坂木司
<ひきこもり探偵シリーズ> |
青空の卵 (創元推理文庫) 仔羊の巣 (創元推理文庫) 動物園の鳥 (創元推理文庫) |
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青空の卵 |
ストーリィ
僕の名前は坂木司。僕には大切な友人がいる。友人の名前は鳥井真一。彼はひきこもりだ。今はプログラマーとして、ひきこもりつつも頑張っている。僕は彼をひきこもったままにしない様、何やかやと理由を付け、彼を外に連れ出そうとしているんだ。料理がうまくて、推理も冴える、そんな鳥居と僕の物語。
「夏の終わりの三重奏」:スーパーで出会ったヒステリックな女性 「秋の足音」:交通事故が原因で視力を失った青年に出会う 「冬の贈りもの」:次々と送られてくる不思議なプレゼント 「春の子供」:迷子? 片言の言葉しか発しない子供の親を捜すことに 「初夏のひよこ」:事件が解決してその後の人間関係は… |
感想
連作短編集らしい連作短編集です。タイトルも、内容も、一つの繋がりがしっかりとしています。とても好きな感じの作品ですし、巷の評価も相当高いのではないかと思います。「ココが好き!」と云った感想も多いと思うので、私は気になったところをピックアップしてみます。
先ず、ひきこもり。たいしたひきこもりじゃありません。結構簡単に外に出るし、人とコミュニケーションを取ることもできてます。寧ろ社交性に富んでいる感じ。それ自体は良いのです。ただ、「僕の友人は、ひきこもりだ」と表現したのなら、最初にひきこもりらしさを出して欲しい。外に出ることには理由がありますし、ちゃんと読んでいけば、「ひきこもり」であることが分かります。でも最初にひきこもりであることを、説明的ではなく感じさせて欲しいのです。登場してすぐに外出してしまいますから、かなり拍子抜けをします。 次に、涙です。語り手の坂木司はホントに簡単に泣きます。それ自体が悪いとは思いませんが、あまりに何度も簡単に泣くので、軽くなってしまうのです。泣いていても、「またか…」と思うのです。彼が泣くことよりも、そのことにより発生する事象が重要なのでしょうが、ちょっと安易に泣きすぎでは? 「泣く」と云うイヴェントでも、表現を変えるとか、涙を流さず泣くとか、変化が欲しいところです。坂木司が感動して泣いても、読者に感動は全く伝わりません。鳥井の「坂木、坂木、もうすぐだぜ。な、帰ろう?」の一言に感動できるのです。ところがその前で坂木が泣けば、一度目や二度目はまだしも、三度四度なれば冷めてしまいます。 最後に、推理です。推理というか、当てずっぽ。当てずっぽの強引な推理は決して嫌いではありません。名探偵シャーロック・ホームズなんて、当てずっぽの雨霰。でも、妙な説得感がありますよね。鳥井の推理にはそれが不足気味。もう少し推理の要素を増やすとか、ワトソン役の坂木を上手く利用するとかすれば、説得力が増すのではないでしょうか。 云いたいことをズケズケと書いてしまいましたが、決して悪い作品ではありません。今後、注目です。 お気に入りの一文
でもいいんだ。かまわないさ。これが、僕だ。
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仔羊の巣 |
ストーリィ
ひきこもり探偵シリーズ第2弾。ひきこもりの友人・鳥井のために奔走する僕・坂木司の物語。でも名探偵はもちろん坂木ではなく鳥井。
「野生のチェシャ・キャット」:坂木の職場の人間関係が気になるが鳥井は風邪 「銀河鉄道を待ちながら」:地下鉄の駅で不審な少年の謎を解く鳥井 「カキの中のサンタクロース」:坂木が女子高生に嫌がらせを受ける |
感想
前作で免疫が付いたせいか、比較的簡単に出歩く「ひきこもり」の鳥井にも違和感を感じません。信頼で結ばれた坂木と鳥井ですが、坂木の発言が少し気になりました。「ひきこもりの友人がいる」と、口にするのです。別にそれを鳥井が気にしていることもない様なのですが、実際問題、どうなのでしょう? 鳥井のため、時間の融通が利く外資系の会社に勤めた優しさと、そのことを口に出してしまうギャップに少々違和感を覚えます。とはいえ、全体的に良い雰囲気を保ちつつ、且つ、鳥井の推理が前作よりも説得力の高い物になっている様な気がします。
お気に入りの一文
どこか大きく傷ついた人はとてつもなく優しく、そして深い
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動物園の鳥 |
ストーリィ
ひきこもり探偵シリーズ第3弾にして完結編。坂木司、鳥井の共通の友人・木村栄三郎。老人と呼ばれる年齢だが元気はつらつの栄三郎さんには、高田安次朗という幼馴染みがいた。安次朗さんは動物園で働いているが、若い女性が大好き。ちょっと気になる女性の周囲で起きている事件が気にかかる。
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感想
シリーズ作品としての楽しさに加え、たった3作で完結させてしまったことによって全体的にまとまった感じになったのが冴えています。この作品に限らず、シリーズ全体を通したことですが、表現をぼかす所が非常に上手いのが特徴。「(読者が)誰でも分かるのに敢えて書かない」場合と、「読者に印象づけるために敢えてぼかしている」場合の二つがあります。そのどちらも上手いのです。シークレットトラックはお得感がありました。唯一気になったのが「役不足」の使い方を鳥井が間違えるシーン。鳥井ほどの人間が間違えるのは大きな違和感を覚えます。坂木が間違えるのだったらば、すんなり受け入れられたのですが。
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