00 手紙
拝啓 親愛なるイザベル様
風巻《しまき》が痛いこの季節、御身体の調子を崩されてはおりませんでしょうか。ま
だ長く続く朝夕の冷え込みは、無理をなさると確実に体調を蝕みます。どうか、ご自愛下
さいませ。
さて、寄せる年月とは早いもので、つい先日、お嬢様も15歳になられました。人間の
──それも女性は、非常に繊細で扱いにくい年頃と聞いていましたが、お嬢様に限っては
そのようなこともなく、先週も旦那様と仲良く温泉へ出かけられたぐらい、お二人の仲は
睦まじく、本当の親子であるかのようです。
懸念されていた魔族の血も、教会へ足繁く通うようになってからは嵐が過ぎ去った後の
空のように落ち着き、お嬢様の魔族化は杞憂であったと旦那様と共に胸を撫で下ろした次
第です。
しかし、私にとって気懸かりなのは、実は魔族化よりもお二人のその関係にあります。
無論、仲良きことはとても喜ばしいのですが、そろそろお嬢様も生涯の伴侶となるべき人
を探し始めても良い時期だと思うのですが、浮いた話一つなく、旦那様もお嬢様には甘い
ところがありますから、あまり突き放すようなことは致しません。これでは、文武両道、
気立てもよく、貴族のご令嬢と比べても引けを取らないお嬢様なのに、伴侶や婚期を逃し
てしまうように思え、気が気でなりません。
女の幸せは結婚で決まる──と、人間界の書物で読んだことがありますが、イザベル様
が仰られた「人間の娘として幸せに暮らせるように」とは、やはり、幸せな結婚を示唆し
ていらっしゃるのでしょう。どうか、良い知恵をお貸し下されば幸いです。
ただ、王国には最近、流れ者の賞金稼ぎなどが出入りするようになって参りました。な
んでも魔法石の大鉱脈が見つかったとか。近く、王国軍としてもその場所へ調査団を派遣
することが決定したようです。現在の冷戦状態もいつまで続くか分かりませんし、くれぐ
れも交戦地域付近に近寄りませぬ様、お気をつけ下さい。
敬具
王国暦1445年 1月19日 執事《バトラー》キューブより
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