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「もういい!お前なんかと一緒に乗ってられるか!それにオレまだこっちの取材終わってないから、幸いにな!先、行ってろよ!」
あの時、何故あんな事・・・
西暦2105年。
新東京と名を変えた高層ビルの立ち並ぶ都市。
その一角のあるマンションで今日も一人
-----八刀 刻が瞼を開ける。
またか・・・今日もあまり眠れなかった。
うな垂れながらゆっくりと体を起こし、とりあえずチャンネルのボタンを押す。
壁に掛けられているテレビの画面に瞬時で映像が提供される。
報道に関する仕事をする彼にとって命と同等の価値を持つ情報。
その時はニュースの間に入るCM。
[字が汚くて困ってませんか?そんな貴方にSomy社の新発売Over Man’s Friend−書の道!これをつければ貴方もみるみる字が上手くなる!定価30万円です。]
Over Man’s Friend(OMF)
--------2082年マクロソフト社が開発した自己技能習得チップ。
これの表面についているマイクロプラグを体の作用させたい場所に挿入する事で神経を刺激する。
そしてどんな人間でも使い続けることによって能力上昇、技能獲得を可能とする。
効果は様々、値段も1万〜億単位のものまで様々。
日常生活での使用を目的としており、人に害を与えるOMFを使う事は犯罪であり、開発、売買する事も法律で禁じられている。
また、市販のOMFも誤った使用による2090年の「神田川事件」以来OMFロックプログラムが施され、人に危害を加える事ができなくなった。
「またこんなもん出しやがって・・・」
ぶつくさ言いながら朝食の用意をする刻。
刻はこの発明を嫌悪していた。
欲しいモンは自分の力で得るもんだ。
それが刻のモットーだったから。
彼は朝から憂鬱だ。
朝の度にあの時の事を思い出す自分、金さえ積めば簡単に力を得られる社会、両方に憂鬱だった。
AM:
白いTシャツにジーンズ。
どこかに遊びに行くかの様なラフな格好に着替え、刻は出勤する。
愛機のライカを鞄に下げ、玄関を開けると日が真っ向から差し込んだ。
まぶっしいなぁ・・・
春らしい春、そんな天気だった。
マンションの階段を降り、刻の車が留めてある駐車場に着く。
車内に入り、エンジンを掛けようとした時にポケットの中が震えた。
気付いた刻はすかさずマナーモードで振動するその携帯を手に取る。
[新着メールが一件入っています]
「火我さんがメールなんて珍しいな・・」
そして車を走らせる。
AM:
都の中心にそびえ立つピラミッド型のガラス張りの建物。
それが刻の勤めている場所、新日本警備監察庁。
受付で出所届けを書き込み、5つのエレベーター前にそれぞれ付いているカードキーにIDカードを差し込み、次に出てきたパネルに右手を合わせる。
[カード・シモンカイセキトモニイッチシマシタ]
そう機械音が告げ数秒でエレベーターが口を開ける。
[ドウゾ]
エレベーター内のタッチパネルに映されている画像の中で地下二階の上に刻は指を置く。
AM:
エレベーターが2度目の口を開けた場所に広がる緑の薄汚れたタイルの廊下。
地下なので光が入るわけが無いのだが階は妙に薄明るい。
その理由は壁のいたる所に掛けられた窓を模した年代物のスクリーン。
それがかろうじて外の風景を作り出しているからだ。
エレベーターを右に曲がった角の自販機でコーヒーのブラック2本を買う刻。
そしてそのまま目の前の張り紙のしてある部屋のノブに手を掛ける。
張り紙にはマジックペンで[庁内外報道課]と書かれていた。
「やっと来たね、八刀クン。」
黒い髪を肩まで伸ばした紺色のスーツの女性がドアに背を向けたまま座っていた。
他には誰も人はいないようだ。
部屋にはカタカタと音が鳴っている、どうやら彼女がパソコンを触っているらしい。
「おはよ、火我サン。」
そう呼ばれた女性はぱっと振り向く。
「あんた・・・メールの返事くらいするもんじゃない?普通」
「だって火我サンってほとんど電話じゃないスか。だから何か怪しいなーって・・」
そう言い、向かって右のデスクのイスに腰掛ける刻。
「あ、そゆ事言う?たまにはスクープ撮らせようと思って人がわざわざ刑事課から出向いてきてやったのに。」
「刑事課ったって捜査二課じゃないスか。ここの一階上でしょ?」
「っるさいね!一課のヤツらは口ばっか、二課は特務課だから大丈夫だとか言って危ない仕事は全部アタシらに押付けやがって!」
「ハハ・・・お互いハミ出しもん同士仲良くやりましょーよ。まーこれでも飲んで・・・」
デスクを叩いて怒る火我を刻がさっき買ったコーヒー一本でなだめる。
「ん、ありがと。で、メールで呼び出した理由なんだけど。」
「何なんスか?」
「八刀クンが怪しいっていうのはある意味鋭いとこ突いてる。」
「へ?」
「タレこみね、いわば。」
「タレこ・・・ってマジすか?」
「大マジ。で、どんな情報かってーとね・・」
その時、火我の向かい側からうめき声がした。
「あうぁー・・・さっきからるせーぞぉ・・・人がまったり寝てるってーのに」
2つに繋げた作業イスから男がゆっくりと顔を上げ・・・ ガタガタンッ
そうになったが途中でものすごい音を立てその場から消え去った。
「あら、ネム。いたの、大丈夫?」
「白鷺課長〜またココで一夜明かしてたんスか?」
そこには繋げたイスが起き上がる時に離れ、地面に尻餅をついたらしい男の姿。
髪はボサボサに伸びきり度の強そうな分厚い眼鏡をかけている。
「チクショー馬鹿にしゃがってイスの野郎!こちとら人事課長と交通課の婦警が不倫してるってスクープに一夜使ってんだよ!この報道課長白鷺 音無、三十路は過ぎたがまだまだゴシップには負けん!」
「ワケわかんない事でいちいち騒がないでネム。あんたも知りたいんだろ?タレこみ。これこそモノホンのスクープだよ。」
そして今火我の使っているパソコンから何枚か出てきたコピー紙の内一枚目を刻に見せる。
そこには筆で書かれたような文字が印刷されていた。
[五月十七日
日の変わる時間、港区は六本木ワイドフューチャー社に保管されたるOMFキャンセラーを頂戴仕りたく候
よろず屋I‘m unset依り]
「これって犯行予告・・・」
「そ。この情報化の社会に・・・・ココのコンピュータに送られてきたワケ。」
「大胆スね〜」
「昨日一課から出動命令が下りてね。ついでだしアンタらに教えとこうと思ってね。」
「はぁ〜何かと思えばくだらねぇっ。んなもん勝手にやらせときゃいいんだよ〜。今も昔も人様の関心を集めるのはゴシップ!八刀、お前行きたきゃいってこいよ。どーせ無駄だと思うけどな〜」
白鷺が興味のない様をプカプカとタバコを吸うことで表す。
「んじゃオレ行って来ますわ、OMF絡みのネタは嫌スけど。火我サン詳しい事教えてくれます?」
「悪いね。八刀クン」
「や、これが報道課の仕事っスから。」
「ん、まず犯行グループ・・・アイマンセットの事なんだけど、最近裏で流行ってるなんでも屋ってとこ。盗みから政府のコンピュータハッキングまで色々やってる、でも一度も殺しはしてないのが不思議よねー。私らも何度か追っかけた事はあるのよ。犯行予告出したのは今回が初めてなんだけど。」
「って事は火我サン達二課が取り逃がしてるって事?」
「そ。いつも私達が現場に到着した時にはヤツらの姿はもうない。いつも私達の5分前に現場から逃走してるらしいのよね。」
「何でわかるんスか?」
「監視カメラにね、何度か写ってるのよ・・・私達が行く5分前。いつも覆面してるし、犯行人数もバラバラ。」
「5分前?じゃあもうちょっとで捕まえられそうじゃないスか。」
「じゃあ私のOMF知ってる?」
「え?火我サン使ってるのってサキヨミ・・・」
「そーよ。私の[予知]使ってもダメなの。わかる?」
「でも火我サンのは上から借りてる奴だし。まだ体が慣れてないのかもしれないじゃないスか。斎藤サンも帰ってきたし今度は捕まえましょーや。」
「だと・・・いいけどね。」
火我が2枚目の紙を刻に渡す。
そこには真四角のチップが2基並んでいる写真が印刷されていた。
「後は今回の獲物。狙われたのはワイドフューチャー社」
「それ位、知ってますって。今、違法OMFの製造疑惑でメディアから攻撃されてる会社でしょ?」
「そーそ。そこが去年試作的に作ったのがOMFキャンセラー。」
取り出した赤ボールペンでチップの写真にグルグル丸を囲み話を続ける火我。
「増大する違法OMF犯罪の防止にあわせて作られたOMFの為のOMF・・・・・これにOMF名とその使用者を登録し、自分の体に付ける事でそのOMFの力をキャンセラーの使用者の前では失わせる事ができる。」
「ホント・・・人間って調子良いスよね。自分達の作った発明、自分達で潰そうとしてんだから」
「OMF使ってるだけ説得力無いけど私もそう思う。ま、情報はこんなトコ。私達は17日21時には現場に行って固めてるから。」
そして残りの紙を刻に渡し、腰を上げる火我。
「へーい。ご苦労さんでーす。」
「んじゃ、またね。コーヒーありがと。ネム、アンタももうちょいがんばんなさいよー」」
「るせー余計なお世話だ!」
火我が部屋を後にし、静寂に包まれる報道課。
刻の止まった刻が再び動き始める
続く・・・・かな。