森村誠一
<悪魔の飽食シリーズ> |
新版 悪魔の飽食 (角川文庫) 新版 続 悪魔の飽食 (角川文庫) 悪魔の飽食 第三部 (角川文庫) |
<証明シリーズ> |
新装版 人間の証明 (角川文庫) |
<ノンシリーズ> |
ミッドウェイ (角川文庫) |
§ 感想へ戻る § |
新版 悪魔の飽食 |
ストーリィ
七三一部隊。悪魔の部隊とも呼ばれる生物化学兵器の研究を目的とした部隊。人体実験を繰り返し、データを収集。実験体はマルタと呼ばれ、モノとして扱われる。七三一部隊が何をしていたのか、どの様な結末を迎えたのか、関わった人たちはどうしているのか。完全なまでに客観的立場を貫き、事実のみを正確に伝えようとした渾身の作品。
|
感想
日本人であるならば必ず知っていなければならないこと、特に海外旅行へ行かれる方は絶対に読んで欲しいと思います。読むべきです。 以前興味を持って調べたことのある私には既知のことも多く、大きな抵抗を受けることもなく読み切ることが出来ました。何よりも素晴らしいのは森村誠一の作家としての姿勢。事実のみを伝え様として、細心の注意が払われています。それは必ずしも万人にとって納得の行くものではないかもしれません。しかし、面白可笑しく書いたりとか、特定の誰かを糾弾しようとしたりとか、何かを煽ろうとか、そんなことは決してありません。簡単そうでいてとても大変なこと。見事にそれを実現している本作こそ社会派最高傑作と云っても過言ではないでしょう。
|
↑リストへ 感想へ戻る |
新版 続 悪魔の飽食 |
ストーリィ
七三一部隊を取り上げた『悪魔の飽食』の第二部。戦争末期、ソ連の参戦に備えて証拠隠滅を図る七三一部隊。放たれたネズミ。残された細菌。そして戦後。GHQの取り調べと、人体実験の研究成果を巡る駆け引き。やがて世界は朝鮮戦争へと突き進んでいきます。
|
感想
前作に比べ、インパクトは大きく劣ります。やむを得ないことでしょうし、インパクトが強ければ良いということではありません。しかし、読み物としての面白さも必要なのではないでしょうか。どちらかといえば「実録」的な位置づけの作品で、前作を補完する意味合いが強いと思います。
|
↑リストへ 感想へ戻る |
悪魔の飽食 第三部 |
ストーリィ
七三一部隊にスポットを当てた『悪魔の飽食』の完結編。実際に中国・満州へ赴いた森村氏。その現地調査の記録です。七三一の建物や関連施設を調査。さらに関係者(被害者)の生の声、中国の人々の思いを伝えます。第二部における、写真誤用事件にも触れています。
|
感想
資料集としての趣が強い作品。読んでいて、単調に感じます。また、内容が徐々に徐々に、客観性を失って行くのを感じます。写真誤用事件に関しても、ページ数が少なすぎです。リアルタイムでそれを知った人にとっては充分なのかも知れませんが、少なくとも私はそんな事件、知りません。それをあれだけの説明で理解するのは、到底不可能です。それに伴い、ミスを認める発言も小さく見えてしまう。加筆修正をすべきではないでしょうか。
|
↑リストへ 感想へ戻る |
新装版 人間の証明 |
ストーリィ
ホテルの最上階へ向かうエレベータ。一人の黒人がナイフで刺され、死亡した。捜査に当たった棟居(むねすえ)刑事は、被害者がホテルへ向かうタクシーの中で、既に刺されていたこと、西条八十の刺繍を持っていたことを手がかりに、一歩一歩前進していく。ニューヨーク市警の捜査の結果、被害者は「日本のキスミーへ行く」と言い残していることが判明した。
|
感想
被害者が黒人である、と云うことが一つのポイントです。白人と黒人、白人と黄色人。強者と弱者の関係の表現はさすがです。中でも棟居刑事が幼少のシーン。彼の父親が遭遇した災難の描写は、とにかく凄いとしか云いようがありません。読み手の心を強く叩く、そんな描写です。作品全体で云えることですが、人間関係の設定がとてもよく纏まって、ドラマティック。極めて完成度の高い作品であることは、間違いありません。
|
↑リストへ 感想へ戻る |
ミッドウェイ |
ストーリィ
平和を愛し詩を好む青年、降旗。日米関係の悪化や軍国化の風潮。降旗は望まずぬ道、海軍を志すことになります。当初、進路に疑問を抱いていたのものの、教育と云う名の洗脳が彼を軍人へと育て上げていきます。やがて日米開戦のパール・ハーバー。戦局は珊瑚海開戦からミッドウェイへと進みます。
|
感想
降旗青年が失ったものは何なのか。平和な世なら彼が得ていたはずのものとは。それを読者に強く考えさせるのが一人の女性、弓枝の存在です。彼女は最初から最後まで降旗の心にあります。戦争に支配されゆく降旗、一方で心から聞こえる弓枝の言葉。著者は「国家の目的によって個人の可能性を踏みつぶされた若者の無念」を描いたと述べていますが、実際にはそんな説明は不用。読めばひしひしとそれを感じることができます。森村誠一と云う作家が作品にこめるメッセージ、その強さを感じました。
|
↑リストへ 感想へ戻る |