和久俊三




死体の指にダイヤ
ストーリィ
電車から発見された段ボール詰めの死体。その指にはダイヤモンドの指輪が。しかも段ボールの宛先は被害者と云う、奇妙な事件。続いて発見された死体は自動車のトランクから。被害者は高価なネックレスを。そしてさらなる事件が。同一犯の犯行を匂わせるのは宝石。捜査が停滞する中、刑事の娘が拉致・失踪してしまう。
感想
不思議な状況で発見される死体と、疑わしい関係者。容疑者は挙がるものの、証拠がない。そんな中で発生する音川警部補の娘・洋子の拉致。洋子に気がある土井刑事が走り回る様が、テンポ良く展開されています。そのサスペンス的な要素で終わらないのが作者の特徴。何とか逮捕に漕ぎ着けてからが本領発揮。法廷で証言を覆す被告に対し、どの様な措置をとるか。サスペンス、法廷の両方が楽しめる作品です。
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新幹線多重衝突セヨ
ストーリィ
ATCで完全に制御された新幹線を多重衝突させる。過激派グループ『黒い稲妻』のメンバが画策する陰謀。ATC制御の裏をかく計画が、GWの人多き日を狙って敢行される。しかも新幹線には中国新幹線視察団が。果たして計画は成功するのか。
感想
ATCについて何も知らなくても問題なし。とても丁寧な説明が施されています。少々くどいくらい繰り返される説明です。新幹線がどの様に制御されているのか、その安全がどのように図られているのか、そして危険はどこに潜んでいるのか。フランスTGVとの違いについても知ることが出来ます。もう少し凄惨さを表現されていればベターだったかと思います。
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不在証明は女たちのゲーム
ストーリィ
上司の罠にはまりレイプされ掛かった香取紗千子。必死で抵抗した拍子に暴発した拳銃で、相手を殺してしまう。指紋をぬぐい去り、現場を去る紗千子。しかし警察の捜査により逮捕されることに。厳しい訊問が続くが、身に覚えのないアリバイが確定し晴れて釈放。何故アリバイが確定したのか、紗千子は調べ始める。
感想
いきなり窮地に陥る主人公。そして意外な展開。作品にずんずん引き込まれます。その中でも「法律」に関する表記があり、作者の「色」を感じます。釈放されてからが、この作品の本筋。意外な展開、そして結末へ。一気に読ませる面白さです。こういう作品はどの様な収束をさせるかが難しい物。それも見事に纏めています。これなら尻すぼみにも感じませんし、読了感も悪くありません。
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偽証法廷
ストーリィ
ただ酒を飲んでは人に絡む迷惑な男・森岡栄太郎が暴行を受け死亡した。被告の片桐亘は容疑を全面的に否認する。次々と法廷で証言する人々。事件当夜被告と共に森岡を暴行した飲み屋を経営(手伝い)の男、その妻、スナックを経営する片桐の愛人、その隣に店を構える寿司屋の大将などなど。証言は完全に矛盾を来している。何が真実なのか。裁判長・茨木順一郎の視線で裁判を見届けます。
感想
裁判官の視線というのがちょっと珍しい感じです。しかし検事・弁護人の活躍が随所にみうけられ、「裁判」を統括的に傍聴することができます。あからさまに食い違う証言、そこから推測される真実。そして明らかになる偽証。それらの過程が順序よく並べられています。若干説明調の部分が多い気もしますが、作品のテンポを損なう程ではありません。終わり方も結構粋な感じです。
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20時18分の死神
ストーリィ
表題作の京都殺人案内シリーズを含む短編集。

 「20時18分の死神」:20時18分に自殺の衝動に駆られると警察に告げた男が自殺
 「掏摸男ニ正義アリ」:掏摸男が盗んだ一枚の手紙、正義のために検事の元へ
 「誰も悪くない?」:離婚した亭主が印鑑も通帳もなしに満期の預金を引き落とした
 「黄金取引」:高給の約束されたスナックに居座るため、偽証、そして…
 「宿命の絆」:ちんぴらに惚れ込んだ若い女と、義理のおじさん
感想
「20時18分の死神」は謎の多い展開。何故、がつきまといます。そんな事が起こりうるのか、起きたとしたら捜査に相当問題がある気はします。が、謎があるのは面白い。「掏摸男ニ正義アリ」は意外な結末。著者の作風からすると、もっと違った展開になると思っていただけに少々ビックリ。「誰も悪くない?」は現実に起こりそうな事件です。こんなことが起きたら人生阿呆らしくなるでしょう。「黄金取引」は著者らしい結末です。すっきりした無駄のない展開で、シャープな印象。「宿命の絆」はどろどろです。
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東京インフェルノ
ストーリィ
日系人のイサム・オキタは、海辺で女性が手練れの男に襲われているのに遭遇します。オキタはその女性を救出し、病院へと連れて行きます。新興宗教「マリアの家」、東京サミット、東海大地震、電波ジャック。大いなる陰謀にオキタはたった一人で立ち向かいます。
感想
珍しくハードボイルド作品です。オキタは兎に角強い。強過ぎて、ピンチに陥ってもさほど不安に感じられません。実際は大ピンチ、もう少しで命を落とす。そんなシーンでも、安心して読んでしまえるのです。良し悪しはむつかしいところです。事件の背景は比較的しっかり作り込まれた感じがします。逆に最後は少々尻すぼみでしょうか。
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掏摸男の危険な恋
ストーリィ
『20時18分の死神』に収録された「掏摸男ニ正義アリ」の主人公、杉本治の活躍を収めた短編集です。

 「美人検事に別れのキスを」:掏摸男が強制猥褻罪に問われる
 「詐欺師の涙」:スナックのママのため、一肌脱ぐ掏摸男=詐欺師
 「掏摸男の危険な恋」:一人の女性のため、法廷に立つことになった掏摸男
感想
婦人科のサムと呼ばれる掏摸男・杉本治。彼は一応フェミニストを自称し、裕福な女性からしか掏摸をしない…とのことですが、実際そんなシーンやイベントが転がっているわけではありません。それに対し、美人に惚れてしまうの四六時中。彼の行動は常にこの一本です。適度に悪者で、時には意外なほどの善人に。このギャップと、自由奔放なところが魅力です。
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大文字五山殺しの送り火
ストーリィ
新・京都殺人案内の音なし警部補、婦人科のサムこと杉本治の作品を含む短編集。

 「大文字五山殺しの送り火」:5つの山で同時に発生した殺人事件、犯人は1人?
 「南楼門の女」:身に覚えのない殺人事件で起訴された女性を救う掏摸男
 「レイプ犯人の聖書」:強姦罪が成立するか否かの分かれ目
感想
「大文字五山殺しの送り火」は音なし警部補と、青柳奈穂子のコンビが捜査に当たるシリーズ。同時に、全く異なる場所で、一人の男が、奇妙な行動の果て、殺人を犯した。この大いなる謎が作品を始終支配します。大きな謎(トリック)の存在は、それだけで作品を作り上げることができると云う典型的な例でしょう。「南楼門の女」では婦人科のサムが登場。例によって掏摸、そして女が気になり…。今回も女検事の元へ相談へ行きますが、最後は「そうきたか!」と云う感じです。「レイプ犯人の聖書」は強姦罪の成立に関する内容ですが、少々短調気味です。
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【ロス発】第一級殺人の女
ストーリィ
ロサンゼルスで発生した無理心中事件。夫が仕事で失敗して姿を消し、残された妻が子供を道連れに…。子供は死んでしまうものの、妻は命を取り留める。日本とは価値観が違うアメリカ。最も重い第一級殺人として起訴されます。弁護士の桜田は、たった一人でこの難局に挑みます。
感想
陪審員制度が、宗教観が、考え方の違いが、それぞれポイントです。幼児殺害に対する罪が極めて重いアメリカ。日本も以前は重かった様な記憶があります(違ってたらごめんなさい)。昨今、自分の子供を心中どころか虐待によって殺してしまう事件が、イヤと云うほど流れてきます。それに比べれば無理心中は…と思いつつ読んでしまいます。裁判ばかりの展開でしたが、どんどんひきこまれる力強い作品でした。
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陪審15号法廷
ストーリィ
戦前の日本で行われていた陪審裁判が舞台。何と裁判の最中に証人がピストルで射殺される事件が発生。関係者の身体検査をしたものの、ピストルはどこからも発見されず。果たして被害者はどの様に射殺されたのか。
感想
射殺の謎もさることながら、戦前の裁判を知ることが出来る作品。雰囲気がまったく違います。文化が違う。まるで異国の裁判を見ている感じ。現代と戦前とが上手くかみ合っていて、思わせぶりな展開も綺麗にまとまっています。
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