東野圭吾


<ノンシリーズ>
超・殺人事件 (新潮文庫)
片想い (文春文庫)
さいえんす? (角川文庫)
探偵倶楽部 (角川文庫)
レイクサイド (文春文庫)
殺人の門 (角川文庫)

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超・殺人事件
ストーリィ
ちょっと捻りを加えたミステリィの短編集。怖い物、捻くれた物、笑える物、在り来たりな物。多種多様です。

 「超税金対策殺人事件」:税金対策のため作品に手を加える
 「超理系殺人事件」:こてこての理系ミステリィを見付け、読み始めるが
 「超犯人当て小説殺人事件」:落ち目の作家と編集者たちの戦い
 「超高齢化社会殺人事件」:衰退した文学、作家、極端な老人作家ばかりです
 「超予告殺人事件」:連載小説の通りに現実の殺人事件が進む
 「超長編小説殺人事件」:どんどん分厚くなる最近の小説
 「魔風館殺人事件」:トリックが思い浮かばないのに残り枚数あと僅か
 「超読書機械殺人事件」:書評をしてくれる便利な機械
感想
最初から特異な設定の作品「超税金対策殺人事件」。ここまでやるか、と云いたくなるくらい極端な展開にしたのが良い感じ。単純に笑えます。「超理系殺人事件」は読むのが大変です。が、ちゃんと読むとそれなりに面白い。最後はひっくりかえりました(やられた!)。でも一番大変だったのは、原稿をチェックした編集者の方でしょう。「超長編小説殺人事件」は現代のミステリィ業界に対する風刺的意味を感じます。同時に笑える面白さがあります。多種多様な作品を超殺人を集めた本作。題名がちょっと堅くて残念。作品の雰囲気はもう少し柔らかい様に感じます。「超」に拘ることもなかったのでは…。
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片想い
ストーリィ
大学時代にアメフトで汗を流した面々が集まる同窓会。QBこと西脇哲郎は、会に現れなかったマネージャの美月と数年ぶりに出会う。彼女の姿形はどう見ても「男」。性同一障害に苦しむ人間と、学生時代の想い出と、殺人。哲郎は美月を救うため、行動を起こすことを決意する。
感想
心をきちんと描いた作品。性同一障害と云う受け入れ難い事実を、如何にして受け入れるか。QB以外の人々も、それぞれの想い、考え方ででそれを咀嚼し、己の行動とします。複雑な心と、アメフト。その2つが巧く絡み合い、一本のストーリィを構成しています。アメフトがあるからこそ、、単に性同一障害を取り上げただけの作品にはならない。多くの登場人物の想い、立場、考え方が明確で、何れも個性が確立している。良作です。
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さいえんす?
ストーリィ
理系から文系へ、壁を乗り越えた作者ならではの視点で綴ったエッセイ。ミステリィについて。恋愛問題。数学について。出版界について。スポーツについて。様々な話題に文理両方の視点で挑んでいます。
感想
文系には文系の、理系には理系の先入観が存在します。そのどちらをも体験した作者でなければ書くことができない一冊。純粋な理系の作家さんは少ないため、こういうエッセイは貴重です。文系の人も、理系の人も、一度手に取ってみる価値ありです。
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探偵倶楽部
ストーリィ
会員制の調査機関・探偵倶楽部。とてもクールに、且つ確実に仕事をこなします。

「偽装の夜」:気むずかしい社長が変死を遂げ、その死を隠そうと画策する輩
「罠の中」:お金に厳しい資産家が親族の集まった日に死亡する
「依頼人の娘」:家に帰ってきたら母は血まみれで、それ以来家族がおかしい
「探偵の使い方」:浮気調査を仰せつかる探偵。オーソドックスな依頼の筈が…
「薔薇とナイフ」:娘が妊娠した事を医師に告げられ激高
感想
全体的にしっかりとした作品で構成された短編集です。どの作品にもしっかりトリックとかオチが封じ込んであります。ただ、どの作品もパターンが同じ。統一性を持たせたのかもしれませんが、「ありきたり」を感じてしまったのも事実です。赤川次郎氏の作品に似た雰囲気でした。
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レイクサイド
ストーリィ
子供の中学受験のため、避暑地へ集まった複数の家族。アートディレクタの俊介も、今回は妻と息子に同行することに。妻は浮気をしている気配があり、相手は今回のメンバの一人と思われる。しかも妻と他の親たちは妙に仲が良い。いや、不思議な結束感がある様に感じられると云った方が正しいか。そんなところへ俊介の愛人がやってくるが、何と妻がその愛人を殺してしまった。隠蔽工作を他の親たちから勧められ、どうにも従うよりない状況に。この結束感は何なのだろう。
感想
ミステリィとしてはとても面白い作品でした。ただ、ちょっと作品が綺麗じゃありません。浮気とか、変なパーティでもありそうな雰囲気が最初からついて回るのです。もちろん、それはこの作品にとってとても重要なものであり、なくすことはできないでしょう。ただ単に、私の好みでない、と云うだけです。その雰囲気を除けば、満足度は高い作品です。何故、妻たちは妙な結束感があるのか。それをずっと感じさせながら、最後まで一直線。この辺りは流石です。
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殺人の門
ストーリィ
倉持修。子供の頃から私に強い影響を与えてきた。しかも悪い意味で。何度あいつを殺そうと思ったことだろう。実際に、殺す寸前まで行ったこともあった。しかし、あと一歩のところで…。殺人の門は私の目の前にある。この門をくぐるかどうかは私次第。くぐらぬも私次第。
感想
すごい作品です。すごいドラマです。圧倒されます。前半は純文学の様なイメェジが強く、かなり読み応えがあります。主人公の精神的な部分が、ひしひしと伝わってきます。もちろん、とても面白く、純文学の良さと大衆文学の良さを両方兼ね備えた様な印象を受けます。真保裕一氏の圧倒的な筆力に負けないくらいの力をひしひしと感じました。読ませる作品です。後半になると、徐々にミステリィとしての色が濃くなっていきます。これはこれで面白いのですが、前半の雰囲気そのままに、最後まで行っても良かったのではないかと思います。
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