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PM9:00

依然、警報の鳴り続けるワイドフューチャー社

東京都は港区六本木の北東に位置するドーム型の建物。

この会社は実際に社員たちが働く第1棟、そして一般の人々でもOMFの技術が自由に閲覧でき直に体験できる第2棟の二つに分かれている。

休日には家族やカップルが集まる人気のスポットになる。

OMFキャンセラーが展示されている展示室は第二棟であり刻がセキュリティに引っ掛かったのもそこである。

そして今その展示室に秘書に連れられた刻が到着した。

秘書が扉の前に立つと勝手に部屋は開かれ、見慣れた人物達が視界に飛び込んできた。

「だから泥棒を捕まえるためのテストですって〜」

「テスト・・・・警察にテストを?山ヶ崎社長」

OMFキャンセラーが展示されているガラスの箱の前で3人が立って話している。

笑って今の事態を何とか収集しようとしている山ヶ崎社長。

そして腕をピシっと両腿につけ直立している2人の男女。

新日本警備監察庁捜査二課課長 火我 譲葉

今日はその黒髪を黒と白のストライプのスーツの上でなびかせていた。

捜査二課機動隊長 斉藤 鷹緒

度重なる命令違反で各部署を転々とした結果、最も過酷で金にならないと呼ばれる捜査二課に席を置く長身の大男。

OMF「スナイパーアイ」で視力を極端に上げたその射撃の腕は警察の中でも屈指の実力で、火我との連携はこれまで数々の事件を良い方向へ導いてきた。

今日は2メートルはあろうその体を深緑のトレンチコートに包んでいる。

刻は2人を見つけ部屋に入っていく。

すると扉側の壁に背を向けて警官が何人も張り付いているのが見えたので

「うーす、みなさんごくろーさんでーす。」

敬礼に似たポーズで警官達に挨拶をする。

火我はそれをを横目で見やり

「こっちの報道課の刑事にもお試しに?」

「ハハええまあ。でももう大丈夫!あなた方のおかげでもう泥棒はを盗むどころか、この部屋に辿り着く事さえできないでしょう。」

「いえ、万が一の事もありますので、こちらも対策を立ててきました。」

火我がピシャリと言い放つ。

「へぇ、それはどんなですか?」

眉を吊り上げ問う山ヶ崎。

「斉藤。」

火我がそう呼ぶとそれまで直立姿勢だった斉藤が一歩前に出る。

「ああ。今回のウチの対策はこのような感じで。オイお前ら出番だ。」

そう警官達の方を見て言う斉藤。

すると一斉に警官達は思い思いの方向へ飛び出す。

彼らは懐から沢山の花を取り出し部屋のいたる所に備え付けていく。

「設計図通りに配置するんだ!」

「オイオイ・・・いったいキミらは何をしようというんだ!?」

山ヶ崎が困惑の表情で問うのを無視して斉藤は警官達に細かい指示を出す。

「そこ!16センチ右にずれてるぞ!」

「違う!テーブルにはマリーゴールドじゃない!バラだよ!」

「壁にはフックでヒマワリをかけろ!」

あっという間に部屋一面が花畑になった。

「これが今回のセキュリティです。オレが考えました。」

「ハハ・・流石、斉藤サンだなぁ〜」

その場で苦笑する刻。

「これが・・・こんな花を敷き詰めたモンがどう機能すると言うんだ!」

さっきから問い続ける社長に続き火我が口を挟む。

「アハハハ・・・ほーら、また言われた。」

「ユヅ・・・スミレを踏んでるぞ」

「あ、ゴメンナサイ・・・」

「なぁ・・・ボクの質問に答えてくれないか・・・・刑事さん?」

腰に手を当て少し声を張り上げる山ヶ崎。

「あぁすいません。」

「んで・・・?まさかこの花畑でキャンセラーを隠すとでも言うのかい?」

「イェッサー!社長の言う通りです。

このめくるめく可憐な花の世界にOMFキャンセラーを置きカモフラージュする作戦です。」

「・・・参ったねこりゃあ」

「更にこの花達の出す香りを嗅げば犯人達も犯行をする気を喪失するでしょう。」

「アハハハハ・・・それで?キミらは満足かい。

こんなちゃちい子供騙しで泥棒を捕まえようとしているんだね、そりゃーいい。秘密基地にはうってつけのセキュリティーだ。」

すかさず冷静に応対する斉藤。

その姿に恥ずかしさは微塵も感じられない。

「子供騙しではありません。設計は千生柳生流華道術師範の刈谷垣 祥子氏に監修してもらいましたので。芸術的及び防犯的にぬかりはありません。」

「あ〜もうわかったよ、好きにしてくれ〜。23時半まで自由に行動していいよ。但しそれまでこの部屋と会社の入り口にはサーモグラフィーをかけるからくれぐれも出入りしないようにしてくれよ。」

頭を抱えながらクタクタと部屋を出て行く山ヶ崎だった・・・・。

 

 

PM9:42

本庁に現場到着の報告をした火我と斉藤、2人を連れて休憩室の扉を開ける刻。

一番手近にあったソファに腰を下ろす。

「や〜これまた大胆な作戦スね〜斉藤サン。」

「ホント。何でこんな事思いつくのか分からないわ。アンタの作戦はいつも乙女趣味なのよー」

途中の自販機で買ったコーヒーを飲みながら火我が言う。

「オーロラ作戦、七夕作戦、ダイヤモンド作戦、宝塚作戦、シンデレラ作戦・・・・どれも上手くいったはずだ、問題無い。」

真顔で呟く斉藤を見て溜め息を吐く火我。

「にしてもあの警報、どうにかしてほしいモンね〜五月蝿くてかなわないよ。」

「火我サンはまだいいですよ。オレは2回聞いてるんですから。」

「多分・・・・もう一回聞くことになるだろうね・・・」

「ユヅ・・・OMFの調子はどうだ?試しにオレが今から何をするか当ててみろ・・・」

そう言い、ソファから立ち上がる斉藤。

「う〜ん・・・・」

目を閉じてじっと黙り込む火我。

「・・・・はぁっ?ってちょっとぉ!」

「いくぞ」

急にそれだけ言い、斉藤は懐から銃を火我に向かって放った。

部屋には防音工事がしてあるので外には聞こえない、その分、中に銃声が漏れる事なく響いた。

「なんつー事をするんだサイトーサン!!」

刻は咄嗟にソファの下に落ち込んで身の無事を確認するとまわりを見やった。

すると銃痕が放たれた全く逆の方向の壁に出来ているのに気付く。

「火我サン!大丈夫スか!?」

その場でうずくまる火我。

その手は前の四角いテーブルを掴んでいた。

「・・・調子は良いようだな・・・ユヅ。」

OMF「サキヨミ」で斉藤の行動を一手先読みしテーブルを盾にしたのだった。

「ったくアンタはいきなりぃ!」

そのままテーブルを斉藤の方へ放り投げる。

「うぉ・やっやめろぉーーー」

地面に轟音が響いた。

「ね、ねぇ?ウエに苦情がきたらどーすんですか二人共!」

「あ、あぁそーだね。また減給されたらたまらん。」

「斉藤サンもいきなり発砲するなんて常識超えてますよ!」

「オレの行動を先読みできていれば問題なかったはずだろユヅ?」

「そんなだからいつまでも二課から出られないのよアンタは。」

「別に出る気はない。」

「・・・あっそぉ・・・・・」

 

PM11:50

ワイドフューチャー社第2棟2階

OMFキャンセラーが安置されている銀色で固められた無機質な展示室も今では見る影もなく花畑。

社内のいたる所に警備員が配備されている。

廊下に8人

展示室の前に2人

その中には先程刻を尋問した警備員も含まれている。

そして部屋の中に二課所属の警官14名と斉藤が花の中に身を隠している。

全体がピリピリした雰囲気に包まれていた。

この3人を除いては。

「後8分30秒か・・・」

「ですねー」

時計を何度も見やる山ヶ崎社長。

かれこれ30分。

このやりとりを刻と山ヶ崎は30秒毎にやっていた。

そんな事を気にしない様子で火我は携帯でゲームをやっている。

そんな時、山ヶ崎が沈滞した時間を破った。

「そーいえば婦警サン・・・休憩時間にキミら何かやけに五月蝿くなかった?バキュンバキュンズコンドコン」

「え?イヤですわ。そんな」

(言えない・・・部屋で銃撃戦やって、テーブルぶん投げてたなんてっ・・・!)

「あ、ああ・・・そーだねボクとした事が。」

「ハハハ山ヶ崎サンの気にされるような事ではないんで・・・たいした事ないんですホント。」

事態を察知し必死にフォローしようとする刻。

「気が付かなかったよ、や、すまない。ベッドも用意してやれば良かったな」

「ぅぃえ?」

刻と火我、2人の声が重なった。

「まだまだだなぁボクも・・・」

額に手を当て何かに浸る山ヶ崎社長。

「ちょ、ちょっと社長?何か誤解なされてる様なんですけ・・・」

ジリリリリリリrrrrrrrrrrrrrrrrrr

 

PM12:00

「・・・って、来たぁッ!きっかり24:00きっかりッス!」

刻が警報ブザーを見上げ叫ぶ。

「まんまとハマったぞぉ!」

山ヶ崎が勝ち誇ったように言い放つ。

「捜査二課ぁ!総員、極に警戒せよ!意地見せてやんなぁっ!」

それまでと顔つきが変わり火我も呼びかける。

「犯人今どこ!監視カメラ!」

無線で情報伝達を図る山ヶ崎。

少しした後、応えが帰ってきた。

「ハ・・・ハイこちら1棟カメラ班。館内全て写っていますが、犯人グループ視認できません!」

「何だとっ、ウチのカメラ配置に死角があるとでも!」

それでもカメラ班はこう伝える。

「依然、現れる気配無しです!」

警戒心を掻き立てるブザーは鳴り続ける。

「クソぉ、これじゃあ犯人に侵入されてるかもっ!」

「社長さん落ち着いて下さい。」

興奮する山ヶ崎を火我がなだめる。

「そうッスよ、きっと来てます。何か分からないけど・・・そんな気がするんです。」

「八刀クン、あくまでも相手はこれから犯罪を行おうとしてるんだからね。

ソレ、忘れないで。」

「あぁ・・すんません不謹慎な事言って。」

「こっこちら1棟カメラ班!2棟5階の廊下に犯人グループと思われる3名を視認っ!し、視認しました!」

「やはり屋上の方からの侵入ぅぅぅ、カメラ、顔は!?」

山ヶ崎が目を最大限に見開いた。

「いえ、全員覆面をしていて分かりません。でも小柄なのが2人、もう1人は天井に届きそうな大男です!」

「でも侵入してからカメラに写るのに結構時間差ないスか?」

じっと身構える火我の背後でふと呟く刻。

「そういえば・・・そうね・・」

何かを思考する時右手を口に当てるクセのある火我。

それが今、その時だ。

「そんなこたぁどーでもいいぃっ!諸君、スマートに捕獲し給えっ!スマートに!」

手を広げ高らかに言い放つ山ヶ崎。

それはまるで映画に出てくるギリシア軍のジェネラルの様である。

 

 

「侵入してからもう5分経つしね・・・・」

 

 

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