愛川晶


<バルーン・タウンシリーズ>
バルーン・タウンの殺人 (創元推理文庫)
バルーン・タウンの手品師 (創元推理文庫)

<ノンシリーズ>
スパイク (光文社文庫)
ピピネラ (講談社文庫)
おせっかい (新潮文庫)

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バルーン・タウンの殺人
ストーリィ
人工子宮(AU)で子供を産むことが当たり前になった世の中。それでも一部の女性たちは母体からの出産を望みます。そんな人たちが暮らす場所、バルーン・タウン。そこで発生した事件にかり出される警察官の茉莉奈。アドヴァイスを与えてくれるのは彼女の先輩で妊婦の暮林美央です。

 「バルーン・タウンの殺人」:犯人は妊婦、しかし目撃証言は役に立ちません
 「バルーン・タウンの密室」:バルーン・タウンならでは「穴だらけ」の密室
 「亀腹同盟」:どっかで聞いたことのある題名ですが…
 「なぜ、助産婦に頼まなかったのか?」:題名はダイイングメッセージ
 「バルーン・タウンの裏窓」:暮林美央出産後のバルーン・タウン
感想
特異な設定。妊娠するという当たり前の出来事を、とても異常なこととして表現しています。いつかそんな時代が本当に来るのかもしれませんね。面白いのは「バルーン・タウンの密室」です。本来ならば密室となり得ない筈なのに、バルーン・タウンだからこそ密室となる。設定を上手く利用しています。「亀腹同盟」は面白いんですが、問題ありです。コナン・ドイルの名作(どの作品か分かりますよね?)のネタバレがばっちりと…。誰でも知っていると云う思いこみでしっかりネタを割ってしまうのはどうでしょうか。ストーリィ展開上、その必要もなかったように思います。こう云うのは避けて欲しいです。
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バルーン・タウンの手品師
ストーリィ
バルーン・タウンシリーズの第2弾。暮林美央が再び妊婦となり、バルーン・タウンに戻ってきます。

 「バルーン・タウンの手品師」:消えたディスクはドコへ?
 「バルーン・タウンの自動人形」:妊婦のからくり人形を作った師匠が襲われる
 「オリエント急行十五時四十分の謎」:サイン会で投げつけられたトマト
 「埴原博士の異常な愛情」:消えた妊婦を捜して行き着いた先は…
感想
「バルーン・タウンの手品師」はアイテムの状況(大きさとか)がイマイチ把握できませんでしたが、謎が出現する過程、謎を解く過程が楽しめます。「バルーン・タウンの自動人形」は本編よりも、美央と子供・夫との関係に注目です。「オリエント急行十五時四十分の謎」は図付きで状況説明があると、謎がより謎らしくなると思います。「埴原博士の異常な愛情」は少ないページ数で、多くの事象が詰め込まれた印象。あれもこれもで、少々お腹一杯。それでも最後はすっきりした感じが残りました。
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スパイク
ストーリィ
私・江添緑が飼っているのはスパイクと云う名のビーグル犬。散歩に連れて出たある日、スパイクそっくりの犬を連れた男性と出会います。彼の名は林幹夫。心惹かれる物を感じる二人は、再会を約束して別れます。しかし約束の時間、彼は来なかった。そんな人には思えなかったのに。心配する緑に声をかけたのは…え?
感想
パラレルワールド。SF的要素を持つ作品です。私にとってはあまり得意でない展開…と思ったのですが、ずぶずぶと作品に引き込まれていきました。二つの世界。一匹の犬。緑の優しい人柄と、ちょっととげのあるスパイク(勿論スパイクの心は優しいのです)。そのテンポの良さが作品のスピード感を上げ、一気に読ませてくれます。心がキュンとなる結末、感じてみませんか?
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ピピネラ
ストーリィ
結婚して家庭に落ち着いた「わたし」。平穏な毎日…の筈だったのですが、何かをきっかけにして体が小さくなってしまう奇病(?)に。優しい夫は奇妙な目で見ることもなく、やがて慣れていったかに見えたのだが、ある日突然、姿を消してしまった。夫を捜そうとするが、奇病が大きな障害に。そんな彼女の前に高校時代の友人が現れる。
感想
とってもとっても不思議な奇病からストーリィが展開されるため、興味津々で読み進むことができます。中だるみも感じることなく、一気読みができる作品です。主人公のわたし、その心境を描いた部分は、どこかエッセイを読んでいる様な印象を受けます。著者の心を反映しているのでしょうか? 「こういうこと」と「そういうこと」。同じような二つの表現の大きな違いは素晴らしい表現でした。
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おせっかい
ストーリィ
おせっかいな殺人者が登場する作品「おせっかい」。女流作家の橘香織が雑誌に連載中の架空のお話である。現実の世界では、本当のおせっかいもの古内繁が、部下のため身体を張り、結局は入院。そこに元部下が雑誌をお見舞いに持ってきたことをきっかけに、小説「おせっかい」の存在を知る。ひょんなことから、その小説内に入り込めることに気付いた繁。元部下の男女もそのことを知り、事態は徐々にややこしくなっていくが、香織の方でも、己の作品に入り込む男の存在に気付き始めていた。
感想
自分が書いた作品の中の作品の中に入り込む男を表現する作者の心境って、一体どんなものでしょう。現実が一体ドコにあるのか、精神的におかしくなってしまいそうで心配になるくらい。読んでいる方も、どれが真実の世界か、徐々に和からなくって行き、作品の中に心を引っ張られてしまいます。良い味を出しているのが繁の元部下である男女。今時のふらふらしている若者でありながら、お互いをとても大切に、そして必要としています。初めは、もっと支配的な関係に見えたのですが、人間ってそんなに単純じゃない。そう思わせてくれました。
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