井上夢人


<ノンシリーズ>
おかしな二人 (講談社文庫)
ダレカガナカニイル… (講談社文庫)
プラスティック (講談社文庫)
クリスマスの4人 (光文社文庫)
オルファクトグラム (講談社文庫)

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おかしな二人
ストーリィ
岡嶋二人は井上夢人と徳山諄一の合作ペンネーム。発表した作品は数多く、高い評価を受けた二人。その二人がどの様に出会い、乱歩賞への挑戦へと流れていったのか。作家デビュー後、如何にして仕事をこなしていったのか。そして別離へ。その全てが明らかになります。
感想
岡嶋作品の内容に触れているので、未読者は注意が必要です。が、岡嶋作品を読んでからの方が、断然楽しめます。デビューまでの二人はとっても不思議な関係。ほんと、小説みたいです。出会いから乱歩賞受賞まで。わくわく。デビュー後は、逆に苦しくなります。作家として仕事をこなしていくことが、二人の関係を徐々にギクシャクさせていく。それでも岡嶋二人として多くの作品を残せたのは、徳山氏の温厚な性格にあったのだと思います。それが別離へと繋がっていった。皮肉と云えば皮肉です。何れにせよ、一番偉かったのは井上氏の奥様でしょう。
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ダレカガナカニイル…
ストーリィ
警備会社に勤める西岡が飛ばされたのは田舎町。地元の人たちと揉め事を起こしている新興宗教団体の警備でした。赴任早々、団体施設が火事にみまわれ、責任をとる形で西岡は職を失います。しかし彼には赴任前とことなる何かが起きていたのです。ダレカガナカニイル…。
感想
片仮名で書かれた題名が絶妙です。葛藤が続く西岡、それが延々綴られるのですが、飽きさせないところが凄い。しかしどこか違和感を感じる。葛藤や会話の中で感じる漠然とした違和感。それを最後のシーンで一気に解消してくれました。成程っ! その他にも起きていた不思議な現象は、不思議でなくなります。それなら受け入れられます。700ページに迫る大作でありながら、冗長な感じは一切受けず、且つ、切れ味も抜群です。
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プラスティック
ストーリィ
フロッピィに納められた54のファイル。そこに記されていたのは、一人の主婦の遭遇した日々を綴った日記だった。出張の夫を待つ向井洵子。彼女が図書館で不可解な状況に陥ったところから、日記は妖しさを増していく。やがて日記の書き手が入れ替わり、また別の人へ、また別の人へ、そしてまた戻り…。最後に待ち受けている54番目のファイルの中身とは何なのか。
感想
最初に想像したとおり、そのままの作品でした。とてもよく、色々な作家によって取り上げられる題材なのですが、私はどうしても好きになれません。こういう結末は、どうしても受け付けないのです。表現や構成は、それなりに面白く、題材さえ違えば楽しめただろうな、と言う気がしました。残念。
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クリスマスの4人
ストーリィ
1970年。彼らは二十歳前後の若者だった。男女4人グループの1人の誕生日を祝ったその日、交通事故を起こしてしまう。運転手は無免許。しかも彼らはドラッグを…。被害者の男性は、どこかおかしい。事実を秘匿するため、彼らは共謀。死体を処分する。それから10年後、彼らは再び集う。そのまた10年後も。そして…。
感想
クリスマスと題名にありますが、うきうきした作品ではありません。が、不思議な事件。隠してしまいたい事実。共有する秘密。それらが読者を一気にこの世界に引き込みます。井上氏らしい展開であり、らしい結末であり。時が進むに連れて謎は深まり、深まった謎が一気に氷解する。これこそミステリィの醍醐味です。
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オルファクトグラム
ストーリィ
彼には双子の兄がいた。兄の名はトオル。生まれつき身体の弱かったトオル。ずっと前に死んでしまったが、彼は決して忘れてはいない。「風。見えるだろ」と云ったトオルを、「見えない」と云った己を。時は過ぎ、姉を殺した犯人に頭を殴られ彼が目覚めた時、トオルの言葉の意味を知る。においを見る能力のことを。失踪したバンド仲間、姉を殺した犯人を捜すため、彼はその力を磨き上げる。
感想
犬の嗅覚は、ヒトとは比べものにならないと云います。そんなに敏感な鼻を持っていたら、さぞかし大変だろう。そう思ったこと、誰にでも一度はあるでしょう。きっと、井上氏のスタートもそこだったのではないでしょうか。発達した嗅覚を持った人間が、どんな状態になるのか。とても説得力があります。そもそも、これ程までに「におい」を美しく、かつ神秘的に表現した作品を私は知りません。決して堅苦しい作品ではありません。展開は終始ドキドキに満ちていて、後半は文字を拾うのが、もどかしくて仕方ない。探さなければならない二人の人物。守らなければならない女性。発達した嗅覚のもたらす副作用。多くの要素が絶妙のバランスで繋がり合った素晴らしい作品です。
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