切なものもの。そんなものものを、江國さんらしい物の見方で綴った世界です。
感想
今更云うまでもありませんが、やっぱり江國さんのエッセイは面白いのです。本作は、とるにたらいないものものに(時にはちょっと視線を変えて)目を向けた世界です。「輪ゴム」「お風呂」「まめご」は特に面白い。どこが面白いのか、説明なんてできません。江國さんのエッセイを読んでいると、気持ちの良いプールでぷかぷか浮かんでいる様な、そんな気分になれますね。
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号泣する準備はできていた
ストーリィ
第130回直木賞を受賞した表題作を含む短編集。それぞれに、ちょっと不思議で神秘的な世界が広がります。

「前進、もしくは前進のように思われるもの」「じゃこじゃこのビスケット」「熱帯夜」「煙草配りガール」「溝」「こまつま」「洋一も来られればよかったのにね」「住宅地」「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」
感想
とても懐かしい気がする作品です。初期の江國さんの世界に近い様な、そんな感じ。この世界は、なんと表現して良いのか分かりませんが、とにかくよく分からなくて、言葉ではうまく説明できません。初期の江國さんの作品はこんな感じが多かったと思います。でも、好きなんです。最近の作品はどちらかというと分かりやすい世界が多い様に思いますが、本作の様な世界こそ、最大の魅力であると感じています。
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スイートリトルライズ
ストーリィ
結婚して5年。夫・聡のことは愛している。それは間違いない。でも、夫との生活はどこか空虚だ。一緒にいるのに、とても遠く感じてしまう。テディ・ベアが縁で、夫以外の男性と知り合った。嘘が増えていく。妻・瑠璃子と一緒になることを望んだのは自分だ。それは間違いない。でも、妻はどうにも神経質だと思う。今日も一日あったことを私に話しかける。私も何か言わなくては…。後輩の女の子と一緒にいる方が楽しいのに。瑠璃子の前では嘘がつけない。それでも、やっぱり、隠し事は存在する。
感想
夫婦間の恋愛を描いた作品です。夫婦間意外にも愛が芽生えちゃって、どうにも困った展開なのですが、それがいやらしく感じられないのが不思議です。江國さんの作品は、何かが欠落している様に私には感じられるのですが(何が欠落しているかは作品毎に異なります)、本作はこの夫婦の感情的な物にそれを感じます。一緒にいるのにとても遠く、でも近く。離れているのに近く、でも遠く。この矛盾した愛と距離を自然に受け入れさせるのが、江國さんの文章です。
お気に入りの一文
人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに
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ぬるい眠り
ストーリィ
20代の頃の作品を集めた短編集。名作「きらきらきらひかる」の十年後を描いた作品も収録。

「ラブ・ミー・テンダー」「ぬるい眠り」「放物線」「災難の顛末」「とろとろ」「夜と妻と洗剤」「清水夫妻」「ケイトウの赤、やなぎの緑」「奇妙な場所」
感想
「ラブ・ミー・テンダー」は非常に短い作品ですが、ニヤリ、とさせる作品です。「災難の顛末」は或る意味において、とても怖いストーリィ。程度問題はあれども、だれでもこの様な経験があるのではないでしょうか。「夜と妻と洗剤」も非常に短い作品ですが、ピンポイントでツボをついてきます。
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