和久俊三
呪いの紙草履 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第2弾の短編集です。
「呪いの紙草履」:銃殺に使われる紙草履と埋蔵金が絡んだ事件 「躓きの石」:張り込みをする榊田刑事と柊(赤かぶ)だが… 「残酷な高原の朝」:上高地で発見された死体は、陰部・指・耳が切除されていた 「雨降って地固まる」:榊田警部補の新婚旅行で、新婦が失踪 |
感想
ローカルな雰囲気でいっぱいのこのシリーズ。やはり赤かぶの口から次々出てくる名古屋弁が一つの要因でしょう。名古屋に住む私でさえさっぱり耳にしない言葉の数々。意味は分かりますが、正直少々会話が読みにくい。慣れてくれば平気ですが、名古屋弁を知らない人はもっと読みにくいのではと余計なことを考えてしまいます。短編集ですが、「呪いの紙草履」と「雨降って地固まる」は埋蔵金で繋がった一つの話と云えるかもしれません。連作短編集に近い感じの短編集です。(起承転結はないので連作とは違うでしょう)
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シュリーマンの財宝 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第3弾。高山のホテルで発見された美術商の死体。捜査の結果、一人の外国人が逮捕される。事件の背後に見え隠れするプリアモスの秘宝。真相を探るため榊田警部補とヨーロッパへ向かう赤かぶ。一方、赤かぶ娘で弁護士の葉子も、手形のパクリに関わる事件を調査するため、ヨーロッパへ旅立ったのでした。
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感想
外国がとても似合わない赤かぶですが、マイペースで乗り切ります。ヨーロッパでも勿論名古屋弁。これが不思議と「外国の雰囲気」を壊しません。ちゃんと外国に来た赤かぶが表現されています。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、捜査らしい捜査を殆どせぬまま失踪してしまった赤かぶには吃驚でした。
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被告人、名無しの権兵衛 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第4弾の短編集です。
「被告人、名無しの権兵衛」:氏名・住居・本籍不詳のまま起訴をすることに 「陰毛」:強姦された少女の体内に残された特殊な陰毛 「小糸坂の白骨」:発見された白骨死体、時効が成立するか否か 「蝸牛庵の遺産」:相続財産管理人となった弁護士・法眼正法 |
感想
和久峻三を読むのなら、赤かぶシリーズを読むのなら、お勧めするのはこの一冊。検事・赤かぶと、若き弁護士・法眼正法との闘いが繰り広げられます。表題作は犯行を認めても、己に関する一切を口にしない容疑者。赤かぶは不詳のまま起訴を断行しますが、法眼が真っ向から立ち向かってきます。「陰毛」では法眼がさらに辣腕を発揮。赤かぶもたじたじです。「小糸坂の白骨」には法眼弁護士が登場しませんが、これは最高傑作と云えるでしょう。果たして時効は成立するのか。犯行は一体何時だったのか。それを確かめる手段は。事件の裏側は…。短編の良さが存分に活かされたキレのある作品。最後の「蝸牛庵の遺産」は法眼弁護士の視線の割合が大きくなります。主役は赤かぶでなく法眼。これまで目の上のたんこぶだった法眼を、違った視線から見る。印象が大きく変わります。弁護士と検事、そして警察(榊田警部補も登場します)、それぞれの立場と役割がはっきりと認識できます。
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殺人許可します |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第5弾の短編集です。
「殺人許可します」:犯人逮捕に協力した葉子が弁護にまわり親子対決へ 「鬼ころし」:妻が夫を殺害?! 足跡が語るものとは 「狸を燻し出せ」:盗まれた宝くじを拾ったと出頭した男 「ミツコは犯人の香り」:お金と香水が投げ込まれた家人が襲われる |
感想
親子対決あり、榊田警部補のひっかきまわしあり、不思議な事件あり。中でも表題作の親子対決は見物です。偶然犯人逮捕の協力をすることになった赤かぶの娘、葉子。榊田と共に犯人を逮捕することに成功します。が、何と犯人の弁護をすることに。当然検事は赤かぶ。榊田のミスを巧みに突く葉子にたじたじの赤かぶですが、そこから意地を見せます。「狸を燻し出せ」は盗まれた宝くじの中にあった、一等当選くじが警察へ届けられると云う物。警察は届け人=盗人と考えますが、事件の根はもっと深く、法眼弁護士も登場して難しい話になります。
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長崎居留地二十五番館 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第6弾の短編集です。
「死人の口」:事故を起こしたオートバイ、運転していたのはどっち? 「ゼンゼノコ・マンマノコ」:日本への帰化を望むフィリピン女性が殺害 「長崎居留地二十五番館」:明治村で発見された死体の裁判に赤かぶが証人に |
感想
種類の異なる3作品が収録されています。「死人の口」はオーソドックスに法廷物の良さを引き出した作品。検事と警察の関係についても勉強になります。「ゼンゼノコ・マンマノコ」は法廷場面以外のシーンがしっかりと描かれた作品。フィリピン女性のおかれた立場や、帰化の落とし穴が示されています。表題作の「長崎居留地二十五番館」では、なんと赤かぶが証人に。しかも質問をする弁護士は娘の葉子。シャープな葉子に押されっぱなしの赤かぶは、何とも面白くうつります。
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紅葉の下に猫がいる |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第7弾の短編集です。
「蛤の秋」:別件逮捕した被疑者の勾留請求が舞い込む 「悪女の手ざわり」:鈍器でめった打ちにされた死体が発見される 「紅葉の下に猫がいる」:詐欺坊主のため不渡りが発生する |
感想
「蛤の秋」は検事と云う立場、特に直接操作に当たっている警察との違いが良く分かります。板挟みになりやすそうな気もします。「悪女の手ざわり」を読むと、法廷物であることを強く意識します。これが本格物だったら何と簡単なトリックだ、と幻滅してしまうかも知れません。が、ポイントはそこにないのです。動きの大きな作品なので、どんどんひきこまれました。表題作「紅葉の下に猫がいる」では詐欺による不渡り…と云うことよりも、赤かぶが必至になって育てる苔の方が気になりました。
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盗みは愉し |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第8弾の短編集です。
「土蔵の中に棲む女」:拉致されてしまった女子大生は逃亡を図ろうとするが… 「盗みは愉し」:近所迷惑な咆吼を繰り返す5匹のセパード 「魔弓」:暴走族を襲う洋弓、被害者は頭皮を剥がされる 「九官鳥は偽証する」:赤かぶ検事の自宅に捨てられていた九官鳥 |
感想
前作から続いていた苔の盆栽。引き続き頑張る赤かぶ検事はとっても楽しそうです。「土蔵の中に棲む女」は冒頭から拉致の描写。窮地に陥った女子大生! 短編集の最初に持って来て正解だと思います。ストーリィはどんどん予期せぬ方向へ進むため飽きが来ません。表題作の「盗みは愉し」は、赤かぶの近所で起きた事件。それだけに慎重にならざるを得ないもどかしさがあります。「魔弓」の残虐な犯罪は当然ながら動機がポイント。兇器の選択にも興味があったのですけれど…。「九官鳥は偽証する」は九官鳥のキャラクタが面白い。悪言をたれる九官鳥と、犯罪を上手に結びつけています。九官鳥の台詞がタイミング良く、作品のテンポも上がります。
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二度死ぬ奴は、三度死ぬ |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第9弾の短編集です。
「二度死ぬ奴は、三度死ぬ」:新年早々車の上に人が落下したのか? 「殺して、なぜ悪い」:榊田警部補に対し、不審判の請求が出る 「盗人神様」:頻繁に1000円札を賽銭に投じる男 「墓石が哭く」:女のすすり泣く声を聞いたと出頭が |
感想
「二度死ぬ奴は、三度死ぬ」は新年早々発生した事件。捜査する側も人の子。どうしても不機嫌に。しかしそれだけで終わらなかったのが良い感じです。「殺して、なぜ悪い」では榊田ピンチ! それを救う役はちょっと意外な人物でした。「盗人神様」は二つの事件が絡み合っています。一つの事件で驚愕の真相が。これには吃驚。「墓石が哭く」で出てくるパチンコに時代を感じます。
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赤かぶ検事転勤す |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第10弾の短編集です。山口地検下関支部へ転勤になった赤かぶ(萩支部長兼任)。面子もがらりと変わり、一二三四郎警部補(うたたねしろう)、笛吹洞一警部補(うすいほらかず:通称、笛吹童子)、紅一点・槇野伊都子(検察官事務取扱検察事務官)、そして対抗するのは妙泉憲正(よしずみのりまさ)弁護士です。
「赤かぶ検事転勤す」:下関へ向かう赤かぶ夫妻の大きな拾得物 「藍場川の鯉は見ていた」:違法駐車の車を避け、電柱にぶつかった事故 「海峡の狐」:槇野検察事務官が自宅で強盗に襲われる 「おかしな年頭問答」:飼い犬が次々に殺され、持ち去られる |
感想
検事は国家公務員。当然転勤もあります。が、作品の中でそれをさせるのは凄いこと。シリーズで重要な役割を担ってきた榊田警部補や法眼弁護士が登場しなくなるのです。随分意欲的ですね。しかも転勤するかしないかの状態で、棒に当たる「赤かぶ検事転勤す」。新しいキャラクタを上手に紹介しつつストーリィも進みます。その後2作は槇野事務官に焦点が。高山では葉子以外の女性がいなかったので、雰囲気が変わります。「おかしな念頭問答」で、そろそろ下関の赤かぶが落ち着いてきた感じです。
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楊貴妃の亡霊 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第11弾の短編集です。
「楊貴妃の亡霊」:今様楊貴妃と呼ばれた女性の死体が発見される 「ささやきの小道」:中学三年生への強姦未遂事件が発生 「大断層」:交通事故と児童失踪事件の繋がりとは… |
感想
転勤2後の作目です。「楊貴妃の亡霊」では中国の歴史が勉強できます。玄宗皇帝と楊貴妃、安禄山に楊国忠と云った、懐かしい名前が出て来ます。妙泉弁護士と笛吹警部補のやりとりも注目。この作品に限らず法廷でこの二人が闘います。が、笛吹警部補は結構巧みに追及をかわします。榊田警部補とはその辺が違う様です。一方弁護士にも違いが。法眼弁護士の厳しさとスキのなさは、妙泉弁護士にはありません。比べると、ちょっと頼りない印象でしょうか。「ささやきの小道」は或る意味とても恐ろしい話。「大断層」は赤かぶ検事が大活躍です。
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悪女の証言 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第13弾の短編集です。
「悪女の証言」:20歳以上年下の男に熱を上げていた女性が殺害される 「奇妙な金メダル」:若い女性に「父親の遺骨を分けて欲しい」と云われ戸惑う青年 「老嬢の呪い」:赤かぶの家に送られた嫌がらせの手紙 |
感想
「悪女の証言」には多くの女性が登場します。それぞれが個性を持った人ばかり。一体誰が悪女なのかを、ぼかしつつ進むんでいて良い感じです。「奇妙な金メダル」は意外な犯人です。突飛な要求をする女性。何故遺骨などを欲しがるのか。赤かぶシリーズにしては珍しく意外性を備えた作品です。「老嬢の呪い」では蜂に関する基本知識が説明されています。こんなことは小学生の頃から知っていますが…この作品が出た頃はあまり知られていなかったのでしょうか? それともあまり知られていないことなのでしょうか? 少々、今更、という感じがしました。
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悪霊の夜明け |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第15弾の短編集です。
「悪霊の夜明け」:美女と夜を共にした男性が次々と襲われ、囮捜査へ 「少女の血文字」:裁判官の幼い娘が誘拐される 「手がかりは死者の掌にあり」:ホテルのバスルームで死体が発見される |
感想
「悪霊の夜明け」に登場する美女。彼女には別れた男があり、何処まで逃げても付け狙われる。囮捜査に当たるのは笛吹警部補。最初から違和感がつきまとう作品です。もう少し巧妙にできないかな、と欲をかきたくなります。「少女の血文字」は少々都合の良い証言が出てきますが、強くひきこまれます。最後までドキドキ。「手がかりは死者の掌にあり」では笛吹警部補と妙泉弁護士の闘いが。妙泉弁護士の突飛な推測は、(無理があり過ぎですけれど)意表をつかれて面白かったです。
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午前三時の訪問者 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第16弾。身代金・誘拐殺人事件の法廷、闘うは一二三四郎警部補と妙泉弁護士、そして赤かぶ検事。被告人の女性は犯行を完全に否認。自分には一卵性双生児の姉妹がある、アリバイがあると云った証言、さらに被告人を有利にする証言・証拠が、次々と提出される。妙泉の巧妙な弁護は、真実はどんどん闇の中へ紛れていくのです。
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感想
本シリーズにしては珍しく、長編作品です。序盤から中盤にかけては法廷、その後は赤かぶ&警察による捜査と推理が中心となって進みます。序盤の雰囲気は短編でも長編でも全く同じ。しかし事件の根深さは長編ならではと云えるでしょう。少々疑問に感じたのが法廷でのシーン。実際もあんなに回りくどいのでしょうか…。自明のことでも一々確認したり、説明してもらったり。判決が長引くのも頷けます。
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転勤みやげは死体付き |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第19弾の短編集です。今度は松本へ転勤となった赤かぶ検事。美貌の行天僚子警部補(ぎょうてんりょうこ)と、その夫の行天珍男子(ぎょうてんうずまろ)が力になってくれます。弁護士も女性の秋月沙知子。働く強い女性に赤かぶもたじたじです。
「転勤みやげは死体付き」:転勤するやいなや強盗に出くわした赤かぶ検事 「妖魔のような少女」:重さ2トンとも云われる石像が夜な夜な動く? 「赤ちゃんを産んだ男」:出産をした男と浦島太郎の玉手箱 「道祖神は死の匂い」:窃盗常習犯の父を持つ少年の予知能力とは |
感想
再び転勤の赤かぶ。山口のキャラクタとお別れするのは淋しいですが、またしても色の濃いキャラクタが登場。中でも行天僚子警部補の勢いは凄いです。「転勤みやげは死体付き」は単なる新キャラクタの紹介作品ではありません。短編にするのが勿体ないくらいの展開でした。「妖魔のような少女」はこのシリーズらしくない終わり方です。「赤ちゃんを産んだ男」には可成りびっくり。そんなことが可能なのかと勉強になりました。「道祖神は死の匂い」は他の作品に比べると少々焦点がぼけた感じ。父親の存在感が微妙です。
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八月十五夜の殺人 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第20弾の短編集です。
「巴ヶ淵の鬼神」:パチコンの詐欺事件から弁護士、刑事が行方不明に 「八月十五夜の殺人」:ナメクジで覆われた窒息死した死亡?! 「絵島屋敷の亡霊」:行天夫婦の関係に微妙な兆しが… 「死のひそむ家」:毒入りコーヒーを飲んで死ななかった妻と死んだ夫 |
感想
「巴ヶ淵の鬼神」はありふれたパチコン関連の事件…と思いきや、秋月弁護士、仰天警部補が続けざまに行方不明に。久々にスリリングな展開です。「八月十五夜の殺人」の死体は、他に類を見ないくらい気持ち悪い。ナメクジが全身びっしり。検死官の人はさぞかし大変だったろう、と本筋から離れたことも気になります。「絵島屋敷の亡霊」は事件そのものよりも、人間関係に面白さがあります。一転「死のひそむ家」では本格的なトリックが登場。単純なトリック程、興味をそそります。
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殺しのクレジット・カード |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第21弾の短編集です。
「骨董品カメラは死の香り」:10分後の事実を映し出す不思議な骨董品カメラ 「殺しのクレジット・カード」:赤かぶ検事がクレジット・カードのブラックリストに 「人質は眠る」:身代金誘拐事件で赤かぶ検事も大失態 「悪魔の取引」:悪魔と取引したコンビニの若いオーナが死亡 |
感想
「骨董品カメラは死の香り」はストーリィが進むに連れて、どんどん展開が怪しくなっていきます。行天警部補と赤かぶ検事、二人の関係は?! そして結末は…。「殺しのクレジット・カード」では電子錠に関して、赤かぶが冴えを見せます。それでも結構大変な気がしますけれど。「人質は眠る」で大失態を犯した赤かぶ。しかしその後の行動が面白い。サスペンス色の強い作品です。「悪魔の取引」は単純明快な事件です。そこを面白く複雑にしているのがオーナと同じ電車に乗り合わせた赤かぶの妻・春子です。オーナと彼女の会話がこの作品を事件にしています。
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血の眠り |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第22弾。世界的ヴァイオリニスト、江原信州子の遺品、ストラディバリのヴァイオリンが記念館から盗まれた。監視カメラが見守る中、如何にヴァイオリンは盗まれたのか。逃走する犯人を追うのは行天僚子警部補。見事犯人の男を捕らえるが、ヴァイオリンは所持していない。さらに、その後の取り調べに対しても完全な黙秘を貫く厄介者。名無しの権兵衛のまま起訴に踏み切った赤かぶ検事ですが、法廷荒らしの異名を持つ猪狩文助弁護士が立ちはだかります。80歳を越えたよぼよぼの爺さん、しかし現役です
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感想
衆人環視の中、盗まれたヴァイオリン。それだけでもわくわくさせる作品です。しかも、最大最強のライバル登場です。法廷の途中で居眠りはする、見るからによぼよぼで周りが心配になる。棺桶に片足どころか両足を突っ込む寸前の爺様。この弁護士の描写が実に良い。作品全体に活気が溢れています。そして、法廷での発言は頗るシャープにして老獪。これまでにも手強い弁護士は登場しましたが、ちょっと格が違う感じです。これからも是非登場して欲しいキャラクタです。
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嵯峨野 光源氏の里殺人事件 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第23弾。嵯峨野へ出掛けた赤かぶ夫妻、行天夫妻、そして諏訪温泉旅館の若主人とその“彼女”。若主人の石塚輝雄は「光源氏」と呼ばれる優男。数多の女と関係があるらしいく、今回同伴の“彼女”は「夕顔」と呼ばれている。一行が向かったのは嵯峨野の保津川下り。急流を下る中、「夕顔」がボーガンの矢に狙われ殺されてしまう。
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感想
保津川は舟で下ったことがあります。景色も良く、とても気持ちがよいところ。その情景を思い浮かべながら読んでいたら、いきなり殺人です。しかも光源氏に準えた人間関係。女弁護士の秋月沙知子も登場し、メリハリのきいた展開。いつも通りで気楽に読め、かつ「あっ」と驚くことがあったりもした作品です。
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伊豆大島 幽霊船の首縊り |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第24弾。中編2作が収録されています。
「伊豆大島 幽霊船の首縊り」:漂流したヨットで見付かった首つり死体 「復讐鬼」:解剖室で教授が凄惨な死を遂げる |
感想
表題作は幼児強姦殺人事件と絡んだ展開。次々と殺される関係者。現場に残る「怨」の字。とてもシンプルな印象です。「復讐鬼」は設定が興味深い。殺される人、殺す人、などなど。死体の状況は過去に例がないほど凄まじいものです。
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容疑者は赤かぶ検事夫人 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第25弾の短編集です。
「切り裂き女」:泥棒がベッドの下で聞いた殺人 「容疑者は赤かぶ検事夫人」:パーティで宝石泥棒の疑いを掛けられた春子 「ソクラテスの毒薬」:聞こえてきたのは「赤かぶ…。毒殺…。裁判…。」 |
感想
「切り裂き女」はベッドの下に潜んだ泥棒が、現場を見ていないところが面白い。音でしか状況が分からない、その不明瞭さが含みを持たせています。「容疑者は赤かぶ検事夫人」は気の強い春子が疑いを掛けられる面白さをシンプルに表現しています。「ソクラテスの毒薬」は不思議な寝言から、少々強引に裁判へ持ち込んだ印象です。それが面白いとも云えますが…。
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京都洛北 密室の血天井 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第26弾の短編集です。
「悪霊のワードプロセッサ」:葉子が所持する車が事故にあったとの知らせが 「電話ギャルの危険なゲーム」:衝動的に殺人を犯した男の元に一本の電話が… 「京都洛北密室の血天井」:美術商に盗難品らしき物が持ち込まれる |
感想
「悪霊のワードプロセッサ」では久々に娘の葉子が登場。弁護士としての登場でないのが少々残念ですが、作品の緊迫感が増しています。「電話ギャルの危険なゲーム」は面白い展開と発想の作品。短編にもってこいの設定でしょう。「京都洛北密室の血天井」ではリンゴの皮むきがポイント。利き腕を表す皮むきですが、作品に出てくることは滅多にありません。密室もあり、長編にしたい様な作品です。
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迷宮の死者 |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第28弾。
「狙われた白鳥」:白鳥に襲われたアヒルを助けた赤かぶですが… 「盲執の罠」:札束を見せびらかし、喫茶店で傍若無人な態度の男 「醜聞を売る男」:浮気の原因となるテレビの13チャンネル 「迷宮の死者」:生後六ヶ月の赤ん坊が誘拐される |
感想
「狙われた白鳥」はアヒルが死に、赤かぶが行天警部補に取り調べを受けることに。実は単純な事件ですが、赤かぶの行為がそれを綺麗に覆い隠しています。「盲執の罠」は秋月弁護士が登場。保釈を求めるいつものパターン。そして…ってとこまでそっくりです。もう少し変化が欲しいかと。「醜聞を売る男」はとても不思議な話。何が起きているのだろう、と思ったら、驚愕の結末が…。笑えるお話です。「迷宮の死者」は一筋縄ではいかない雰囲気が漂う誘拐。その奥は相当に深い物でした。濃密な作品です。
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伊豆 恋人岬の首縊り |
ストーリィ
赤かぶ検事奮戦記シリーズ第30弾。かみさんと伊豆へ旅行へ行った赤かぶ検事。偶然にも、女子大生が拉致される現場を目撃する。行天警部補も協力し、犯人との闘いが始まるが、単なる誘拐事件と考えると様子のおかしいことばかり。拉致された女子大生はどこに監禁されているのか。
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感想
伊豆に来て、そこにメンバが呼ばれ…随分旅情ミステリィしているな、と云う印象。せっかく転勤できる赤かぶ検事。あちこち旅行に行って…ってパターンは程ほどにして欲しい気もします。しかし、この作品、トリックは相当の物。どちらかと云えば、赤かぶ検事奮戦記シリーズに入れない方が上手く行ったと思います。
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