大崎善雄


<ノンシリーズ>
パイロットフィッシュ (角川文庫)
九月の四分の一 (新潮文庫)

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パイロット・フィッシュ
ストーリィ
「パイロットフィッシュ:水槽を綺麗にしてくれるいい人の魚」。アダルト雑誌の編集に携わって19年の山崎に掛かってきた電話は、昔の恋人・由希子からでした。孤独だった19年前、沈みかけていた彼を救ってくれた相手。記憶は過去へと遡ります。そして現在へ。
感想
とても素敵な言葉埋め込まれた作品です。作品全体のことよりも、とにかく「一言」が気に入りました。中でも「犬は人間の十分の一しか生きられないんです。」の後に続いた言葉。そんな誰でも、子供ですら知っている事実。それにこれ程の言葉を繋げることが出来るのか、これ程素晴らしい考え方があるのか、と感心しきり、感動たっぷり。編集長の沢井が病の床で呟いた一言。ある作品からの引用でしたが、その背景はとてもとても大きな物。あ〜、なるほどっ、と思わずにはいられない。この背景も、そしてその一言も、とてもとても素晴らしいものでした。
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九月の四分の一
ストーリィ
出会いと別れを描いた4つの作品。

 「報われざるエリシオのために」:チェスにのめり込んだ大学生活
 「ケンジントンに捧げる花束」:イギリスから届いた将棋ファンだった夫の手紙
 「悲しくて翼もなくて」:コピーバンドのボクが惹かれた一人の少女
 「九月の四分の一」:ブリュッセルで出会った相手との待ち合わせは…
感想
個々の作品は、とても面白い。「報われざるエリシオのために」は最も完成度が高く、面白味もある作品です。チェスにのめり込み、普通からは逸脱し、それでも前を向いている感じがします。表題作の「九月の四分の一」はタイトルが絶妙。とてもステキな想い出を綴った作品です。他の2作も負けず劣らず良い作品です。が、どうも同じ様な印象を受けるのです。この作品の主人公は、何れも著者の人生を反映している様に思います。結局4編とも、見る方向を変えただけとも思えます。4つの作品を、それぞれ別の機会に読めば、そんなことも思わなかったでしょう。が、一冊に纏まって一気に読む場合、「統一性」だけではなく、「違い」も重要なポイントです。やはり大崎氏は長編向きの作家なのかもしれません。
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