北森鴻
<旗師・冬狐堂シリーズ> |
緋友禅 (文春文庫) |
<「香菜里屋」シリーズ> |
桜宵 (講談社文庫) |
<ノンシリーズ> |
蜉蝣始末 (文春文庫) 共犯マジック (徳間文庫) 孔雀狂想曲 (集英社文庫) 支那そば館の謎 (光文社文庫) |
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緋友禅 |
ストーリィ
旗師・冬狐堂シリーズの短編集。
「陶鬼」:ツルさんが亡くなったことを知った陶子は遺体を引き取ることに 「「永久笑み」の少女」:掘り師の発掘した物が陶子の元に持ち込まれる 「緋友禅」:陶子が120万円で買ったタペストリが送られて来なかった 「奇縁円空」:円空仏の真偽を調べる陶子は鬼炎円空と云う言葉を聞く |
感想
シリーズ作品であるため、安心して読める一冊。しかし決してマンネリ感はありません。それは骨董品と云う世界の深さを、魅力を上手く表現しているからだと思います。表題作の「緋友禅」も勿論面白いのですが、お勧めは「奇縁円空」。一般人が思うところの骨董世界から始まるストーリィ。円空仏に魅入られる陶子。そして歴史。なんと云っても、この作品は極上のミステリィなのです。殺人事件の謎を解くばかりがミステリィではないことをこの作品は示してくれます。
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蜉蝣始末 |
ストーリィ
幕末から明治へ。激動の時代。商人の藤田傳三郎は高杉晋作に心酔し、財政面からその行動を支えようとする。傳三郎の後を常に追いかけているのは幼なじみの<とんぼ>宇三郎。傳三郎から厄介者扱いされ、殴られようとも蹴られようとも離れない宇三郎。やがて傳三郎は大坂で財を築く。
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感想
維新の英雄が大勢登場する作品。しかし傳三郎と宇三郎の輝きも、決して劣る物ではありません。二人は種類こそ違えど、兎に角純粋。世のため人のために動こうとする傳三郎。ただひたすらに傳三郎が心配な宇三郎。その二人の関係は友情でも、信頼でもありません。それを一言で表している台詞が、「この。馬鹿とんぼがあ」でしょう。
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共犯マジック |
ストーリィ
社会現象にまで発展した占い書、フォーチュンブック。人の不幸だけを予言すると云うその本が、とある書店の倉庫で発見された。店頭に並べたその日、次々に売れていったフォーチュンブック。しかし購入者は気付いていなかった。運命の歯車を狂わされたことに。そして、互いを不思議な糸で結びつけられてしまったことに。
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感想
「連作短編集」と書かれていましたが、私の感覚からすると、純粋な長編です。一冊の不可思議な本、フォーチュンブック。先ずは、その妖しげな魅力を、しっかりと読者に伝えたところがポイント。それがあるからこそ、後の事件を受け入れやすいのです。事件の影に、密かに存在するフォーチュンブック。それらの事件が一本に繋がって行く。起承転結を感じる作品です。
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孔雀狂想曲 |
ストーリィ
いつも開店休業状態の骨董店を営む「わたし」、越名さん。お世辞にも商売上手とは言い難い彼ですが、不思議な事件の謎を解くことに関してはちょっとした才能が。何故か謎やトラブルの方から、彼の元へ近寄ってくる様です。
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感想
骨董店って舞台が良いですね。そして主人公の越名さんの人柄がステキです。次々と登場する一癖も二癖もある人々。越名さんを罠にかけようとする相手もいます。が、どの人もどこか憎めない存在。シリーズ物としても、結構良い感じになると思います。続編に期待大です。
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桜宵 |
ストーリィ
ビアバー「香菜里屋」のマスター工藤が、絶妙の料理と共に、優しく静かに謎を解き明かすシリーズ第二弾。
「十五周年」:ふるさとで行われた記念パーティは、何か違和感が付きまとう 「桜宵」:張り込み相手の女性に惹かれた刑事と今は亡き妻 「犬のお告げ」:飼い犬にリストラ要員を決めさせる部長 「旅人の真実」:金色のカクテルを探して回る横暴な男 「約束」:学生時代のデモが原因で別れてしまった二人の奇妙に螺旋を描く運命 |
感想
美味しそう。居心地が良さそう。ゆったり流れる時間。それが「香菜里屋」です。その雰囲気と作品がマッチしているのがポイント。「十五周年」は少々遠回りですが、最も雰囲気が調和した作品。「桜宵」は微妙な心理を無理なく表現しています。「犬のお告げ」は人間関係の妙を巧く描いていますが、受け入れがたい展開であることも否めません。「旅人の真実」では「プロフェッショナル・バー香月」のバーマン、香月圭吾が登場。工藤と絶妙の掛け合いを演じています。「約束」は最も鋭い作品。工藤の色々な面が見られます。
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支那そば館の謎 |
ストーリィ
京都は北山にある大悲閣千光寺。僕・有馬次郎は寺男として暮らす日々。以前は世間を騒がす怪盗だったけれど、今はすっかり足を洗ってさ。僕のことをアルマジロと呼ぶ不届きな女性記者・折原けいが変な事件を持ってこなければ…ね。
「不動明王の憂鬱」:神経痛に襲われた住職と、銭湯を糾弾するビラ 「異教徒の晩餐」:鯖棒を3つ買っていた版画家の死体まわりに散らばった馬連 「鮎躍る夜に」:京都好きの女性が京都タワーのゴミ置き場で死体になっていた 「不如意の人」:バカミス作家の水森が姿を消した 「支那そば館の謎」:東洋美術を専攻した外国人が、来日後消息を絶った 「居酒屋 十兵衛」:十兵衛の姉妹店の評判が落ちた |
感想
非常にテンポの良い作品です。怪盗と呼ばれた人間が、足を洗ったにも関わらず、何故か事件に巻き込まれる。別段代わり映えのする設定ではありませんが、それでもやっぱり面白い。住職の存在と、有馬次郎の存在が、非常にバランス良く配置されています。アルマジロってあだ名(?)も良いスパイですね。解説には実在する大悲閣の住職が登場。この作品を読んだら、一度嵐山の千光寺を訪れたくなると思います。
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