島田荘司
ハリウッド・サーティフィケイト |
ストーリィ
舞台はロサンゼルス、ハリウッド。LAPDに届いた衝撃的なヴィデオ、それはレオナの親友パティの惨殺シーンでした。裏ルートで出回っているらしいヴィデオ。続いて同種の事件発生、レオナの身にも危険が迫ります。親友の敵をとるため自ら危険に飛び込むレオナと、それに引きずられる周囲。何故パティはかくも悲惨な殺され方をせねばならなかったのか、裏で何が起きているのか。狂気の真相にレオナは迫ります。
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感想
島田荘司の考えを強く反映したキャラクタの一人、レオナ。彼女が最後まで不安定なまま暴れ回ります。周りは大変ですね。エッセイや対談で島田荘司が述べること、それが随所に散りばめられた作品です。舞台はハリウッド、当然ながら日本ではありません。外国人作家による作品と云うのは独特の雰囲気があるもの。この作品にはそれがあるんです。日本人作家が幾ら舞台を外国にして描写を重ねても、こう云う雰囲気はあまりありません。良いのか悪いのか、何がその雰囲気を生み出すのか、良く分かりません。が、やっぱり島田荘司なんだな…と思いました。
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ロシア幽霊軍艦事件 |
ストーリィ
きっかけはレオナがファンから受け取った一通の手紙。その内容に興味を惹かれた御手洗と石岡は、箱根のホテルへと向かいます。そこに存在したのは、芦ノ湖にロシアの軍艦が浮かんでいる謎の写真でした。
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感想
御手洗&石岡のコンビ(?)が謎を解く人気シリーズの一作ですが、この作品では彼らも脇役なのでしょう。登場シーンはとても多い。しっかり謎も解きます。が、それだけでは何だか物足りなさを感じます。それを補うのは、謎が解明された後。ちょっと長いエピローグです。きっと作者はこのエピローグを書くために、この作品を手掛けたのだと思います。
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セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 |
ストーリィ
世間を騒がせた占星術殺人事件から若干の時が流れ、漸く落ち着きを見せ始めた馬車道の2LDK。御手洗と石岡の元を訪れた老婦人の話、御手洗は事件の発生を察知して重い腰を自ら上げる。少女誘拐と、セント・ニコラスの靴。誘拐事件には積極的な御手洗だったが、靴の捜索には興味を示さなかった。
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感想
この作品、文庫本で購入しましたが表紙が良いですね! 創元推理文庫の海外作品みたいな雰囲気です。御手洗シリーズだからこそマッチします。事件を効果的に表現しているのは、シアルヴィ館のクリスマスと題されたプロローグ。ここで読者は、ダイヤモンドの靴に関する予備知識、その背景などを、無理なく注入されてしまうのです。あとは御手洗の魅力で一直線! 気付いたら馬車道の中に入り込んでしまった自分に気付くでしょう。
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魔神の遊戯 |
ストーリィ
スウェーデンで教授をしている御手洗潔。一人の精神を病んだ患者が描き続けた不思議な絵はスコットランド、ネス湖に近いお城を描いた物だった。その絵には何故か巨大な魔神の姿が。そして今、その地で凄惨な連続殺人事件が発生する。発見された遺体はバラバラ。しかも刃物で切られた訳ではなく、強い力で引きちぎられていた。
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感想
連続殺人は当たり前、バラバラ殺人だって珍しくない。そんな昨今の探偵小説ですが、これ程不思議なバラバラ殺人はちょっと思いつきません。なんと云っても「ひきちぎられて」いるのです。ダイイングメッセージも登場し、これ以上ないくらい本格の世界が開けます。なのに何故か消化不良気味。読者を引きつける文章と展開の妙は流石に島田荘司です。最後の最後、本格にとって最も大切な謎が明らかとなるシーンにもう少し魅力が欲しかったです。一番盛り上がるべき瞬間に、何故か冷めた目で世界を見てました。
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北の夕鶴2/3の殺人 |
ストーリィ
吉敷刑事に掛かって来た電話は、元妻の通子から。通子の身を案ずる吉敷は通子に会うため上野駅へ。しかしあと一歩のところで列車は発車してしまう。通子を乗せた「ゆうづる」は北へ。舞台は青森から北海道へと移ります。後を追った吉敷を待っていたのは大きな謎と通子に迫る危機でした。
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感想
吉敷刑事シリーズの分岐点となる作品。別れた妻をいつまでも想う吉敷と、別れた夫をいつまでも愛する通子。しかし二人は会うことすらままならない。その秘密が明かされるのが本作です。普段は冷静な吉敷も、通子が絡めば人間くささのかたまりです。自らの身にも危険が迫り窮地に立たされようとも、ただただ通子を守るために前へ進む。そして救うため、命をかけて謎を解く。その鬼気迫る様が手に取るように分かります。その勢い、もどかしさは読む物をひきつけずにはおかぬでしょう。吉敷と通子の考え方の違いなどが、良いタイミングで表現されていることもポイントと云えるでしょう。
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嘘でもいいから誘拐事件 |
ストーリィ
TPSテレビの名物ディレクタ、軽石三太郎。やらせ番組、それも心霊現象を好み、強引なまでの手腕で成功を収める男です。その下で働く面々の苦労はいつも通り。シリーズ第2弾。
「嘘でもいいから誘拐事件」:ロープウェイのゴンドラから消えた女性 「嘘でもいいから温泉ツアー」:温泉ツアーと幽霊と自動車事故 |
感想
ユーモアミステリィの短いお話。気楽に読める作品です。或る程度パターン化された展開と、登場人物の行動。それが良い意味で、読みやすさを生んでいます。「嘘でもいいから誘拐事件」は人間消失の謎。ユーモアミステリィであっても、大きな謎をしっかり組み入れるあたりは流石です。「嘘でもいいから温泉ツアー」は時が流れ、ちょっと立場が変わったことに違和感を覚えます。しかし、最後まで油断ならない良作です。
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ポルシェ911の誘惑 |
ストーリィ
クラッチを繋ぐ、運転するという動作において最も難しく、もっとも楽しい作業。そのどちらの面でも最高レヴェルなのがポルシ911。著者の911に対する思い入れや、車社会、日本や世界の車事情と民族性を鋭く、そしてちょっぴり攻撃的に綴った作品。
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感想
題名から勝手に推測し、ポルシェ911の話ばかり…と思っていたら、意外にそうでもありません。ポルシェなんて分からない、とか、車なんて興味ない。なんて人でも結構安心して読めると思います。専門的な話もさほど多くはなく、独り善がりでもない。やっぱり、作家が形にした作品と云うのは、受け口が広いのだなぁ、と実感。
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夏、19歳の肖像 |
ストーリィ
バイク事故で長期入院することになった主人公。病室の窓から見える世界、そこで一人の女性に興味を惹かれます。彼女への想いを募らせ、窓に額を寄せる日々ですが、ある日彼女の不審な行動を目にするのでした。そして退院へ。
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感想
とてもバランスの良い作品です。バランスとは主人公の行動のこと。とても人間的であり、無理がありません。想いを寄せる女性に対し、積極的に行動はするものの、いざとなるとおたおたしてしまう。これで十分だと自分自身を納得させてしまう。でも…。そんな感情表現がとてもしっかり描かれているのです。ミステリィらしい結末を迎えますが、それもまた青春ですね。
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切り裂きジャック百年の孤独 |
ストーリィ
切り裂きジャック。19世紀末のロンドンを震撼させた連続娼婦殺害事件。無惨な状態で殺害された娼婦たち。街中が恐怖に怯えた歴史的事件は、時を経て、20世紀の西ドイツに甦った。
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感想
ミステリィ関係者にとって大きな題材であり、謎である歴史的犯罪者、切り裂きジャック。数多くの書籍がとりあげ、今更という気すら覚える人も少なくないでしょう。しかし、さすがは島田荘司、と唸る文章です。殆どその内容を知っていて読んでいるにもかかわらず、ドキドキ感は相当のもの。結末はあまり好みでなかったことだけ残念。
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上高地の切り裂きジャック |
ストーリィ
御手洗潔が活躍する中編2作を収録。
「上高地の切り裂きジャック」:内臓を抜き取られ、石を詰められた女優の死体 「山手の幽霊」:運転手が見た幽霊の真実を解き明かす御手洗 |
感想
本格ミステリィ作家は大勢います。しかし、今、本当の意味で本格を書いている人は、本当の本格作品を書くことのできる人は何人いるでしょうか? 島田荘司は、間違いなく誰もが認める本格ミステリィ作家です。「本格」と銘打った作品は数多いのですが、この作品は本当の意味での本格です。発見された死体には「謎」がある。それは確かに謎だけれど、御手洗の手により意味が明らかになるのです。これぞ本格ミステリィ! 「山手の幽霊」はごく僅かながら冗長な気もします。
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光る鶴 |
ストーリィ
吉敷竹史が活躍する中編3作を収録。
「光る鶴」:再審への手がかりを探す吉敷。鶴は光るのか。 「吉敷竹史、十八歳の肖像」:若き日の吉敷。学生運動と捜査と。 「電車最中」:都電最中を探す吉敷。果たしてそんなものが存在するのか。 |
感想
表題作の「光る鶴」は「秋好事件」を強く意識した作品です。冤罪・死刑制度をとりあげた作品ですが、単純な読み物として楽しんで何ら問題ありません。タイトルの秀逸さ、文章表現能力の高さにも脱帽です。「吉敷竹史、十八歳の肖像」では警察に進路を決める切っ掛けとなった事件、若くて純粋な吉敷竹史が、「電車最中」では警察官として板に付いた吉敷竹史が見られます。吉敷刑事の色々な姿が見られて楽しめる一冊です。
お気に入りの一文
鶴よ、光れ!
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