天藤真


<ノンシリーズ>
炎の背景 (創元推理文庫)
善人たちの夜 (創元推理文庫)
わが師はサタン (創元推理文庫)
星を拾う男たち (創元推理文庫)
雲の中の証人 (創元推理文庫)
背が高くて東大出 (創元推理文庫)
犯罪は二人で (創元推理文庫)

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炎の背景
ストーリィ
新宿で酔いつぶれた「おっぺ」こと小川兵介。ふと目を醒ませば其処は見慣れぬ家の屋根裏で、兎に角寒い。周りを確認すると2人の人がいる…と思ったら大間違い。人一人と死体一体。生きている一人は「ピンクル」こと一木久留美。二人で家の外を見てみれば、とんでもない山奥であるらしい。女性恐怖症気味のおっぺと、男性恐怖症気味のピンクルが置かれた境遇は八方ふさがりのようです。そろそろ仕掛けられた時限爆弾も作動しそうですし…あれ?
感想
いきなり放り込まれた危険な状態。おっぺとピンクル二人のキャラクタがとてもしっかりして、とても純粋で、ついつい応援してしまいます。状況はひたすら危険で綱渡り。これは映像化にも向いている作品かと思います。焦点は二つ。一つは単純に置かれた状況から如何に脱するか。もう一つは二人の関係です。こう云ってしまえば在り来たりですが、そう感じさせないところが天藤真。二つの要素が上手く絡み合い、読み手をその世界に引き込みます。勿論天藤真だから、悲惨な終わり方をすることはないだろう、良くも悪くもすっきり終わらせるはずだ…と思って読み進めますが、果たしてどうなる、どうする!? どきどきです。
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善人たちの夜
ストーリィ
結婚後のマイホームを夢見る修三とみどり。そんな二人に修三の後輩・弥太郎から、とんでもない依頼が。「数日の間花嫁となってくれたら謝礼を払う」というもの。田舎に住む弥太郎の父が危篤状態で、すぐに花嫁を連れて帰らねばならないらしい。何としてもお金が欲しい二人は、危険な依頼を承諾。慌ただしく帰省した彼らを待っていたのは村を挙げてのお祭ムードと古い風習でした。いやはや…無事に済めば良いのですが。
感想
実に「しょ〜もない」。そんな依頼をする方もする方。乗る方も乗る方です。数日といえど、しっかり籍まで入れるわけですから、何と云えば良いのやら。田舎に着いてからは多くのハードルが。冷や冷やしっぱなしですが、「自分で蒔いた種」ですね。その後、時間が大きく影響してきます。状況の変化と心の変化。最後まで「しょ〜もない」人もいましたが、凄い人もいました。善人たち…と題名にありますが、善人は何人いたでしょう? せいぜい1人かな。
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わが師はサタン
ストーリィ
マジック研究会、通称マジ研。金城学園大学のサークルです。所属する6人の男女はオカルトに興味を持ち、大学講師の伝を頼りにアスタロトと出会います。正体不明のアスタトロに導かれ、知識を深めた6人は黒ミサを行います。さらなる標的を見付け計画を進めた彼らの目前で殺人事件が発生します。鷹見緋沙子名義で発表した表題作「わが師はサタン」のほか、短編の「覆面レクイエム」も収録されています。
感想
比較的オーソドックスで、犯人は簡単に分かってしまうかもしれません。良く見掛ける展開なのです。が、それを左程感じさせないのが天藤真です。マジ研の活動や、個人個人の表現がしっかりしているから。そしてどうにも楽しい雰囲気が作品を抱きしめているんです。それでも天藤真の作品の中では毒がある方かと思います。読了感がすっきりと爽やかに…とは言い切れません。ちょっと珍しいかな、と感じました。別に重いことは全くないんですけどね。作者を知らずに読んだら「天藤真じゃないかも」と思ってしまう可能性もあるって云う程度の違いです。
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星を拾う男たち
ストーリィ
63〜66年発表の短編集です。

 「天然色アリバイ」:県会議員が妻と結託し、隣に棲むの県会議員を亡き者に
 「共謀者」:顔が似ているため産業スパイに引き込まれた男
 「目撃者」:気の回るボスに頼まれて犯す殺人だったが…
 「誘拐者」:好きな女を拉致して我が物にしようとする小心な男とその兄貴分
 「白い火のゆくえ」:超珍品の切手は巡り巡ってどこへゆく?
 「極楽案内」:著名な画伯に届いた脅迫状に入っていた透かし
 「星を拾う男たち」:通りがかりのバタヤ二人が目撃した落下する人影
 「日本KKK始末」:日本KKKという団体をでっち上げて犯罪計画を練り、いざ実行
 「密告者」:ある女性が婚約した女性は殺人者と云う密告が入る
 「重ねて四つ」:探偵社への依頼は妻の不定調査…しかし…
 「三匹の虻」:目撃されたのは屋上で揉み合う二人が川へ落下する瞬間
感想
リアリティとは懸け離れた世界。それは決してネガティブなこととは限りません。非現実的な雰囲気だからこそ、犯罪行為だって面白可笑しく表現できてしまう。でも決していい加減な作品ではありません。「天然色のアリバイ」はいかにも天藤真らしい作品。県会議員にのし上がった主人公。その成り立ちが面白く、隣人のキャラクタも上手くその世界に調和しています。「共謀者」はスリリングな展開ですが、やっぱり穏やかな感じが漂います。非常に纏まった作品で、読了感も抜群です。「白い火のゆくえ」は時代を感じます。切手蒐集、現在ではブームが完全に過ぎ去った物が題材です。一つの珍品を巡った作品ですが、登場人物の人間性や立場と云った物も上手く表現されています。白眉。「日本KKK始末」は笑える面白さです。
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雲の中の証人
ストーリィ
中編からショートショートが収録。

 「逢う時は死人」:探偵社では受けられない仕事を日曜日に一人で捜査する探偵
 「公平について」:盗みと裁判を繰り返し、恰もゲームの様相
 「雲の中の証人」:奇跡でも起きなければ見付からない様な目撃者を探す探偵
 「赤い鴉」:一過性精神障害を装って事件を起こそうとする男
 「私が殺した私」:ちょっとした事故がきっかけとなって中身が入れ替わった私
 「あたしと真夏とスパイ」:助教授に憧れ、追いかける女子大生
 「或る殺人」:裁判長がテレビで犯人を名指し
 「鉄段」:アパートの鉄階段に潜む怪談
 「めだかの還る日」:人間が突然踏み込み、慌てて逃げる魚たち
感想
最初の4編は、登場人物に繋がりがあります。探偵の「私」こと大神卓、北弁護士、久古刑事など。登場人物の魅力もあり、設定も魅力的です。「公平について」は犯罪なのに、そんな感じが全然なく、犯人と検察側がゲームをしているかの様。「赤い鴉」は非常に纏まった作品です。最後の2編はショートショートですが、普段の作者とはちょっと違った風刺性を感じます。
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背が高くて東大出
ストーリィ
71〜76年発表の短編集です。

 「背が高くて東大出」:三高の相手と結婚した「わたし」でしたが…
 「父子像」:17歳になっても父親の職業を知らない少年のとった行動
 「背面の悪魔」:新婚の姉から妹に届いた手紙
 「女子高生事件」:女子高生と売春の関係を探る教師
 「死の色は紅」:劇薬の注射により患者が死亡、医療ミスの裏を探る探偵
 「日曜日は殺しの日」:日曜は日本全国休診日、夫を失った妻の交換殺人
 「三枚の千円札」:被害者の女性が持っていた三千円
 「死神はコーナーに待つ」:一番大切な物を交換し会った男女
 「札吹雪」:妻の伯父の遺産を探す男とそのライヴァル
 「誰が為に鐘は鳴る」:妻が出掛けて留守番をする夫
感想
天藤真ならではの読了感で満たされます。どこかに救われるところが作品に潜んでいます。中でも「父子像」や「死に神はコーナーに待つ」は素晴らしい。愛があります。「父子像」は本当に感動しました。「日曜日は殺しの日」も実体験を元にしていて、それもやっぱり愛ですね! ユーモアが特徴の一つでしょうが、それだけでは評価しきれないものがあります。1915年生まれとは思えぬほど読みやすい文章、古くささは全くなく、堅苦しさは皆無。もっともっと多くの人に読んで欲しい作家さん天藤真、その入門書的な短編集と云えるでしょう。
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犯罪は二人で
ストーリィ
76〜94年発表の短編集です。

 「運食い野郎」:自分の運を吸い取ってしまう旧友に融資の依頼をする
 「推理クラブ殺人事件」:殺人の容疑をかけられた先生を救え!
 「隠すよりなお顕れる」:結婚目前、愛人問題表面化、そして自殺?!
 「絶命詞」:不可解な行動を取った伯父が殺され、ダイイングメッセージは…
 「のりうつる」:他人にのりうつる能力を持っていることに気付いた青年
 「犯罪は二人で」:持つべき物は理解があって聡明な女房
 「一人より二人がよい」:夫婦揃って作家の家へ物色に行くがトラブルの連続
 「闇の金が呼ぶ」:選挙とお金の問題を解決するため夫婦が立ち上がる
 「純情な蠍」:若かりし頃の妻に心惹かれた男性(故人)の妻が日記を手に現れる
 「採点委員」:何としても息子を国立大学に入れたい夫婦のとった行動は…
 「七人美登利」:祭りでおみこしを担いでいる時に、一人の女性が背中を切られた
 「飼われた殺意」:副社長の妻に惹かれ、抜け出せなくなっていく
感想
怪盗が更生し、保護司の娘と結婚する。そんなロマンティックな設定もどこへやら。二人して新しい怪盗を目指すシリーズが「犯罪は二人で」「一人より二人がよい」「闇の金が呼ぶ」の3作です。とても理解があって聡明な奥さん。露骨に書きすぎないところが妙です。「運食い野郎」は、いかにも天藤真らしい作品。どたばたした感じ、しかし深刻な印象は与えず、それでいて満足の収束です。「のりうつる」は、ちょっと毛色の異なった作品。他人にのりうつる能力と云うSF的な要素が入っています。天藤氏にしては珍しいかと。「飼われた殺意」も天藤氏にしてはエロティックなシーンが多く、驚きでした。それでも読了感は、どの作品も爽やか。これぞ天藤真です!
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