真保裕一


<ノンシリーズ>
震源 (講談社文庫)
奪取 (講談社文庫)
黄金の島 (講談社文庫)
夢の工房 (講談社文庫)
ダイスを転がせ (新潮文庫)
繋がれた明日 (朝日文庫)

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震源
ストーリィ
誰が見ても、疑う余地のない津波の発生を告げるデータ。ベテラン職員の森本が見落としたことによる被害は少なかったが、彼は異動を命ぜられる。同僚の江坂が会いに行った時、森本は既に退職していた。森本を捜す江坂は、静かな日常の裏側で極秘裏に進行していた事件に巻き込まれていく。
感想
とにかく事件が大きく、圧倒されます。しかし、前半は若干冗長な感じを受けるのです。まだ事件が見えてこない段階で、ドキドキ感が薄いのです。中盤から後半にかけては一気に加速して、サスペンスを十分に堪能することができます。設定に無理がある訳ではありません。が、色々な人物に焦点を当てることで、ちょっと回り道をしてしまったのではないでしょうか。門倉さんにまつわるエピソードなどは、もう少しダイエットした方が良いと感じました。
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奪取
ストーリィ
友人の雅人が作った1000万円を越える借金。道郎は雅人を救うため、贋札を作ることを思いつきます。贋札が使えるレヴェルの物かどうか。それを調べるため、紙幣識別機を盗む道郎と雅人。識別機を分解し、識別基準・方法を確認。そして試行錯誤を重ねた結果、識別機を誤魔化すことに成功します。いざ、贋札を使う日、即ち借金返済の期日。次々と場所を変えATMを利用する二人ですが、一人の老人が彼らに注目していたのです。
感想
上下巻にわたる、長い作品です。しかし、すぐに読み終わることを保証できます。常に何らかの緊張感、展開の変化があるため、冗長な感じは一切ありません。贋札作りという悪事。ところが、徐々にその行為を応援してしまうのです。ふと気付けば、それを正当な行為と認識してしまうのです。人間性とドラマティックな展開がすっきりとした感動を呼ぶ名作です。
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黄金の島
ストーリィ
日本からバンコクへ飛ばされたヤクザ・坂口修司。バンコクに着いた早々命を狙われ、ベトナムへと身を隠します。日本とは文化も経済も違うベトナム。一部の共産主義者や権力のある物だけが裕福に暮らす貧富の地。そこで生まれ育ったチャウは同郷のカイを頼ってホーチミンへ出、シクロ乗りとして生計を立て始めます。時には警察に賄賂を強要されながらも…。そんなベトナム人たちと出会った日本人の修司。生まれも育ちも考え方も違う彼らが、それぞれの思惑を胸に相手を利用し、信じ、そして疑う。いつか黄金の島へ行くことを夢見て。
感想
黄金の島。単純な題名ですが、これほど的確に簡潔に内容を示した題名も珍しい。ストーリィの大半はベトナムが舞台。外国人が沢山出てきますが、殆ど気になりません。人物の個性が非常にしっかり表現されているためでしょう。そして後半、海の上で凄まじいシーンがありますが、言葉では説明できないほど勢いがあります。もう目が離せません。この辺りはさすが真保裕一と云えるでしょう。ただ、若干の不満も残ります。結局、誰にも感情移入しきれなかったのです。修司・チャウ・カイ・などなど。多くの人物にスポットが強く当たり、それぞれにドラマがあり、皆好きで皆嫌い。どの人の行動にも納得が出来、且つ納得できないままあっけなく最後が。そこだけです。
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夢の工房
ストーリィ
小説家としての真保裕一。作品に対する思い入れ。映像の世界と文字の世界。真保氏が作家として大成してきた過程が、論評やエッセイ、インタビューなどで明らかとなっていきます。ファン必見の一冊。
感想
フィクションじゃないのか…。最初手に取った時の正直な感想はそれでした。しかし、読んでいけば分かります。面白い。真保氏のファンならば、その作品に魅力を感じるならば、買って損はないと思います。読んでいて怒りすら覚えたのが「奇跡の人」の映像化に関するエピソード。私にとって、「奇跡の人は」とっても大切なお話。それが著者の意図しない形で映像化されてしまうとは。一方、「ホワイトアウト」ではその逆の展開が。映像と文字。その両方の世界を生きてきた真保氏ならでは観点があります。
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ダイスを転がせ
ストーリィ
たった一つの失敗が原因で会社を辞めることになった一人の男性は、家族ともぎくしゃくし始め別居。職探しも折からの不況でうまく行かずフラストレーションをため込んでいたところ、数年来会っていなかった級友が現れます。かつてライヴァルだったその友は、次の選挙に出馬する意志を持っていただけでなく、彼を参謀としてスカウトに来たのだった。。
感想
をいをい、と思う様な展開でスタート。ちょっとありえないでしょ、と思う反面、現実の政治家の名前や社会情勢が登場し、リアリティとフィクションの両要素が深く絡みあっています。選挙は題材として、とても難しいと云う印象を受けます。この作品は非常に巧くまとめ上げてありますが、それでも読み応えという意味ではもう一つ行って欲しい。真保氏なら、それが可能だと思えるので、ついつい期待してしまうのです。
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繋がれた明日
ストーリィ
若さ故に粋がって、人を殺してしまった中道隆太。でも、先に手を出したのはアイツなんだ! しかも卑怯なやり方までして。裁判だっておかしい。アイツの友人の証言だけ信用して、オレの言い分を何も聞いてくれない。結局、アイツの友人の偽証が通り、オレは刑務所へ。それでも5年たち、やっと仮釈放の身に。隆太の前に現れた保護司の大室が勧めてくれた仕事に就き、家族とは別に暮らし始めるが、何者かによる嫌がらせが始まった。
感想
一冊の本を読み始める上で、出だしの部分はとても重要。最初がつまらないと読むのがとても苦痛だし、たとえ面白くても先のことが推測できてしまってはつまりません。そのバランスが絶妙。「オレは悪くないんだ!」。隆太の叫びが綴られたプロローグ、そして刑務所のシーンへと息も尽かせぬ緊張感。その緊張感は最後まで続きます。隆太の言い分はちょっと自己中心的だけど、必ずしも間違っているとは言い切れない。もし自分がその立場だったら、きっと同じ様に考えてしまうでしょう。人ってそんなものです。隆太の行動はとにかく不器用で、「もう少しうまくやれれば」と思えてしまいますが、常に前を向いているので、とにかく応援してあげたくなります。道をはずさない様、心から祈り、ページをめくる手が止まらない。気付いた時には読み終わっていました。
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