柴田よしき


<正太郎シリーズ>
ゆきの山荘の惨劇 (角川文庫)
猫は密室でジャンプする (光文社文庫)
猫はこたつで丸くなる (光文社文庫)
猫は引っ越しで顔あらう (光文社文庫)

<ノンシリーズ>
ふたたびの虹 (祥伝社文庫)
猫と魚、あたしと恋 (光文社文庫)
残響 (新潮文庫)
時の鐘を君と鳴らそう (光文社文庫)

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ゆきの山荘の惨劇
ストーリィ
猫探偵正太郎が活躍シリーズの第1弾。正太郎の現在の飼い主は売れない女流作家の桜川ひとみ。彼女が招待された結婚式が行われるのは山奥にある山荘。飼い主に拉致された正太郎は山荘で前の飼い主浅源寺竜之介、幼なじみの犬サスケ、新郎の飼い猫トーマ(美猫)らと出会います。招待された人々も集まり、晩餐の時間となりました。
感想
猫です、ネコ。本当に本当の猫好きでなければ書けない作品でしょう。視点は基本的に正太郎。この猫、妙に猫くさく、一方でみょうに人間くさいのが特徴。そしていかにも猫ですね。ところで、人間の世界は不穏です。何やら事件が勃発します。人間の世界で探偵役なのは前の飼い主。こちらはしっかりと事件を解決しますが、正太郎だって解決を。人間の解決と猫の解決が一つになり、初めて本当の解決となる。一作読んだだけなのに、二作読んだ様な気分になれるでしょう。
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猫は密室でジャンプする
ストーリィ
猫探偵正太郎が活躍するシリーズの短編集です。

 「愛するSへの鎮魂歌」:妄想が原因で、或る女性の隣に引っ越した男
 「正太郎とグルメな午後の事件」:美味しい話は甘い話でした
 「光る爪」:猫の爪に塗られていたマニキュアの訳とは
 「正太郎と花柄死紋の冒険」:猫がダイイングメッセージを、と騒ぎ立てる桜川ひとみ
 「ジングルベル」:一人で過ごすことに耐えられないクリスマス
 「正太郎と田舎の事件」:田舎に連れて行かれた正太郎と蔵の中
感想
「愛するSへの鎮魂歌」は主人公の男の妄想と、危ない行動に割り込む猫の存在が面白い。猫の我が道を行く様と、何とかしてやろうとする男の闘いが、軽い感じで表現されています。「光る爪」は本作で一番ミステリィらしい作品。「正太郎と花柄死紋の冒険」は正太郎の飼い主、桜川ひとみの暴走が楽しいところ。猫がぞろぞろっと云う感じも好みです。「ジングルベル」では脇役の正太郎。他の作品とはちょっと趣が異なりますが、短編集にはこういう角度の異なるものがある方が飽きが来なくて良いと思います。
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ふたたびの虹
ストーリィ
東京で京都の味を伝える小料理屋「ばんざい屋」。京都庶民の味だった「おばんざい」を中心に、心の籠もった料理でおもてなし。お客は常連さんが主流。女性でも一人で気軽に入れる雰囲気です。誰かが持ち込んだ小さな謎、女将の過去と現在。家族や親子がテーマの連作短編集です。
感想
小料理屋の女将が謎をさくさく解いていく、そんな展開を予想していたのですが、すぐにそうでないことに気付きました。主人公はあくまで女将。いつでも彼女が中心に居いるのです。料理の出てくるシーンはとっても繊細な描写。それがお店の雰囲気を間接的に表現してくれています。一方、感情表現は時に直接的。「思わず号泣してしまいそうに…」の様な表現が、比較的簡単に出てきます。個人的な好みとしては、その前に稍遠回しな表現が一節あって欲しい。そして「号泣」も抽象的(だけれどもそれと容易に分かる)な表現だったらより良いかな、と思います。一長一短なんですけれど。それでも多くの感動を残してくれました。清水さんの人柄や思慮深さ、奥床しさが素敵です。
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猫と魚、あたしと恋
ストーリィ
猫は水が嫌いなのに魚が好き。そんな不思議な組み合わせは恋と似ている様です。

 「トム・ソーヤの夏」:子供の頃の仲良しグループの一人が殺される
 「やすらぎの瞬間」:万引き犯人が犯行後に見せる安堵の表情
 「深海魚」:ストーカー行為を繰り返す女
 「どろぼう猫」:偶然再会した友人を訪ねてきた男性
 「花のゆりかご」:沢山の花を咲かせる老婆
 「誰かに似た人」:恋人の持っていた写真は自分にそっくりな女性だった
 「切り取られた笑顔」:インターネットに生きがいを見付けた主婦
 「化粧」:義母が転がり込んで来て、夫との間もおかしくなっていく
 「CHAIN LOVING」:不眠症とチェーンスモーカーと
感想
恋を描いた作品週。しかし、どこか怖さがあります。すんなりとした、優しい恋ではありません。「やすらぎの瞬間」は万引き犯の表情とその境遇、そこに自分自身を当てはめた女性の感情が巧く表現されています。「どろぼう猫」は終わり方が秀逸。「誰かに似た人」や「化粧」は自分自身を見直すところが、作品を引き締めています。
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残響
ストーリィ
やくざの元夫が近くにいると発揮される杏子の不思議な力。現場に残された声を聞くことができるその能力に、事件の方から杏子の元を訪れます。

 「呟き」:警察からの要請で元夫と共に殺人現場へ連れていかれた杏子
 「来なかった、明日」:神戸の地震がもたらした狂気が杏子を襲う
 「薔薇の刻印」:杏子の力を初めて見た刑事と偶然出会う
 「気泡」:杏子の力を知り、つきまとい始めたルポライタが巻き込まれた事件
 「残響」:女がヒモの男と喧嘩した後、男が殺害され容疑をかけられる
感想
イタコとか、エドガー・ケイシーを思い出しました。最初はどこかホラー的な雰囲気。しかし、予想外にも前向きな展開が繰り広げられます。とても気になって、かつ、とても勿体なかったのが途中で出てくるバラの花。誰が送ってくれたのか。分かれた夫やその関係の人? それとも東海林さん? それとも警察関係者? それとも葵? それとも全く見ず知らずの人? などなど。いろんなドラマが作れそうに思います。
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猫はこたつでまるくなる
ストーリィ
猫探偵正太郎が活躍するシリーズの短編集です。

 「正太郎ときのこの森の冒険」:きのこ狩りで一緒になった官能小説家は…
 「トーマと蒼い月」:血統書付きのトマシーナはお見合いをさせられる
 「正太郎と秘密の花園の殺人」:同居人の取材に付き合わされると何かが起こる
 「フォロー・ミー」:恋人にいきなり振られた編集者に届いたメール
 「正太郎と惜夏のスパイ大作戦」:金太(猫)の飼い主の落とし物を拾う
 「限りなく透明に近いピンク」:エンゲージリングはどこに消えたのか
 「猫はこたつで丸くなる」:こたつが部屋に入りご満悦の正太郎
感想
タイトルが良いですね! この作品は、猫に対する真実の愛を感じるシリーズ。それは主人公の正太郎に限った話ではなく、他の猫たちにも同じ様に愛情が注がれています。だからこそ、このタイトルが活きてきます。本作では、正太郎の同居人こと、女性推理小説作家の桜川ひとみの恋愛も順調に描かれていて、恋人の転職に合わせて引っ越すことになるのか。はたまた、担当が替わってしまった編集者と何かが起こるのか。その辺りが微妙に進んでじらされて、本筋とは別のことながら興味津々。次はもう少し進展するか、期待してしまいます。
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猫は引っ越しで顔あらう
ストーリィ
猫探偵正太郎が活躍するシリーズの短編集です。

 「正太郎と天ぷらそばの冒険」:恋人を追って東京へ引っ越す同居人と正太郎
 「正太郎と古本市の冒険」:同居人の作品を古本で購入する不思議な男性
 「正太郎と薄幸の美少女の冒険」:同居人の家に出る犬幽霊の正体は?
 「祈鶴」:恋人が殺された娘にどう接したら良いのだろう。猫に話を聞いてもらう。
感想
猫のかわいらしさと奔放さ。動物探偵としての役回り。本格ミステリィとしての醍醐味。全てを兼ね備えたシリーズの一冊として、今回も素晴らしい完成度です。恋人を追って東京へ引っ越す同居人・桜川ひとみ。宿をドコにしようか…「正太郎と天ぷらそばの冒険」。同居人が巡る宿候補の部屋には、何故か同じカップ麺が置かれているミステリィ。シリーズとしての展開を大切に、短編としての独立性も維持しています。新たに加わったレギュラー猫のフルハタ(フルフル)と、ニンザブロウ(ニンニン)と共に冒険する正太郎。そして最後を飾る「祈鶴」は一転、視点が正太郎ではなくなります。しかし最も印象的な作品です。本シリーズ中でもトップレベルの作品でしょう。
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時の鐘を君と鳴らそう
ストーリィ
テラ人とガウリア人が存在する世界。ガウリア人寄りの銀河中央出版局で働くテラ人のララは、ミスが元で左遷されてしまう。左遷先で出逢ったのは、次期大統領候補のウイニー。かつて学生時代を友にした天才だった。
感想
SF的要素とファンジー系要素が強い作品でちょっと抵抗を感じたのですが、テンポが極めて良く、その世界にもすんなり入ることが出来ました。人間模様を追った作品のため、特別にこの世界に対して抵抗感を抱くこともなかった様に思います。結末はちょっと好みじゃありませんでしたが、後味は悪くありません。
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