乃南アサ
<音道貴子シリーズ> |
鎖 (新潮文庫) 未練 (新潮文庫) |
<ノンシリーズ> |
水の中の二つの月 (文春文庫) 結婚詐欺師 (新潮文庫) ヴァンサンカンまでに (新潮文庫) 氷雨心中 (新潮文庫) 悪魔の羽根 (新潮文庫) あなた (新潮文庫) |
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鎖 |
ストーリィ
音道貴子シリーズです。凄惨な事件が発生し、星野警部補と捜査にあたる音道。完全な男社会で生き抜くため、常に同僚にさえも警戒せねばならぬ苦しさ。やがて星野との間に亀裂が入り、単独行動を余儀なくされます。そして囚われの身となる音道。鎖に繋がれた彼女を支える物は一体何なのか。
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感想
同僚への警戒心をどうしても解かない音道。それは時として過剰すぎるのかも知れません。囚われの身となった音道を心から心配し、助け出そうとやっきになる同僚たち、それは彼女が警戒していた同僚たち。彼女が頑張って来たという証明です。思うほどに「女だから」と見てはいないと云うこと。一日も早く女刑事音道ではなく、単に刑事音道になれると良いですね。
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未練 |
ストーリィ
女刑事・音道貴子シリーズの短編集です。
「未練」:美味しいカレーを出すお店の主人は、別の男性の女房を殺したのか? 「立川古物商殺人事件」:無惨な死体を見ても平気で捜査を進める男が相棒に 「山背吹く」:仕事を離れ、知人の経営する旅館に滞在する貴子 「聖夜まで」:母は子供を虐待、父は無関心。貴子は結婚退職した先輩に会う 「よいお年を」:実家に帰った貴子が見かけた小さな事件 「殺人者」:病気の妻を見舞う夫、その心に悪魔がそっと入り込む |
感想
男社会の中で、ちょっと肩肘を張りながらも、音道貴子は頑張って生きています。表題作の「未練」は都会の暮らしがよくあらわれている作品。ポイントはやっぱりカレーですね。人と人を結びつけたのが、心のこもった食でありました。「立川古物商殺人事件」は、2編目に収録されているのがポイント。最後の「殺人者」へと繋がっていったのは、作品にまとまりをもたらしました。
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水の中の二つの月 |
ストーリィ
暇になるコトに耐えられないOLの亜理子。見栄っ張りで虚言癖のある恵美。頻繁に手を洗わないといられない潔癖性の梨紗。小学生の頃からの友人である3人が社会人となり再び巡り会うことに。小学生の彼女たちが遭遇した事件とは。そして社会人となった彼女たちが遭遇するものは。3人の主人公の裏と表を書き分けたサスペンス。
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感想
3人の書き分けがしっかりしているのがポイント。中でも特に訳が分からず怖い存在、恵美。表も裏も「こいつ一体…」と思わせる言動が読者の恐怖を助長します。人の持つ「どろどろ」を描いた作品なので、読了感はちょっとどんより。最後も予想通りの展開となりました。それでも、現在と過去が効果的に描かれ、想像力が促されて「どきどき」です。
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結婚詐欺師 |
ストーリィ
結婚詐欺師、橋口雄一郎。女性を騙し金品を巻き上げ生活する男です。次々と金蔓を見付ける橋口。警察も被害届が出されたことから捜査に乗り出します。捜査にあたった阿久津は橋口に関する情報を少しずつ入手。そんな折、一人の女性が新たに橋口のターゲットになりました。
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感想
題名通り、です。結婚詐欺師のお話。詐欺師、と云えば人聞きが良くない上に、立派な犯罪者です。が、実際どうなのでしょうか? それも一つの生きる術だったりしないのでしょうか。橋口も頑張って(?)女を騙しています。勿論リスクと背中合わせ。恐喝や泥棒をしている訳じゃないし…。と思ってしまうのですが、作中の橋口は本当にイヤな感じの男に表現されています。少なくともこんな男なら捕まってくれると爽快。阿久津の心や苦しみが上手に効いた作品です。
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ヴァンサンカンまでに |
ストーリィ
同期の男性と付き合いながら、部長とも不倫を続けるオフィス・レディの翠。部長との不倫を「ゲーム」と喩えるドライな性格。しかし同僚の女性が不倫相手と無理心中したころから、彼女の精神状態も不安定になっていきます。若い同期の男性、年上の部長、それぞれの悪いところばかりが目に付き、同僚たちへのやっかみはふくらみ、それでも自分は他の人と違うとの強がりが彼女をより辛い状況へと導きます。
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感想
オフィスラブ。この甘い言葉が小説になると、必ずドロドロになります。うわさ話が行き交い、他人を嫉み、自分は他の人とは違うんだという根拠のない自信。もう、苛々してしかたがありません。都合の良さも相当で、自分をひたすら守ろうとする行動。それは逆に自分自身を深く傷つける。不思議なのは、仕事をしている感じが全然しないこと。恋愛していると目に見える世界はこんな感じになるのでしょうか。
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氷雨心中 |
ストーリィ
手に職のある人々が遭遇するちょっと危険でちょっと怪しい短編集。
「青い手」:人気の線香に秘められた秘密とは 「鈍色の春」:ことある毎に着物を染め直して欲しいと頼む女性 「氷雨心中」:酒を造る職人の親分の元へ出稼ぎに行く青年 「こころとかして」:歯科技工士からデザイナへの転職を考えるが… 「泥眼」:何度泥眼を作っても納得してくれない相手に闘志を燃やす 「おし津提灯」:提灯屋を訪れたのは幼き頃面倒を見てくれた女性だった |
感想
ほどよく毒の効いた作品ばかりです。「青い手」はこの短編集の最初に相応しい作品。青い手と云う奇妙な表現、そして切なさと穏やかさで進む展開が怪しさで結ばれます。「こころとかして」は最も毒が強い作品であり、最も面白味のある作品でしょう。歯科技工士という影の職業に就いた己に対するもどかしさ。日の目の当たるデザイナへの憧れ。そして恋。それらを綺麗に纏め上げています。全作品とも、特定の、ちょっと変わった職業の人々にスポットを当てています。その職業ならではの設定が、上手く表現されていることが秀でしょう。
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悪魔の羽根 |
ストーリィ
ちょっぴり怖い話もある短編集です。
「はなの便り」:年上の恋人が、急に会ってくれなくなった 「はびこる思い出」:料理上手の妻と、優しい夫。しかし妻は… 「ハイビスカスの森」:沖縄へ旅行することになった恋人だが、台風に足止めを食らう 「水虎」:水泳のコーチとうだつの上がらない俳優 「秋旱」:未亡人となった寛子は、訪れた避暑地で旧友と出会う 「悪魔の羽根」:雪国へ引っ越すことになったフィリピン人の妻 「指定席」:目立たない男と喫茶店の空間 |
感想
「はなの便り」は、訳が分からず不思議な展開。その結末は、私にとって、とても可愛いものでした。こういう作品は好きです。「はびこる思い出」は、思いも寄らぬ展開に。でも、読了感は決して悪くありません。「悪魔の羽根」は不思議な作品ですが、説得力があります。「指定席」は別の短編集にも収録されていますが、目立たない男を巧く作品に居座らせています。
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あなた |
ストーリィ
浪人生の秀明は3浪しない様に必死に勉強…をしている様でしていない。予備校へ行ったかと思えば、午後からはパチンコへ。彼女を取っ替え引っ替えで、その時々を気ままに過ごす日々。携帯メールでとるコミュニケーション。そんな秀明は突然の体調不良に襲われる。そしてフクロウを感じるのであった。
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感想
学生の中でも特に楽しい大学生。勉強も遊びも色々できる、或る意味において、最も充実した期間。その楽しさを読者にしっかり伝えてくれます。携帯でやりとりされるメール。これが良い味を出してます。主人公・秀明は、やがて色々な苦しみに遭うのですが、いい加減な人間なので、読んでいても辛くありません。どこかで「ざまぁみろ」と思っているのかも。それでも徐々に秀明のことを嫌いではなくなっていくから不思議です。
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