舞城王太郎


<ノンシリーズ>
煙か土か食い物 (講談社文庫)
世界は密室でできている。 (講談社文庫)
阿修羅ガール (新潮文庫)
熊の場所 (講談社文庫)
九十九十九 (講談社文庫)
山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

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煙か土か食い物
ストーリィ
第19回メフィスト賞受賞作品。アメリカで外科医として働く四郎に届いた兄からの帰国を促す連絡が入る。日本に戻った四郎は、母が頭部を殴打され、生き埋めにされていたことを知り激怒。幸いにも一命は取り留めた母であったが、意識は戻っていなかった。四郎は己で犯人を探すことを決意する。父親と対立し家を出てしまった二郎は、今回の事件と関係があるのだろうか。
感想
とっても若い、新しい文章です。文全体が細々した感じで改行が少なく、話口調が現代人的。「?」や「!」の後にスペースがなく、文字の並びを見ているだけでも不思議な気持になります。しかし読めばすぐ慣れることができます。著者の筆力は相当のもの。題名も素晴らしい! 。二郎と父親の壮絶な闘いのシーン、息苦しくなる程その世界に入り込んでしまいます。ちょっと非現実的と云えなくもないくらい過激なのですが、読んでいる瞬間はその現実感に圧倒されます。かと云って作品全体が重い訳ではない。それどころか軽快でテンポが良いくら。主人公の台詞が全体的にリズムを付けています。
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世界は密室でできている。
ストーリィ
僕とルンババは幼馴染み。ルンババの姉の涼ちゃんは、屋根の上から飛んでしまった。中学生となった僕たちは、修学旅行で東京へ。そこで不思議な姉妹に出会う。名探偵となったルンババは彼女たちが巻き込まれた事件をも解決するが、僕はルンババが心配なんだ。
感想
本作のテーマはずばり友情。それは、とてもとても巧く描写されています。舞城氏の文章は決して説明的ではなく、ただストーリィを追っているだけなのに、必要な情報がしっかり組み入れられています。さらに主人公「僕」の心や行動が踊っているのだから、読者の心にもズシッと強く響いてくるのです。若干気になったのは中盤のシーン。はたしてこの作品に名探偵は必要なのでしょうか? ルンババは名探偵でなくてもこの作品の良さは十二分に伝えられたのではないかと感じます。
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阿修羅ガール
ストーリィ
好きでもないのに佐野なんかとセックスしてしまったアイコ。何でって…何でだろう。自分の想いすらよく分からないけれど、金田ことはちょっと気にかかる。あいつは私のこと、どう思っているんだろう。佐野は死んでしまったし、街はグルグル魔神とか云うのが暴走しているし、私の身にも危険が…。あれ?
感想
三島由紀夫文学賞受賞作。正直に云うと、難解で良く分かりませんでした。前半の1/3くらいまではちゃんとついて行けたのですが、それからだんだん世界が変わり、頭の中がぐちゃぐちゃに。前半も部分も、巷に蔓延る節操のない掲示板を眺めているかの様で、読書をしている気が今一しません。小説の中にまでネットの雰囲気はほどほどにして欲しいです。
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熊の場所
ストーリィ
舞城氏らしいテンポで進む短編集です。

「熊の場所」:猫を殺していると云う噂のまーくんと遊ぶ僕
「バット男」:浮浪者のバット男とやっちゃった同級生の女の子
「ピコーン!」:哲也の愛をしっかり掴んで離さない!
感想
舞城氏らしく、異様に長い文がちらほら。読点も少なくって、ページをめくれば文字ばかり。なのに不思議と違和感なく読めるのです。長い文であっても、テンポが良く、良く推敲されているな、と感じます。「熊の場所」はまーくんの真実が気になって、常にそれが頭の中にあるまま。ドキドキ感の高い作品でした。「バット男」はストーリィが思わぬ方向へ進んでいき、少々びっくり。色々なことが起きますが、でも、そんなに悲観的に感じなかったことが不思議です。「ピコーン!」は或る意味、一番強烈な作品。タイトルが巧く効いた作品ですが、好き嫌いが別れるかもしれません。
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九十九十九
ストーリィ
清涼院流水が生み出したJDCの探偵神・九十九十九。あまりの美しさに、その素顔を見た物は気を失ってしまう。生まれた時からそんな状態だったため、彼にとって、それは文字通り生死に関わる問題だった。
感想
なぜ、清涼院氏のキャラクタを舞城氏が書く必要があるのでしょう。読む前からそこに疑問がありました。読んでいくと、なるほど、確かにこれは舞城氏だからこそ作り上げられる世界なのかもしれません。ただ、ストーリィが進むにつれ、ドギツイ表現が少なからず出てくるため、読むのが辛いです。舞城氏の作品全てに云えることですが、読み手がその世界を受け入れられるかどうかで評価が大きく変わる傾向が強い様です。読み手側からの表現だと「当たりはずれが大きい」となるのでしょうか。
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山ん中の獅見朋成雄
ストーリィ
祖父の背中には鬣があった。父の背中にもある。という訳で、それは中学生の僕にもしっかりと遺伝した。多感なこの時期に鬣が生えてくる僕の気持ち、君たちには分かんないだろうし、そもそも無理に分かってもらおだなんて思わないけどね。オリンピックを目指せるくらい僕は足が速かったんだけど(これも遺伝だ)、この姿が人目にさらされるのは堪えられない。世間的には書家として名の知れた変人・モヒ寛も誘ってくれるしちょっと山の中で暮らしてくるよ。
感想
不思議な設定で読者の目を引きつけたと思ったら、一気にストーリィの中に引きずり込む文章力があります。書道に関する描写は幾つか「そうだなぁ」と思う部分があり、舞城氏は書道にも精通しているのか、取材のたまものか、どちらか分かりませんが、素晴らしいです。書道のみならず、舞城氏の知識は非常に深く自分自身の物とした上で、文字として作品にしている、そういう感じを強く受けます。後半はチョットあやしい世界になりますが、これくらいなら許容範囲内です。
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