横山秀夫


<ノンシリーズ>
 (徳間文庫)
第三の時効 (集英社文庫)
クライマーズ・ハイ (文春文庫)
影踏み (祥伝社文庫)
出口のない海 (講談社文庫)

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ストーリィ
幼い頃の夢を実現させ、婦警となった平野瑞穂。これ以上ないくらい完全な男社会である警察。その中で、必死に生きていこうとしますが、壁は低くもなければ薄くもありません。似顔絵を描く事で己の存在を示していきたい思い。それが叶わぬ過去。瑞穂は再び似顔絵を描く事ができるのか。
感想
雰囲気的には乃南アサ氏の音道シリーズと同じです。男社会で生きている女性の必死な姿と心理を抜群に筆力で形作っています。音道シリーズと異なるのは、主人公以外の人物、即ち男社会を形成する人々の描写が特に巧みだということです。ちょっとした行動、ちょっとした発言が、それをにおわせています。
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第三の時効
ストーリィ
F県警察強行犯シリーズの第1弾。

 「沈黙のアリバイ」:一班班長・朽木。落としたはずの犯人は証言を覆した
 「第三の時効」:二班班長・楠見。本当に時効が成立するのは何時なのか
 「囚人のジレンマ」:捜査一課長・田畑。身内の競争が捜査に及ぼす影響は?
 「密室の抜け穴」:三班班長・村瀬。部署間の対立が捜査に及ぼす影響は?
 「ペルソナの微笑」:一班・矢代。子供を道具として使った事件と青酸カリ
 「モノクロームの反転」:捜査一課長・田畑。一班と三班を合同で捜査させるが…
感想
実に緻密な設定を感じます。登場人物それぞれが、それぞれの人生を抱えています。それぞれの個性と存在感。要するに、とことん「人間が描けている」のです。もちろん事件の方だって隙はありません。ミステリィとしても極上で、流石の一言。お腹いっぱいになれること間違いなしです。
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クライマーズ・ハイ
ストーリィ
新聞記者の悠木は航空機墜落事故の全権デスクに任命された。まさにその時、登山の約束をしていた同僚は急な病に倒れ、救急車で運ばれていた。次々に移り変わる状況。報道の道に生きる男としての行動、父親としての行動、友人としての行動。悠木の判断が大勢の人の人生をも変えてしまう。悠木は今、衝立岩に登っている。
感想
大人の世界です。男の世界です。重厚さと社会性がマッチした作品で、やはり横山作品ならではの味わいが感じられます。移り変わる状況と人間関係を上手くミクスして、心の中の葛藤と会社に生きる父親の姿は大胆でありながら丁寧な表現がなされています。非常に完成度が高くて面白い反面、意外性はもう一つ、と云ったところでしょうか。
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影踏み
ストーリィ
ノビ師、即ち泥棒。母に焼き殺された弟がしていたノビ師。兄は何故自らをノビ師に貶めたのか。

「消息」:自分が捕まった事件の真実を知りたいと行動するノビ師・修一
「刻印」:修一に繋がりのあった刑事が泥酔状態で死亡した
「抱擁」:恋人だった久子が窮地に陥っていると知った修一
「業火」:チンピラに絡まれ不覚をおった修一は事件の背景を探る
「使徒」:頼まれていたサンタクロースになった修一だったのだが…
「遺言」:一度しか会ったことのない同業者が最後に口にしたのは修一の名だった
「行方」:久子に付きまとう危険な男の存在が、修一を動かす
感想
主人公は泥棒です。決して善人ではなく、かといって悪人でもありません。感情移入しやすい人間ではありませんが、心に大きなキズを負っていることが分かるため、放っておけない、そんな気持ちでページをめくることになりました。収束の仕方はあまり好みではありませんでしたが、この設定ではやむを得ない気もします。スキのない構成は流石です。
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出口のない海
ストーリィ
肘を壊した甲子園優勝投手の並木浩二は、大学でも野球を続ける道を選んだ。「魔球を投げる」と。時は第二次世界大戦末期。学徒動員が決定され、並木も戦場へ、しかも人間魚雷「回転」の搭乗員としての道が待っていた。
感想
流石! この一言に尽きます。極めて完成度が高く、何年経っても色あせない作品だと思います。人間魚雷「回天」がどうのこうのとかではなく、野球がどうのこうのだけでもなく、一人の青年が、自分自身と、戦争と、時代と闘い、生き抜いた様が一本の柱として本作の中心にしっかりと存在しています。お涙ちょうだいの作品ではありませんが、大きな感動が読み手の心に沸き上がるでしょうこれぞ文学。
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