川上弘美


<ノンシリーズ>
おめでとう (新潮文庫)
ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)
蛇を踏む (文春文庫)
センセイの鞄 (文春文庫)

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おめでとう
ストーリィ
互いを想う二人が色々な形で会っています。

 「いまだ覚めず」:10年振りにタマヨさんと会うあたし
 「どうにもこうにも」:モモイさんに取り憑かれた私
 「春の虫」:ショウコさんと旅に出る
 「夜の子供」:久しぶりの竹雄と見るナイター
 「天上大風」:別れてくれと云う言葉
 「冬一日」:トキタさんの弟の部屋で過ごす年末
 「ぽたん」:飛ぶにわとり
 「川」:川原でのんびり流れる時間
 「冷たいのがすき」:クリスマスに外食するなら…
 「ばか」:藍生と線路の行く先
 「運命の恋人」:とっても長い運命の人との時間
 「おめでとう」:哀しさと暖かさと優しさを同時に感じる詩
感想
魔法の様な文章です。とっても不思議な雰囲気の世界が広がります。ちょっと普通じゃない愛があっても全然気になりません。いきなり素敵な始まりです。タマヨさんが頓着しないこと。それに続くわがままなこと。そのバランスが素敵です。そして一文の長さが特徴的。読点で延々と続く長い一文は、とても好み。逆にすぐ句点が現れる短い一文でまとまった作品も。言葉の生み出す神秘性が感じられる一冊です。
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ゆっくりさよならをとなえる
ストーリィ
川上弘美と云う一人の女性の日常を描いたエッセイです。人とは違う感性を感じるエピソードがあれば、とても庶民的な面が見られたり。ちょっぴり不思議な世界が広がっています。
感想
ヘビを「比較的好き」と云う川上弘美さん。ぎょっ、とする発言ですが、読み進めると「なるほど」と思わせる部分もあります。妙に家庭的だったり、妙に世間ずれしていたり、妙に奇人的だったり。ほんと、不思議な女性です。とっても共感できたのは「本屋の本は、これと反対に、みんな自己主張している。「私を買ってよ」とくちぐちに叫んでいる。」ってこと。他にも古本をあちこちで拾って云々とか、本を好きになった切っ掛けとか、(自分はどうだったかな…)と思わせるエピソードも沢山ありました。
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蛇を踏む
ストーリィ
表題作の芥川賞受賞作を含む、不思議な3つの作品です。

 「蛇を踏む」:踏んでしまった蛇は母となって住み着いた
 「消える」:消える者と、家族と、決まりと
 「惜夜記」:色々な動物が登場する奇っ怪なお話
感想
「蛇を踏む」。蛇。とても気持ち悪いイメェジがありますが、表現次第で印象も変わります。踏んでしまった蛇、それは母となり、当たり前の様に住み着きます。そこまでは良かった。が、やっぱり蛇。にょろにょろ、うにょうにょした描写が続き、かつ引き込もうとする力の強さを感じ、ちょっと尻込み。蛇は蛇でした。「消える」は家族と決まりが面白い作品。消えることよりも風習にひかれます。(気持ち悪いけど…) 「惜夜記」は何だか怖いお話。ファンタジー色を持つホラー、と云う感じでしょうか。
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センセイの鞄
ストーリィ
第37回、谷崎潤一郎賞受賞作。わたし、大町ツキコが居酒屋で出会ったのは、高校時代の恩師、松本春綱先生。そこからツキコさんとセンセイは、飲み友達のなります。ゆっくりした時間を過ごすセンセイと、いつもマイペースなツキコさん。大きく年の離れた二人が、穏やかに心通わせる世界です。
感想
穏やかな世界です。ツキコさん、センセイ。このカタカナが、その雰囲気作りに一役買っています。お酒を飲んで、時には正体を無くしたり。それでも微笑ましさが常に漂っています。微妙な距離を保った二人。その距離は、近付いたり離れたり。絶妙なバランスです。最後は何故かとっても可愛くて、笑えてしまう微笑ましさ。心安らぐ作品です。
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