加納朋子
<アリスシリーズ> |
螺旋階段のアリス (文春文庫) |
<ノンシリーズ> |
ささら さや (幻冬舎文庫) コッペリア (講談社文庫) |
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螺旋階段のアリス |
ストーリィ
大企業を早期退職し、私立探偵を開業した仁木順平。そんな彼の探偵事務所に現れた一人の美少女、安梨沙。いつの間にやら探偵助手に収まってしまった彼女と二人で挑む依頼は、どれもどこか変わっている様です。
「螺旋階段のアリス」:同じ相手と離婚、再婚を繰り返す夫婦の鍵探し 「裏窓のアリス」:「浮気調査」ならぬ「浮気していない調査」 「中庭のアリス」:三十年飼い続けられている犬の捜索 「地下室のアリス」:会社の地下で鳴り響く電話の真相とは 「最上階のアリス」:妻から些細なお使いを頻繁に頼まれる真の理由 「子供部屋のアリス」:産婦人科で赤ん坊の面倒を見ることに… 「アリスのいない部屋」:題名が全てです |
感想
連作短編の魅力をしっかり味わうことが出来ます。7つの短編で構成されますが、この順番は変更不可です。「螺旋階段」はシリーズの幕を開けるに相応しい短編。説明調でないにも関わらず、その世界にすんなり入ることが出来ます。そこに持ち込まれた依頼の真相も「流石」の一言。全ての短編には「愛の形」が表現されています。納得できるもの、悲しいもの、微笑ましいものなどなど。それは読み手の感覚に因って変化することでしょう。ストーリィが進むに従って順平と安梨沙(アリス)との距離が、安梨沙の真実が徐々に明かされて行くその過程が絶妙。ルイス・キャロルの名作『不思議の国のアリス』に準えた日常のミステリィです。柄刀一の解説にも感心してしまいました。これぞ解説、成程。
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ささら さや |
ストーリィ
交通事故で夫を失ってしまった気弱なサヤ。生まれたばかりのユウ坊とたった二人で生きていかねばなりません。亡夫の家族にユウ坊の親権を迫られて、サヤは佐佐良へ移り住むことに。それでも亡き夫は、いつも彼女たちの傍にいます。時々は手助けも…。
「トランジット・パッセンジャー」:死んでしまった<俺>だが、何故か成仏できない 「羅針盤のない船」:佐佐良に家を見に来たサヤが拾った忘れ物 「笹の宿」:佐佐良に移り住んだサヤだが、旅館に泊まることに 「空っぽの箱」:郵送されてきた段ボールの中身はからっぽだった 「ダイヤモンドキッズ」:同世代の母親の1人と仲良くなったサヤ 「待っている女」:いつも玄関のドアを開け放している隣人 「ささらさや」:ユウ坊が40度を超える熱を出し、慌てるサヤ 「トワイライト・メッセンジャー」:サヤを見守る<俺>の想い |
感想
とてもとても優しい作品です。いきなり死んでしまう<俺>。物の言い方はちょっぴり乱暴ですが、心からサヤを愛し、そして心配しています。一人の人間が死んでしまう、そんな悲しい状況なのに、読んでいてそれを感じません。<俺>がサヤを想う気持ちが、世界を埋め尽くしているからです。「恨めしかった」と云う言葉もありますが、逆にそこにこそ一番あたたかな想いを感じます。奥さんのサヤは、もっともっと優しい女性。気弱で頼りなさげで、ついつい放ってはおけない感じ。彼女は誰よりも亡き夫とユウ坊を愛しています。著者自身の発言にもありますが、この作品は「ありきたり」な設定です。しかし他の人には描けない、形造ることの出来ない優しい世界,温かい世界が生きています。題名も素敵です。意味は勿論のこと、音も良く、ふんわりとしています。イラストも世界を壊しません。温かく優しい感じで、文章と二人三脚。最後まで読み終えたら、もう一度イラストを見てみましょう。最初のイラストを眼にしたら、再び涙が溢れてくるかもしれませんよ。
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コッペリア |
ストーリィ
人形を中心に渦巻く人間模様。或る者は天性の才により魅力的な人形を作り出し、或る者は破壊される人形の元の姿に魅了され、或る者は自分自身の中に潜む人形が他人を魅惑して。天才作家によって作られた人形と、生き写しとも思える姿をなす女優が同じ部舞台に立つ。
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感想
加納さんの作品の中では、最も毒が強い作品の一つだと思います。人形は「可愛い」、「怖い」という強い二面性を持っています。本作もその二面性が反映されていて、特に「怖い」の表現がうまく活かされている印象。それだけに、登場人物もひと癖、ふた癖もっている様子。また、女性的な感覚が、とても強く表現されている気もします。ところで冒頭にあった「人形を人間に変えてもらった男」は、果たして幸せだったのでしょうか。
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