貫井徳郎
<症候群シリーズ> |
失踪症候群 (双葉文庫) 誘拐症候群 (双葉文庫) 殺人症候群 (双葉文庫) |
<ノンシリーズ> |
神のふたつの貌 (文春文庫) 被害者は誰? (講談社文庫) |
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失踪症候群 |
ストーリィ
症候群シリーズ第1弾。警視庁人事課に属する不思議な人物、環。彼の本当の仕事は、警察が表立って動けない事件を極秘裏に捜査することであった。彼に従うメンバは私立探偵、托鉢僧、肉体労働者。今回環が受けた指令は、ここ数年に失踪した若者に若干の共通点がある、ということの調査だった。
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感想
ちょっと癖があり、ちょっと魅力的な人たちの集団。その中で最もスポットが当たっているのが私立探偵の原田。元警察官でありながら、私立探偵という不安定な職に就く父親に、娘が反発。夫に従うことしかできない妻。家庭内の問題と、失踪者に関する仕事の問題。その両者が巧く絡み合い、一つのストーリィとなっています。収束のさせ方は、若干乱暴な気もしました。
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誘拐症候群 |
ストーリィ
症候群シリーズ第2弾。身代金数百万円。たったそれだけの金額。勿論少なくないものの、決して払えない金額ではない。そんな誘拐事件が、世間の知らぬところで頻発していた。誘拐された子供も無事に戻ってくるため、警察へも連絡されない。狡猾な誘拐事件が起きていた。托鉢僧の武藤は、ティッシュ配りの青年・高梨と知り合う。高梨は有名会社の御曹司だったが、家を飛び出し韓国人の女性と結婚、一児をもうけていた。その子供が今、誘拐される。
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感想
今回は托鉢僧の武藤にスポットが当たります。人付き合いを好まない武藤が、高梨青年と知り合って行く過程、とてもしっかり描かれています。武藤の不思議な存在感も見逃せません。シリーズ2作目のため、托鉢僧の人を寄せ付けない雰囲気を、既に読者は知っています。その托鉢僧が一人の青年とつきあい始める。そこが面白い。シリーズ作品ならではの面白さと云えるでしょう。
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殺人症候群 |
ストーリィ
症候群シリーズ第3弾。法で守られた少年たちによる凄惨な事件。少年たちは加害者のはずなのに、被害者よりもその人権が守られます。一方被害者の家族は、好奇の視線にさらされ、裁判を起こせば陰口を叩かれる。最も大切な人を殺され、その上に、この仕打ち。残された者たちは、加害者の少年たちに何を思うのか。
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感想
症候群シリーズの1冊ですが、前の2冊を読んでから随分時が経ってしまったため、繋がりはさっぱり思い出せませんでした。少年犯罪と、それにより壊されるありきたりの生活。被害者の心理描写もしっかりしていて、読んでいて結構つらいです。さらに悲しい考え方へと進んでしまいますが、ミステリィとしてもしっかりしていて、読み応えのある一冊です。
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神のふたつの貌 |
ストーリィ
教会に住む牧師の息子・早乙女輝。痛覚に異常を持って生まれてきた彼は、それが元で、もっと大切な部分へ影響を受けてしまいます。人として大切な物が欠落したまま、それでも、誰よりも純粋に生きる早乙女。侵入者、母の死、父との距離。時は流れ、早乙女は牧師になります。
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感想
欠落した感情の表現と、それに逆行する感情とを巧みに表現したく作品です。キリスト教、その牧師たる人物の持つ泰然自若とした雰囲気。牧師の鏡と云っても過言ではない父。しかし父としての欠落が母には重い。そんな両親を見つめる早乙女の心情を、どこか冷めた目で、しかし完全に冷め切ることは出来ぬ、矛盾の表現です。それがやがて牧師としての落ち着きへと繋がる様が、きれいです。無理のない、それでいて神秘的な世界がここにあります。
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被害者は誰? |
ストーリィ
容姿端麗、でも性格は…そんな作家の吉祥院先輩。捜査一課の刑事である桂島は、捜査のアドヴァイスを受けるため、今日も先輩の元を訪れます。
「被害者は誰?」:飼い犬が発見した頭蓋骨。犯行手記は何を示すのか。 「目撃者は誰?」:学生の頃憧れていた女性と社宅で再会し、恋に落ちる。 「探偵は誰?」:吉祥院先輩が書いた小説を読んで登場人物を当てることに。 「名探偵は誰?」:事故で入院してしまった先輩。 |
感想
単刀直入に云って、これは面白いです! 特に変わった設定という訳ではありません。が、まず、テンポが良い。そして個々の作品がしっかりと個性を持っています。収録順もとてもバランス良く、吉祥院先輩のキャラクタ性が効果的に働いています。吉祥院先輩は、どこかで見たことのある様な、聞いたことのある様な…そんなキャラクタではありますが、それでもやっぱり面白い。裏をかかれたい人は是非。
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